カーゴニュース 2024年9月26日 第5278号
日用品メーカー13社と物流事業者12社で構成される日用品物流標準化ワーキンググループ(WG)は、「ロジスティクスEDI」(電子データ交換)を通じてASN(事前出荷情報)を活用することにより、卸会社への商品入庫における「検品レス」「伝票レス」を推進している。共通の情報基盤を活用して物流情報を共有することで、納品伝票を電子化。伝票の受け渡し業務を削減したほか、トラックドライバーの検品立ち会いを省略し、労働負荷軽減や作業時間短縮につなげるものだ。この取り組みにより、経済産業省の製・配・販連携協議会が主催する「サプライチェーンイノベーション大賞2024」を受賞。今後は、蓄積データを利用したさらなる物流効率化も進めていく。
データ連携へ「ロジスティクスEDI」運用を推進
WGは、日用品メーカーとその物流を担う物流事業者が共通課題を協議する場として2016年に発足。共同物流に関する課題の共有や卸・小売を含めた物流生産性向上に関する取り組み事例の研究をおもな活動とする中で、外装表示やユニットロードの標準化に関する検討を重ねてきた。22年1月には「日用品における物流標準化ガイドライン」を策定。23年12月には、日用品業界による自主行動計画を作成・提出した。
物流効率化に向けたWGの特徴的な取り組みが、業務のデジタル化や業界物流情報基盤の整備を視野に入れた、物流データ連携による現場の業務改革だ。共同物流をさらに進めていくには、業界標準の物流モデルを構築する必要があり、業界各社の物流データを連携するため、プラネットが提供する業界標準の物流EDI基盤(ロジスティクスEDI)の運用について、19年から検討を進めてきた。
20年2月には、業界とプラネットによる議論を踏まえて「ロジスティクスEDI概要書」を取りまとめて発表。21年にWGでASNを活用した伝票レス・検品レスの標準業務モデルなどについて検討が行われ、22年にメーカーと主要卸会社でASNの送受信テストおよびASNを活用した荷受け作業の運用テストを実施し、実運用化に向けた課題抽出を行った。
日用品業界はかねてから、共同物流に向けた活動に注力しており、1989年には複数のメーカーなどが出資して共同物流の運営会社であるプラネット物流を発足。同社は2016年に解散しているものの、WGのメンバーは同社に参加していた企業を中心に結成されているという経緯がある。
WGの事務局を務める流通経済研究所特任研究員SCMプロジェクトリーダーの河野淳氏は「日用品業界では、長らく共同物流に取り組んできた実績から、データ連携による物流効率化に向けて下地はでき上がっており、ロジスティクスEDIの運用はこれまでの活動の延長線上にある」と説明する。
物流情報のデジタル化で事務作業を効率化
従来の業務フローでは、メーカーから卸会社へと商品を納品する際、配送事業者が商品とともに、紙の納品案内書を持参していた。その後、卸会社が納品案内書の明細を参照しながら入荷検品を行ったうえで商品を保管。配送事業者は物品受領書に受領印を捺印してもらい、メーカー側の拠点へと持ち帰って保管していた。
今回の受賞事例では、納品案内書のデータをASNに置き換え、ロジスティクスEDIを通じてデータを交換することにより、これまで紙媒体でやり取りしていた物流情報をデジタル化。発着拠点における事務作業を効率化する「伝票レス」の実現に向けて取り組んだ。
併せて、検品作業におけるドライバーの立ち会いを省略する「検品レス」も可能になった。河野氏は「従来から、他業界では個社間におけるASNの利用はあったが、WGでは日用品業界全体で利用した」と意義を強調し、サプライチェーンイノベーション大賞の受賞について、「ASN活用の普及につながることが評価されたと考えている。業界全体で意図して取り組んでいたこともあり、受賞はとても喜ばしい」と語る。
伝票発行時間を3割、入庫作業時間を5割削減
ASN活用による伝票レスの出庫側(メーカー) の実証は、23年5月にライオンの物流拠点である茨木RC、北関東RCなどで行った。従来は納品伝票の発行に、1日あたり52分、パレット伝票の発行は17分ほどかかっていたが、納品情報の電子化によりその作業時間を丸ごと削減。配送ドライバーへの納品指示のため、配送先や商品小口数などを記載した「納品レポート」(配送指示書)の発行作業が24分ほど必要になったものの、1日あたりの伝票発行に係る作業時間の約3割削減に成功した。加えて、ペーパーレス化により、プリンターや伝票保管スペース・費用の削減効果も見込めるという。また、ドライバーが取り扱う帳票類が削減され、紛失リスクの軽減なども期待できるとしている。
入庫側(卸会社)の検証は22年2月からライオン~大手卸会社間で実施した。従来の荷受け工程では、届いた荷物の発注ナンバー確認や伝票への押印作業が行われていたが、ASN送信により、これらの作業が不要となった。加えて、荷物のトータル数量が納品レポートに記載されているため、数量チェックも容易になった。これにより、SKUあたりの入庫作業に係る時間を約5割削減した。
さらに、荷受け作業の時間短縮により、トラックの荷待ち時間も削減。卸売側のバースの稼働率が向上し、従来はバースの予約枠を30分ごとに設定していたが、現在は10分枠での設定を実現している。また、入荷検品時における賞味期限管理品の日付入力作業も削減。従来は商品外装に記載されていた賞味期限をシステムに手入力していたが、ASN情報に付加している賞味期限情報を自動反映できるようになった。
また、ASNの活用により納品時における検品レス(ドライバーの検品立ち会いを省略)を実現。ASN導入前は、ドライバーは検品後の伝票を受け取らなければならなかったことから、検品が終わるまで立ち会う必要があった。しかし、伝票が不要となったことで、ドライバーは荷降ろし後、納品レポートに押印してもらえば、現場から退出できるようになった。これにより、ドライバーの負担軽減につなげただけでなく、納品車両の滞留削減にも効果をもたらしている。
協議会設立で行政・関連団体との連携強化
これらの実証結果を受け、エステー、牛乳石鹸共進社、小林製薬、サンスター、ユニ・チャーム、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス、フマキラー、ライオンのメーカー8社と、あらた、PALTACの卸会社2社によるASNの実運用を23年8月に開始した。その後、ASNは発信元が14社、受信先は3社まで拡大。現在は日用品関連だけでなく、OTC医薬品関連やペット用品など、複数の卸会社がテスト運用を進めているという。検品レスについてはすでに実運用を開始して運用拠点を拡大中。伝票レスはまだ試行段階だが、順次実運用を進めていく予定だ。
ASNの活用にあたり、メーカー、卸会社、物流事業者の三者間で物流サービス基準を明確にして業務の標準化を進めるため、WGは関連団体である全国化粧品日用品卸連合会の意見も参考にしつつ、伝票レス・検品レス運用の業務・取引の指針となるガイドラインを策定した。基本的な運用方法はもとより、トラブル発生時の対応法も示しており、WGではこのガイドラインが、日用品のみならず食品を含めた消費財全般の参考になるものと捉えている。
また、取り組みの拡大をさらに推進するため、大手日用品メーカー14社は5月に「日用品サプライチェーン協議会」を設立した。各日用品メーカーの代表取締役クラスの経営層が活動に直接関与する機関であり、これまでの活動はメーカーの物流担当者が主体となって取り組んでいたが、トップマネジメント層がコミットする活動であることを内外に示すことで、取り組みをアピールし、加速したい考えだ。また、日用品メーカーの窓口を一本化した業界の代表団体として、通事業者や物流事業者、関連団体、行政との連携を強化していく。
蓄積データの分析・活用でさらなる物流効率化へ
ロジスティクスEDIの今後の展開として、卸会社側の商品受領の情報となる入荷検収データの運用に向けたテストの開始を予定している。メーカーが送ったASNに対し、卸会社が入荷検収データを返送することで、配送指示書の発行・押印作業を削減し、さらなる効率化を図る。また、EDIに蓄積した各社の配送情報の分析・活用を通じて、共同配送の領域にとどまらない、より幅広い協働の取り組み(協調物流)につなげることで、配送の最適化が実現できると見込む。
新たな取り組みとして、WGのうち複数社が経済産業省の23年度「流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業(事前出荷案内情報のデータ連携による物流面での企業間の協調促進)」における「ASNデータによる協調物流の実証」に参加した。蓄積したASNデータを分析することで共同輸配送など企業間の協調物流を実証し、導入パターンや論点、対応策などを整理するもの。その一環として大阪地区のメーカーの複数出荷拠点から鳥取地区および四国地区の卸会社の拠点までの混載便による長距離配送を実証したほか、埼玉地区内でも混載便輸送を行い、協調物流の実運用に向けて課題を抽出した。
従来は共同配送を前提に、特定の拠点へ在庫を持ち込む方法だったが、今後は時間や距離などのデータに基づいた効率的な配送計画の策定や積載率の向上が可能になるとし、河野氏は「これまで見えていなかった枠組みでの取り組みが実現できる可能性があり、物流改革の大きな目玉になると考えている」と語る。
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