カーゴニュース 2024年11月28日 第5296号

インタビュー
都心に近い立地活かしたビジネス展開を
倉庫業の魅力発信、人材確保を支援
東京倉庫協会 会長 藤井信行 氏

2024/11/27 17:00
倉庫・物流施設 インタビュー 団体

 人口の増加傾向に加え、訪日外国人の消費も活発な巨大都市圏、東京――。東京港、羽田空港という国内有数の物流拠点を背後に抱え、国際物流、国内物流の中心地でもある東京圏の倉庫業を取り巻く事業環境と課題について、東京倉庫協会の藤井信行会長(安田倉庫会長)に聞いた。

 (インタビュアー/石井麻里)

 

 

直面する新たな課題に業界全体で対応

 

 ――6月10日の総会で会長に就任しました。協会運営の方針からお聞かせください。

 

 藤井 一般社団法人である日本倉庫協会とは異なり、東倉協は任意団体であり、会員が情報交換し、親睦を深めることが活動のベースにあります。「2024年問題」を契機として物流が注目され、一方では課題が山積している中、会員同士がお互いに連携を深め、個々の企業が抱える課題の解決に少しでも貢献できるような協会活動にしていきたいです。私自身、この業界に来てまだ8年目であり、会員の皆さんに教わりながら、業界が良い方向に進むように頑張っていきたいと思います。

 

 ――トラックドライバーの労働時間規制が強化される「2024年問題」がスタートし、半年が経過しましたが、倉庫業への影響はいかがですか。

 

 藤井 今のところ大きな問題は起きていません。倉庫は荷主とトラック事業者の中間に位置します。間に挟まれてそれぞれの事情のしわ寄せを受けがちですが、それは本意ではありません。倉庫業界も人手不足の問題を抱えている中で「2024年問題」が始まり、来年以降、改正物流効率化法が順次施行されます。難しい時期にさしかかっていますが、倉庫業の現実を踏まえながら、直面する新たな課題に業界全体で対応できるよう東倉協としても会員をサポートしていきます。

 

 ――コロナ禍が収束し、サプライチェーンもほぼ正常化しました。物価の上昇、インバウンドの回復といった環境変化もありますが、足元の荷動きについてお聞かせください。

 

 藤井 今年は猛暑の影響で飲料の取り扱いが好調で、5~7月は数量ベースで入庫、出庫とも3割の伸びを記録しました。毎年夏は飲料の取り扱いが増えますが、今年は例年以上のレベルです。電気機械、雑品も前年比で1~2割増えています。一定の入出庫があるため、保管残高はほぼ横ばいとなっています。

 

 普通倉庫21社統計(1~7月)を見ても、出庫は数量ベースで前月比13%増、前年比6%増、金額ベースで前月比21%増、前年比21%増となっており、全国的にも出庫の回復が見られます。金額の伸びが数の伸びを上回っているのは、物価の上昇が反映されていることが考えられます。全般的に荷動きが回復傾向にあるのはたしかですが、出庫がものすごく活発で景気がいい――ということではないと感じています。

 

人件費の高騰と人手不足のダブルパンチ

 

 ――人件費の上昇をはじめ倉庫運営にかかるコストが上昇し、倉庫業の景況感を下押ししています。

 

 藤井 最低賃金が年々上昇して人件費が上がり、検品や流通加工も含めた倉庫の現場作業職の採用はかなり難しくなっています。とくにフォークリフトオペレーターの採用は相当厳しい状況です。事務職も一人が辞めてしまうと、次の人の採用が難しいと聞いています。賃上げしなければ採用ができず、人件費の高騰と人手不足のダブルパンチとなっています。大手倉庫会社でも新卒採用は他業種との競争が激しくなっており、初任給を引き上げなければ学生に選ばれません。会社の規模を問わず、倉庫業界全体としての人材確保は容易ではありません。

 

 パートタイマーの確保では、物流不動産との競合も見られます。デベロッパーが建てる物流施設にはカフェテリアやコンビニ、保育所が併設されていたり、施設によっては空調も完備されています。営業倉庫ではそうした施設・設備を用意するのは難しく、同じエリアで物流不動産の施設にパートタイマーを取られてしまうことがあります。

 

 ――トラックドライバーの人手不足は割と社会的に認知されていますが、倉庫業界の人手不足については実態がわかりにくいところがありますね。

 

 藤井 東倉協の調査委員会で新入社員の離職率などについて調査を行いましたが、「離職」以前に、「採用」に課題を抱えていることがわかりました。東倉協として倉庫業の魅力を発信し、会員倉庫の人材確保を支援していきたいと思います。物流の重要性は認知されてきていますが、業界として対外的な情報発信が足りていません。たとえば東倉協のホームページについても、倉庫を利用する皆さんの目にもっと触れるように、3年後の設立80周年に向けてリニューアルを予定しています。協会活動としては、倉庫業を担う人材育成や研修の充実、女性活躍の推進にも力を入れていきます。支部の活動として、各社の女性職員による意見交換会、懇親会といった活動が始まっており、これを支部横断的な活動にしていくことを目指します。

 

 ――倉庫業の人手不足の解決策として「外国人労働者の活用」や「DX」が期待されています。

 

 藤井 日倉協では、外国人特定技能への職種追加を目指し、「外国人就労調査チーム」を設置して取り組んでいるところです。検討が始まったばかりですが、現場の労働力不足を解消するには、外国人労働者の活用を考えていかざるを得ないと思います。また、省人化・省力化に向けて、機械化、ロボット化、AIの活用を進めている倉庫会社も増えてきていますが、大きな投資となります。国の補助金を利用するにしても、申請にあたって事業計画書を作成しなければならないなど、中小の倉庫にとっては負担が大きいです。DXを進めていく必要はありますが、倉庫現場の人手不足に対する現実的な解決策になっているとはまだ言えません。東倉協としては、中小倉庫会社のDXの一助となるよう、他社の導入事例や導入しやすい機器などの情報提供に力を入れていきます。

 

 ――DX化を図るうえでは「原資」も必要です。

 

 藤井 倉庫業界として物流効率化に取り組むことと併せて、人件費や光熱費の上昇分をお客様に価格転嫁していく必要があります。通販の「送料無料」表示が問題になりましたが、物流にコストがかかっていることをお客様や社会に理解してもらうための努力が必要です。個々の企業では、価格改定のお願いが営業マンの大きな役割のひとつになってきています。倉庫業は運送会社と荷主との板挟みの立場にあり、競争もある中での価格改定は簡単ではありませんが、お客様との交渉を継続していくことが重要です。

DX推進に向け視察研修も行っている
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