カーゴニュース 2025年7月22日 第5357号
日本航空(JAL、本社・東京都品川区、鳥取三津子社長)とヒューリック(本社・東京都中央区、前田隆也社長)は15日、成田空港の近接地で開発予定の国際物流拠点についての説明会を都内のJAL本社で行い、共同運営に合意したと発表した。名称を「WING NRT(ウイング・ナリタ)」とし、航空上屋施設(保税蔵置場)と物流施設が一体化した国内初の大型国際物流拠点。総投資額は1000億円超を計画し、2027年4月に建設開始、29年3月の稼働を予定している。成田空港の滑走路の延伸・新設に伴う航空貨物取扱量の増加や貨物施設の集約などに対応するプロジェクトとなる。
上屋と物流施設で約40万㎡超、効率的な物流実現
「WING NRT」では、約45万㎡の開発用地に上屋棟(4階建て、延床面積約15万㎡想定)に加え、隣接する物流棟2~3棟(約30万㎡想定)などを開発する。JALの賃貸スペースは未定としている。
最大の特徴は、国内初となる上屋施設と物流施設が隣接することで、高いセキュリティと効率的な物流導線を実現できる点にある。これにより、上屋サービスやJALの多様なロジスティクスサービスを同一建屋内で提供する。さらに、空港外での動植物検疫を、関係当局との協議・承認を前提としたうえで、国内で初めて実現する予定。
開発地である千葉県成田市下福田地区では、24年に開発認可を取得しており、現在は造成工事が進んでいる。建物の建築は27年4月の開始を予定し、拠点の稼働は、成田空港の第3滑走路(C滑走路)完成とタイミングが重なる29年3月を予定する。開発地は東関東道「成田IC」を起点に同道や圏央道を通じて、首都圏や北関東をはじめ各地域へのアクセスに優れている。今後は29年3月に開通予定の北千葉道路の延伸工事により、「押畑IC」と「成田IC」が接続。成田市街地の中心部を経由することなく成田空港へのアクセスが可能となるうえ、「WING NRT」と空港間が車で約15分から約10分と短縮され、保税状態での一括輸送を実現する。さらに、成田市内だけでなく、茨城県内も通勤圏内とするなど、広域後背地からも人材確保が可能な立地。各主要駅からシャトルバスを運行するほか国際戦略特区活用により、特定技能外国人を上屋業務でも採用できるよう関係当局に要望する。
拠点の名称である「WING NRT」の由来は、上屋施設を通じて日本と世界がつながる革新的な拠点となることを目指す意味が込められた「Worldwide-cargo Innovation Gate」の頭文字であり、航空機を連想させる「WING」と、成田空港の空港コードである「NRT」を組み合わせたもの。同拠点の運営など一体的なオペレーションについては、JALとヒューリックが共同出資で設立する予定の運営会社が担う。出資比率や設立時期は未定だが、運営計画の策定を考慮し、稼働開始から1年前までの設立を目指す。さらに、同拠点は千葉県内で初めて、地域未来投資促進法の重点促進地域として承認されており、参画企業には様々な優遇措置が講じられる。JALとヒューリックは企業誘致に関しても共同で取り組んでいく方針とし、多様な物流関連企業を誘致することで、雇用拡大による地域活性化への貢献も図る。
ヒューリック専務執行役員の黒部三樹氏は「用地を取得した2年前と比べて、建築費は2~3割ほど上がっている。当初はJALとの共同運営を考えていなかったが、航空会社からのニーズはあると考えていた。上屋と物流施設が一体となった唯一無二の施設のメリットを訴求することで、リーシングを進めていきたい」と述べた。
北部地区で分散したJAL貨物施設を集約
成田空港では千葉県や成田市をはじめとした空港圏自治体や国土交通省と連携し、成田国際空港会社(NAA、本社・千葉県成田市、藤井直樹社長)が掲げた「新しい成田空港」構想の実現に向けて、第3滑走路の新設といった機能強化や貨物施設の集約を進めている。「WING NRT」では、第3滑走路供用に伴う国際貨物需要増に対応。半導体をはじめとする精密機器やリチウム電池、越境EC、医薬品などに加えて、政府が輸出拡大を掲げる農林水産品の集積基地としての役割を担うなど世界中の物流拠点とシームレスにつながる輸出拠点の役割を担う。
JALは現在、成田空港の北部貨物地区で6ヵ所の貨物施設を利用している。しかし、これらの施設が分散していることで、非効率な業務が発生しているほか、最も古い施設である日航貨物ビルと第1貨物ビルが1978年に運用を開始しているなど、各施設で老朽化や狭隘化が顕著な状況にある。
JAL貨物郵便本部事業推進部長の梅原秀彦氏は現状の課題について「もうすぐ50歳になるビルに新しいテクノロジーを導入しようとしても限界がある。また、拠点の分散は人手不足にも影響しており、これらの課題を解決しないと当社の貨物事業のサステナビリティが危うい」と説明。「WING NRT」では分散していた上屋機能を集約することで、貨物の受け渡しを1ヵ所で完結。加えて、JALでは上屋施設に最先端のテクノロジー機器を導入するほか、医薬品専用低温庫や高機能冷蔵・冷凍庫を完備することで、多様な輸送ニーズに適応し、高付加価値サービスを提供していく。拠点集約後の現在の貨物施設については「既存施設を維持したまま新拠点を使うのはトゥーマッチではあるものの、規模は小さくなるが空港内業務で必要な部分は残し、その具体的な規模は今後検討する」と説明。現在整備中の成田空港の新貨物地区が完成した際には「『WING NRT』とのデュアルハブ体制で運用していく」と述べた。
荷主や物流企業を呼び込み成田空港の競争力向上へ
さらに梅原氏は「日本の経済的地位は低下しており、航空の世界でも仁川空港や上海空港に貨物を奪われるなど、物流の大動脈が日本を避けている状況にある。成田空港の競争力を高めて、経済安全保障におけるサプライチェーンの国内回帰につなげる必要があるという大義で、ヒューリックと見解が一致した」と説明。そのうえで「『WING NRT』では通関・検疫を含む包括的な航空貨物ニーズへの対応をコンセプトに据えている。また、拠点内に国際航空物流のあらゆるプレイヤーが集結し、成田空港との連携で革新的な航空物流サービスを提供できるようになる。上屋棟では自動車部品や半導体、ECなどを扱い、物流棟ではインテグレーターやフォワーダー、倉庫業、陸運などを誘致する。物流棟に集約された貨物を空港上屋へ一括輸送することで、大幅なスピードアップや輸送品質向上、コストメリットを提供できる」と述べた。
成田空港が目指す東アジアの貨物ハブ空港実現につながるトランジット貨物の取り込みについては、「『WING NRT』のメリットはCFS(コンテナフレイトステーション)の役割を担えるところにあり、空港内と比べて、場外での再混載はコストを抑えられる。そうした面を競争優位性に据え、サービスを提供できる環境を整えていきたい」(梅原氏)とした。
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