カーゴニュース 2026年10月13日 5474号
上野グループの上野トランステック(本社・横浜市中区、上野孝会長兼社長)は5日、同社が保有・運航する、世界初となる水素専焼エンジンを搭載した内航タンカー「輝光丸(きこうまる)」の船内見学会を横浜で開催した。当日は海運関係者などが、船員用の居室、船長室、食堂、浴室などの居住空間のほか、船橋、荷役制御室、基幹制御室などの各種設備を見学し、乗組員が説明を行った。
同船は日本財団が内航分野のカーボンニュートラルを目指して進めている「ゼロエミッション船プロジェクト」の一環として造船され、出光興産(本社・東京都千代田区、酒井則明社長)の専航船として運航する。全長104・93mで、総トン数は約4500t、積載量は約5000kL。福岡造船の長崎工場で昨年10月に竣工した。
上野トランステックは同船を「次世代の海上輸送を担う重要な船」としたうえで、コンセプトとして「ひとにやさしい船/環境にやさしい船」を掲げている。最大の特徴として、水素燃料などの新エネルギーの将来的な利用を見据えた設計となっており、上甲板に40ftコンテナサイズの水素エンジンユニットと圧縮水素タンクを搭載。水素発電によるモーター航行を可能としている。9月25日に大阪湾で行われた実証航行では、約2時間、約33㎞の航行に成功し、約1・2tのCO2排出量削減を達成した。通常の航行では、推進用電力としてエンジン発電機とリチウムイオンバッテリーを組み合わせたハイブリッド電気システムを採用して高効率な運航を実現している。
また、船舶業界の課題である船員の確保にあたり、船員の居住空間は「船員が乗りたくなる船」を目指し、娯楽室や女性専用設備など、船内で生活する乗組員の視点を取り入れた設計を採用。また、デジタル化・システム化で労働負荷軽減や安全性向上を図っている。
水素燃料での商用運航は「インフラ整備が課題」
水素専焼エンジン開発の課題点として、開発を担当したヤンマーパワーソリューションの清河勝美執行役員システムエンジニアリング部部長は「技術面では、水素は非常に着火しやすいうえ漏れやすく、さらに金属を脆くするという特徴があり、安全性を担保するためにも、その一つひとつの特徴に対応していくことが非常に難しかった」と語った。
また、水素燃料に対応した船員教育について、上野トランステックの藤田峰隆執行役員環境安全部長兼工務部長は「ほぼ前例がない状況からのスタートとなったため、ハード面での安全はもとより、運航やバンカリング(燃料補給)などについて、専用のマニュアルを一から策定した」と説明。そのうえで「これまでに経験がなかったことを、今回の実証を通じて吸収できたのは大きな収穫だった」と述べた。
今後の取り組みの方向性として、藤田氏は「水素を燃料として使用していくには、インフラ環境に課題があり、陸上でいうところの水素ステーションのようなものが海上にはない。また、水素の価格の問題もあり、実証終了後もすぐに荷物を積んで水素燃料による運航ができる状況ではない。しかし、将来的にインフラが整備された際、いつでも水素による運航に対応できるよう、今回運用とハード面の知見を取得した」と説明した。
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