カーゴニュース 2025年5月13日 第5337号
国土交通省、経済産業省、農林水産省の3省は8日、現行の「総合物流施策大綱(2021~25年度)」を引き継ぎ、国の物流政策を方向づける次期「物流大綱」の策定を検討するため「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」の初会合を開催した。今後7回程度の会合を開き、11月に提言書を政府に提出する予定。政府は検討会の提言に基づき、年明けにも新たな「物流大綱」として閣議決定する。新「物流大綱」は、30年度に想定される輸送力不足への対応を軸としながら、アジア市場の物流需要の取り込みや、災害など緊急時の輸送ニーズに即応できる物流体制の構築を目指すことになりそうだ。
「供給制約を克服へ」鶴田物流・自動車局長
開会にあたって国交省物流・自動車局の鶴田浩久局長は「物流の『2024年問題』は終わったわけではなく、輸送力不足はこれから本格化する。輸送需要に供給が追い付かないという〝供給制約〟の影響は物流以外にも及ぶ。近い将来は国内だけでなく世界も同様の課題に直面すると想定される」と述べ、当面の課題を克服するため「物流革新を見据えた施策の方向性を早急に示すことが重要だ」と強調した。
出席委員の紹介の後、根本敏則・敬愛大学教授が座長に就任した。根本氏は現行の「物流大綱」の策定会議でも座長として議論をリードしており、今回の検討会でも大役を担う。今後の議論のテーマとして「労働力不足に対応することが急務であり、自動化・機械化などDXをより加速する方策がひとつの軸となる」との見通しを述べた。
会議では事務局が現在の物流動向と国の物流施策を説明し、認識を共有。事務局は、今後の検討に向け、①30年度に想定される輸送力不足への対応②アジア市場の物流需要確保など国際競争力の強化③災害等の有事に備えた強靭な物流の構築・確保――の3テーマを議論の視点としたい考えを示した。その後、各委員が物流課題について意見を述べた。
トラックは「30年度まで生き残れない」との声も
物流事業者からは足元の環境への危機感を伝える声が目立った。全日本トラック協会副会長の馬渡雅敏氏(松浦通運)は「燃料費などのコストは上昇する一方だが、価格転嫁は進んでおらず、適正な運賃を収受できていない。30年度までの物流を考える前に、一部の事業者は〝30年度まで生き残れない〟という悲痛な声もあり、廃業する事業者もある。業界は死屍累々となり、荷物が運べなくなる状況を危惧している」と語り、次期「物流大綱」で「トラックの生産性向上を支援する現実的な施策を提示することが必要」と訴えた。
日本倉庫協会常任理事の鈴木又右衛門氏(太成倉庫)は「協会の会員事業者の9割以上が中小事業者で、全体の所管倉庫面積の8割を中小が担うなど、倉庫業界は大手の寡占により成り立っているわけではない。一定規模の事業者が地域の産業・物流を支え、最適な物流を担うことを使命としてきた」と業界の特性について触れたうえで「新たな『物流大綱』には、それぞれのエリアの物流を担う中小倉庫事業者の成長や事業継続に寄与する施策を盛り込んでいただきたい」と要望した。
内航海運と国内航空を活用、不足する輸送力を補完
日本内航海運組合総連合会(内航総連)会長の栗林宏吉氏(栗林商船)は内航海運について「国内貨物輸送ではトンキロベースでトラックの51%に次ぐ44%のシェアを占め、環境負荷が少なく輸送効率に優れている。長距離かつ大量輸送に適した輸送モードとして、国交省と連携しながらモーダルシフトの促進に取り組んでいく」と意欲を述べた。
日本航空執行役員の木藤祐一郎氏は「昼間帯の国内旅客定期便の貨物室スペースの利用率は重量ベースで2割にとどまっている。この空きスペースを活用すれば年間約100万t分の貨物を追加で運ぶことができる」と述べ航空輸送による〝新たなモーダルシフト〟の可能性を語った。
日本通運副社長の杉山千尋氏は「30年度に想定される輸送力不足を補うにはモーダルシフトやモーダルコンビネーションの拡充が必要だ。貨物鉄道では災害時の輸送障害がネックとなるため、代替輸送を速やかに行える体制づくりに注力する必要がある」と述べた。
荷主は商慣行の見直しやDXの必要性を指摘
荷主からの発言では、花王執行役員の森信介氏が「納品先での荷降ろしをドライバーが行う商慣行があるが、ドライバーの肉体的負担を軽減するために見直しが必要。コスト負担のあり方を含めてメーカー、卸、小売が協議し、WIN―WINとなる関係を構築すべきだ」と強調した。
イオングローバルSCM社長の山本浩喜氏は、リードタイムの延長など、これまでの商慣行を見直すことで物流改善が進捗したと述べ「計画的な物流を構築しなければ、安定的にモノが運べなくなる」と指摘した。
アスクルのロジスティクスネットワーク統括部長を務める服部充宏氏は「複数の荷主が共同配送を行いやすくするため、オープンな物流プラットフォームを構築することが重要だと考えている。その前提として標準化や物流データのデジタル化などのDXを推進することが不可欠だ」と語った。
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