カーゴニュース 2024年10月31日 第5288号
サントリーグループは持続可能な社会の実現に向け「環境ビジョン2050」を掲げ、2050年までにバリューチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出の実質ゼロを目指している。中期的指針の「環境目標2030」では、30年までにグループ拠点でのGHG排出量の50%削減、バリューチェーン全体におけるGHG排出量を30%削減(19年比)することを目標に掲げた。この方針に基づき、グループの物流を担うサントリーロジスティクス(本社・大阪市北区、武藤多賀志社長)は輸配送業務と倉庫業務の両面からGHG排出削減に注力し、様々な取り組みを実施している。
昨年からは再生可能資源に由来する「バイオディーゼル燃料」を自社トラックで使用する取り組みを本格的にスタートした。サントリーロジスティクスの車両関連の環境対策では、社用車に電気自動車(EV)を順次導入する取り組みも始めているが、GHG排出量の一定程度を占める物流部門の一層の環境対応が重要との認識のもと、バイオ燃料車の使用とともに、今後は実車率の向上や配車計画の効率化により車両の総走行距離を削減する取り組みを加速することでGHG排出量のさらなる削減を推進する考えだ。
〝環境にやさしい〟トラック輸送の普及へ
トラックに使用するバイオディーゼル燃料は一般的な軽油と比べて燃費効率は同等で、実証試験を通じて本格運用の手ごたえを得たことから、昨年5月に大阪エリアで「バイオディーゼル燃料(B30/混合率30%)」を使用した大型トラック2台での実証試験に参画。今年2月には神奈川エリアで「リニューアブルディーゼル燃料(RD)」を使用した大型トラック1台の運行が始まっている。
同社で環境推進プロジェクトを主導する執行役員安全推進部長の田村智明氏は「グループ全体でGHG排出量を50%削減するというミッションに、当社がどのように貢献できるかを検討していくなかで、トラックにバイオ燃料を使用する取り組みを始めた。リニューアブルディーゼル燃料は次世代バイオ燃料の一種で、廃食油など植物由来の原料から製造する。石油由来の軽油を使用した場合と比べGHGを約90%削減できるなど環境性能に優れている」と述べ、「中長期的にはFCV(水素燃料電池車)などの導入も視野に入れており、技術革新の動向を見極めながら、バイオディーゼル車、リニューアブルディーゼル車、FCVなどそれぞれの長所を活かしながら、輸送協力会社とも連携しながら、環境にやさしいトラック輸送の普及を図っていく」と取り組みの意図を説明する。
バイオ燃料使用で実運行を展開
現在、同社が推進するバイオディーゼル燃料を使用する取り組みは、2つの方向で実施している。ひとつはリニューアブルディーゼルの世界的メーカーであるフィンランドのネステ社が開発した「NRD」を使用する取り組み。もうひとつは燃料油事業を展開する富士興産が提供する「高純度バイオディーゼル燃料=ReESEL」を燃料として使用する取り組みだ。サントリーロジスティクスは22年に複数の企業と共同で「NRD」を使用した輸送実証を実施。大幅な削減効果が認められたことを受け、今年2月から神奈川車庫の車両で「NRD」を使用した車両を1台運行している。また、昨年5月から南大阪支店のトラック2台が、「ReESEL」を30%混合したB30バイオディーゼル燃料を使用した1年間の実証試験を経て、今年5月から「ReESEL」を5%混合したB5バイオディーゼル燃料を使用した運行を行っている。
安全推進部課長(環境推進担当)の山田智史氏は「バイオディーゼル燃料は既存のディーゼルトラックに使用することができる」と利点を強調する。一方で、近年バイオディーゼル燃料への需要が高まり、供給量不足の可能性も生じていることから供給量不足のほか、ネステ社の「NRD」が輸入燃料であることも踏まえ、安定的な調達を実施する観点から「NRD」のほかに国産バイオディーゼル燃料を導入することを決定。検討の過程で、石油製品・燃料油を販売する富士興産と「高純度バイオディーゼル燃料B30」の実証実験を行った。その結果、運行に支障はなく、高いGHG削減効果も認められたことからバイオディーゼル混合燃料の導入を決定した。「B30」は軽油に高純度バイオディーゼル燃料「ReESEL(リーゼル)」を30%混合したもので、通常の軽油と同等のエネルギー効率を発揮する性能がある。
今年5月から南大阪支店のトラック2台が、「ReESEL」を5%混合したバイオディーゼル燃料「B5」を使用し、サントリー製品の輸送を行っている。
廃食油を活用し「サーキュラーエコノミー」を実践
一方でバイオディーゼル燃料の使用には課題もある。バイオディーゼル燃料の原料には廃食油などが用いられているが、調達できる廃食油の総量は国内でもまだ十分ではないのが現状だ。そこでサントリーロジスティクスはグループや関係会社の協力を得て、廃食油を調達・利用する「サーキュラーエコノミー」の構築に取り組み、昨年10月から運用を開始した。具体的には、①自社物流拠点(従業員の家庭から出る使用済み食用油)やグループの工場食堂から廃食油を回収業者が回収②回収した廃食油をバイオディーゼル燃料の精製・加工に利用③精製・加工されたバイオディーゼル燃料をサントリーロジスティクスの自車トラックによるサントリー製品の輸配送に使用――というシステムを構築した。
安全推進部(環境推進担当)の西村和世氏は「サーキュラーエコノミーは、従来の3RReduce=リデュース、Reuse=リユース、Recycle=リサイクル)の取り組みに加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すもの。バイオディーゼル燃料の原料となる廃食油を調達・回収し、精製されたバイオ燃料を使用して自車トラックが配送するという好循環を構築できた」と語る。同社はこの「サーキュラーエコノミー」のスキームのもと、廃食油を年間約9万ℓ回収し、廃食油から精製・加工したバイオディーゼル燃料「B5」を使用する自車トラック2台は年間約5tのGHG削減を実現している。廃食油の回収は、サントリーロジスティクスだけでなく、グループの事業会社各社も協力。また、物流拠点や工場からの提供に加え、関連する学校からも廃食油の提供を受けるなど、全国各地に廃食油の回収先となる「油田スポット」を展開している。今年9月時点で全国16拠点を数える。
西村氏は「調達・回収により新たなメリットも生じている。各拠点で資源のリユース意識が高まり、グループ目標であるGHG排出削減の意識づけが強まった。当社が『サーキュラーエコノミー』を推進することで、グループ全体の環境意識の底上げにもつながることを期待している」と意欲を示す。
倉庫業務でのGHG排出削減も進捗
サントリーロジスティクスのGHG排出削減の取り組みは、輸送分野にとどまらず、倉庫分野でも様々に展開している。およそ10年前から一部拠点でのLED照明の導入を始めたほか、近年では、22年からフォークリフト(FL)の鉛バッテリーをリチウムイオンバッテリーと再生バッテリーに切り替える取り組みが進行中だ。22~30年まで鉛バッテリーを使用し続けた場合と比べ、バッテリー製造時に約3割の温室効果ガス排出量を削減できる見込み。また、昨年から順次「浦和美園配送センター」「堺第一配送センター」「沖縄豊見城配送センター」の3拠点の倉庫内照明に人感センサー(アイキュージャパン社製)を導入。センサー設置エリアでは設置前よりも消費電力を約6割抑制でき、年間ベースで約118tのCO2排出削減を見込むほか、他拠点への展開も進める。同社は今後も輸送・倉庫の両面で着実なGHG削減の施策を積み重ね、グループの環境目標の達成にチャレンジしていく。
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