カーゴニュース 2024年11月19日 第5293号
荷主と物流事業者の不適正な取引への行政の監視が強まっている。国土交通省は今月1日、「トラックGメン」を「トラック・物流Gメン」に改組するとともに、体制を増強し、倉庫事業者からの情報収集もスタート。また、公正取引委員会では、荷主と物流事業者の取引を下請法が適用できるように下請法改正に乗り出す。「2024年問題」をきっかけに、荷主に対し立場の弱い物流業界という構図は変化しようとしている。
法改正で規制的措置、荷主に“責任”
4月からトラックドライバーの時間外労働に上限が適用され、いわゆる「2024年問題」が始まった。ドライバーの賃上げ原資の確保や物流の生産性向上を図るとともに、荷待ち・荷役時間の短縮、多重下請構造の是正を進めるため、荷主・物流事業者に対する規制的措置を導入する改正物流法が5月15日に公布され、順次施行となる。
改正法ではすべての荷主、物流事業者には物流効率化への努力義務が課せられ、このうち一定規模以上の荷主、物流事業者には物流改善に関する中長期計画の作成が義務づけられる。さらに、一定規模以上の荷主には、物流改善に関し経営的責任を果たす「物流統括管理者(CLO)」の選任が求められる。
ある大手荷主の経営幹部は改正物流法について「完全に潮目が変わった」と見る。「トラック業界はいまや“課題産業”と位置付けられ、政府をあげて各種施策を打ち出している。政策の様相が変わり、荷主、元請けがそれぞれの責任を果たす義務が課せられ、かなり締め付けが厳しくなってくる印象だ」と話す。
倉庫を隠れ蓑とした悪質荷主にも是正指導
荷主に対する「締め付け」は法施行前から厳しくなりつつある。国交省は11月1日、悪質荷主への指導を行う「トラックGメン」を「トラック・物流Gメン」に改称し、体制を強化した。昨年7月の発足時の162人に加え、地方運輸局の物流担当職員29人が新たに「倉庫担当Gメン」として選任された。
「倉庫担当Gメン」は、是正指導や改善要請を受けたことのある倉庫事業者にヒアリングし、長時間の荷待ちなどの違反原因行為が倉庫事業者ではなく、荷主に起因することが認められた場合、当該荷主に対して是正指導を行う。つまり、倉庫を隠れ蓑とした悪質荷主にも責任を追及できるようにする。
「トラックGメン」は貨物自動車運送事業法に基づく荷主への是正指導の実効性を高める目的で設置された経緯があり、倉庫への関与の範囲はあくまでも「トラック事業者に関わる違反原因行為」に限られるが、倉庫関係者からは「今回の『トラック・物流Gメン』への改組は倉庫に目を向けさせる取り組みの第一の矢だ」と期待を寄せる。
関係機関が連携、“通報窓口”が続々登場
悪質な荷主に関する関係機関の情報収集体制も拡充している。厚生労働省は都道府県労働局に「荷主特別対策チーム」を編成。厚労省ホームページに「長時間の荷待ちに関する情報メール窓口」を設置し、そこに寄せられた発着荷主等の情報や労働基準監督署が監督指導時に把握した情報に加え、労働基準監督署が要請を実施した発着荷主等の情報を国交省に提供する。
公取委は、「買いたたき」などの違反行為が疑われる親事業者に関する情報を受け付ける「労務費の転嫁に関する情報提供フォーム」を開設。公取委と中小企業庁は、中小事業者等が匿名で情報提供できる「違反行為情報提供フォーム」を設置。中企庁は、下請取引の適正化を推進する「下請かけこみ寺」も設けている。
公取委は物流取引のさらなる適正化に向け、下請法の改正に着手している。これまで荷主と物流事業者の取引については、独占禁止法上の荷主の優越的地位の濫用を規制する「物流特殊指定」を運用していた。荷主と物流事業者の取引にも、下請法を適用できるようにし、不適切な取引への執行体制を強化する構えだ。
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