カーゴニュース 2024年11月28日 第5296号

インタビュー
都心に近い立地活かしたビジネス展開を
倉庫業の魅力発信、人材確保を支援
東京倉庫協会 会長 藤井信行 氏

2024/11/27 17:00
倉庫・物流施設 インタビュー 団体

建築費高騰、事業拡張のハードル高く

 

 ――東京地区の倉庫特有の課題はありますか。

 

 藤井 東京に限ったことではありませんが、地価や建築費が高騰しています。人手不足の状況から考えると、今後、建築コストが下がることは考えにくく、特に東京で倉庫会社が新たに倉庫を建てるのは至難の業で、事業拡張のハードルはかなり高いと言えます。都内でデベロッパーが建設した物流施設は、土地の取得価格が相当高いと聞いており、倉庫会社にはとても手を出せないレベルです。

 

 ――デベロッパーは近年、都心部で比較的小ぶりの物流施設を開発しています。そうした施設を活用することも考えられると思いますが、賃料がネックとなりそうですね。

 

 藤井 土地の建築費の高騰はデベロッパーも同じ条件ですから、当然、投資に見合った賃料が設定されます。営業倉庫がそうした施設を借りて、オペレーションを行って採算がとれるかというと、どのような荷主の商材を扱っているかにもよると思います。付加価値が高く、物流コスト負担力のある商材を扱うのであれば採算が合うかもしれませんが、そうした商材は限られており、営業倉庫が扱う“主流”の商材にはなりにくいのではないでしょうか。

 

 ――東京は一大消費地であり、その地盤で事業展開している倉庫会社の強みもあると思いますが。

 

 藤井 東京地区の倉庫は湾岸部にある倉庫だけでなく、内陸部の倉庫も都心までの距離は、郊外の地域の倉庫に比べると格段に近いです。最終需要地に近いエリアに倉庫を保有している強みを活かしたビジネスが考えられます。たとえば、都心の店舗に納品する機械を倉庫で組み立てたり、倉庫にスタジオでの撮影機能を持たせたり、新製品のラボや開発拠点のような倉庫の使い方も考えられます。また、羽田空港は都心から最も近い空港であり、緊急性が要求される荷物は東京地区の倉庫に優位性があります。都心に近い立地を活かせる仕事を獲得できるかどうかが、事業拡張のカギとなると思います。

東京の倉庫は東京港、羽田空港から至近にある

改正物効法対応、円滑な価格転嫁が不可欠

 

 ――倉庫業が抱えている課題の解決に向け、行政への要望はありますか。

 

 藤井 東倉協は東京都と災害時の協力協定を締結しており、災害時における緊急支援物資の保管施設として30数社が登録しています。地震、豪雨などの自然災害が頻発化しており、また、富士山が噴火すれば降灰により東京の首都機能がマヒする可能性もあります。BCPに関して東京都との一層の連携強化が求められます。

 

 ――改正物効法に対するご意見は。倉庫業への税制面での支援という建て付けから、荷主や元請に対する規制的側面が強まっている印象ですが。

 

 藤井 改正物効法に、「荷主も物流効率化の当事者である」という考え方が盛り込まれたことは大きいと思います。一方、物効法と倉庫税制の関係で言えば、令和8年まで倉庫税制の延長は決まっていますが、さらなる延長は厳しい交渉になると予想されます。倉庫業界で物効法の効率化計画認定件数が伸び悩んでいることも背景にあります。倉庫業界として、物流効率化をいままで以上に推進する意思表示と併せて、税制優遇や財政支援を要望していく必要があります。

 

 改正物流法では、物効法で荷主や一定規模以上の物流会社、貨物自動車運送事業法でトラック事業者がそれぞれ義務を課され、判断基準に基づき対応していかなければなりません。倉庫業界はトラック業界に比べロビー活動が弱く、たとえば、トラック事業者に対し悪質な荷主を指導する「トラックGメン」は創設されたのに、倉庫業者に対し悪質な荷主を指導する「倉庫Gメン」はありませんでした。日倉協で「トラックGメン」でなく、「物流Gメン」という名称に変えてほしいという要望を行ってきたところ、このほど「トラック・物流Gメン」へと改組がなされ、倉庫からの情報収集も可能になりました。

 

 また、トラックには国が定めた「標準的な運賃」がありますが、倉庫の保管料にはそうした目安がありません。一部では、トラック業者がバラ積み貨物の荷卸し作業を断るケースも出てきており、今後、倉庫側の負担が増える懸念もあります。倉庫業界として改正物効法にしっかり対応していくためにも、荷主への価格転嫁が円滑に行えるように行政のサポートを期待します。

日倉協副会長として国交大臣との意見交換会に参加

 ――最近では、「営業倉庫」と「物流不動産」、「寄託型」と「賃貸型」のトランクルームの業際があいまいになってきています。こうした状況についてご意見はありますか。

 

 藤井 物流不動産が展開し始めている、「倉庫業的な業務」について安易に認めることがないよう日倉協として国交省に要望し始めています。倉庫会社は物流不動産を借りてビジネスを行っており、こうした“共存関係”は維持していく必要がありますが、営業倉庫に登録している倉庫と、物流不動産が行う倉庫業的な業務を区別してほしい――という考え方が基本です。

 

 トランクルームに関しても、利用者からすると倉庫業の寄託型トランクルームと、スペース貸しのトランクルームの違いはわかりにくいかもしれません。倉庫会社が展開するトランクルームの多くは、国の認定を受けた「優良トランクルーム」であり、セキュリティの整った管理体制で保管し、約款や倉庫会社の責任の範囲を定めています。こうした違いを利用者に対し明確に示していく必要があると思います。

 

 

藤井 信行(ふじい・のぶゆき)

 1959年3月10日生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、82年4月富士銀行入行。2018年6月安田倉庫社長、24年4月1日から会長。24年6月10日東倉協会長。日本倉庫協会副会長も務める

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