カーゴニュース 2025年7月3日 第5352号

貨眺富営307
「みんな雨の中」
中田信哉
(神奈川大学名誉教授)

2025/07/03 07:00
全文公開記事 コラム・寄稿

かたつむり甲斐も信濃も雨の中 

               龍太

 

 ローンのない家もある。年金でどうにか食える。細々と仕事をしているので退職金も少し残っている。旅行もせず、余計なものは買わない。典型的な中流家庭のなれの果てであります。結構、満足している。たまには鰻や寿司を夫婦で食べに行く。

 

 ある人が現在の日本の社会階層としては富裕層(準富裕層)が10%、貧困層(準貧困層)が10%で、残りの80%が中間層(ミドル)だと言っていた。この中間層は20%がアッパーミドル、20%がローワーミドル、残りの40%がミッドミドルだそう。一昔前、「大衆消費社会」とか「1億総中流」と言われたもの。このミッドミドルが下ぶりになりつつある。現在のアメリカがそういう状況になってきて、これがトランプさんを生んだ。

 

 アメリカでは1900年代初めからミドル層が強大になり、それが大量生産大量販売の高度消費社会を作り出し、集約農業を巨大化させた。1900年代末、日本のプロ野球にやってきた助っ人たちの将来の夢は「日本で稼いだお金で牧場を買う」というものでした。バースは確かそう言っていた。これらが給与所得と雇用安定を実現し、それがアメリカの消費需要を維持するミドル層を作り上げた。日本も同じで働く人の9割が給与所得者となり、それをミドルと呼んだのです。

 

 それが崩れようとしている。トランプさんの基盤はこのミドル、特に現在でもアメリカ人の最大部分である低学歴低技能の白人労働者の不満です。彼らの雇用を高め、失業者をなくし、そのために中南米やアジアからの移民は抑えるということでしょう。そこでアメリカの工業を復活させる。しかし、アメリカでは一部の戦略分野を除く工業の復活は無理ではないか。すでにこうしたアメリカの工業は技術の蓄積・開発力はなく、熟練者の枯渇、労働集約性の限界、人件費アップ、高学歴高技能の人たちの忌避などの理由でいくら高い関税をかけたり、外国からのアメリカへの投資と現地生産を促しても工業はロボット・AIの活用、省力的生産で雇用の受け口とはならない。アメリカの物価を上げるだけ。一方、農業も多くの移民労働力に頼るので、たとえ不法移民でも必要とする。農業を発展させれば移民は増える。ここに低学歴低技能の白人はまず行かない。この100年続いたアメリカ発祥の大衆消費社会がベースのマス経済体制が変わることになる。

 

 一方、これもアメリカのお家芸の「他人を働かせてその上前をはねる」という「金、情報をいじくり金を生む仕事」だけがGAFAを代表として発展し、富の集約が始まる。『ブルーグラス』(松柏社)や『フォークソングのアメリカ』(南雲堂)という本を読めば大西洋側の東部から南部に連なるアパラチア山系とミシシッピー川沿いに遅れて入ってきたアイルランド、スコットランド、そしてイタリア系白人開拓民がいかに貧しい開拓地から地方都市の工場に移ってきたか書いてあるのです。1900年代に入ってアメリカの工業が貧しい白人労働者にとってどうだったのかがわかります。そして、トランプ時代の混乱の行く末は? でも、日本への影響は、そして、日本の「物流」と「国内流動量」にどう関係するのか気になります。

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