カーゴニュース 2024年7月4日 第5256号
物流業界で外国人労働者の活用に向けた動きが本格化してきた。2024年3月には、特定技能外国人の受け入れ分野としてトラックドライバーを含む自動車運送業分野が追加され、全日本トラック協会では5月に会員企業向け説明会を行うとともに、受け入れの手引きを作成。日本倉庫協会、日本冷蔵倉庫業界でも特定技能の対象職種に倉庫業務の追加を目指し、具体的な検討に着手している。ただ、外国人労働者は建設、農業、航空、外食など人手不足に悩む他業種も獲得を狙っており、同じ物流業界内でもトラック、倉庫で人材の取り合いになる可能性もある。
全ト協は手引き作成、日倉協、日冷倉も準備
特定技能制度は当初、高齢化等による人手不足が顕著な12分野を対象に、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人受け入れの仕組みとして2019年4月からスタートした。24年3月29日に、自動車運送業(トラック、バス、タクシー)等の4分野が特定技能制度に新たに追加され、制度開始から5年間で、自動車運送業分野での1号特定技能外国人の受入れ上限を2万4500人と定めた。
物流業界で、外国人労働者活用に一歩を踏み出したのがトラック業界。全日本トラック協会では5月10日に「外国人特定技能制度に関する説明会」を会場・オンラインとの併用で開催。ホームページで録画を会員企業が視聴できるようにした。同31日には「自動車運送分野トラック区分における特定技能外国人受け入れの手引き」を公表。受け入れ要件や留意事項について周知を図っている。
トラック業界同様、人手不足の課題を抱える倉庫業界でも、外国人労働者の活用に向けた検討が本格化してきた。日本倉庫協会では、24年度の事業計画において、会員のニーズを確認のうえ、特定技能の対象職種への「倉庫業」の追加を目標に体制を整備する。6月13日の総会で藤倉正夫会長は、「外国人の労働者をいかに確保していくかも大事で、新たに設置した人材確保委員会のプロジェクトに専任の人材を配置した」と報告した。
日本冷蔵倉庫協会では昨年度、総務委員会に外国人材活用検討部会を設置。技能実習制度と特定技能制度の在り方に関する有識者会議での検討状況を確認しつつ、冷蔵倉庫の対象職種の仕分け表を作成するなど準備を進めてきた。浜田晋吾会長は6月3日の総会で「特定技能の分野に冷蔵倉庫の庫内作業を追加していただくため、国土交通省のご協力のもと、部会で準備作業を進めている」と早期実現に意欲を見せた。
8割弱が人手不足、外国人労働者の補完は未知数?
物流業界が外国人労働者に期待を強める背景には、深刻化する人手不足が背景にある。東京商工リサーチの調査によると「運輸業」の正社員不足は77・9%、なかでも「道路貨物運送」は79・3%に達した。4月からトラックドライバーの労働時間規制が厳格化される「2024年問題」が始まり、ドライバーが行っていた作業の廃止や荷待ち時間削減のために、倉庫で作業員の増員が必要になっているケースもみられる。
なお、特定技能制度は一定の専門性や技能を持った外国人を即戦力として確保できるメリットがある一方、同業界内で転職でき、賃金などでより好条件の会社に転職されるリスクもある。また、日本人と同等の労働条件や報酬が求められている。技能実習制度に代わる「育成就労制度」を創設することを盛り込んだ改正入管法がこのほど成立したが、こちらも1~2年の就労後に同じ分野での転籍を可能とし、企業を選べるようになっている。
外国人労働者の受け入れをめぐっては、同業種との人材獲得競争に加え、異業種より魅力的な待遇、労働環境を整えないと人材を呼び込めない。外国人労働者の獲得は国際間競争にもさらされており、母国での賃金上昇や円安により日本の賃金が目減りし、「日本離れ」も見られる。待遇面の競争力も含め外国人労働者が物流業界の人手不足をどの程度補完するかは未知数だ。
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