カーゴニュース 2025年10月7日 第5376号
忽ちに雑言飛ぶや冷奴 遷子
酷暑の某日、京浜港物流高度化推進協議会の学識委員たちの東京港視察が関東地方整備局の船によって行われました。この協議会はもう10年以上も継続的に行われているが僕はすでに隠居だから引退、若い気鋭の研究者中心になっている。港湾関係の物流改善、高度化は難しいので学識委員は若手を中心として「10年計画で研究者の育成をしよう」と僕は言っていました。
東京港は今なお、発展し、新しい施設や機械が導入されており、今でも新しいコンテナ埠頭が作られつつあります。何しろ、東京港はコンテナ扱い量で日本一。ただ、港の総扱い量では日本で4位か5位(1位は名古屋港)。つまり、東京港は工業製品の輸出港、産業材の輸入港ではなく、一般工業製品の受け入れ港という特質を持っているわけです。
そういう東京港を海の側から見る。それは素晴らしい光景だが、どうもこういう視察をすると形あるものに気をとられてしまう。突如、だれかが「空母が停まっている」と言った。「新聞に出ていた改装され護衛艦から本格空母になった『出雲』ではないか」と思ったのですが、近づいてみるとなんとそれは日本にやってきたイギリス海軍の空母打撃群の「プリンス・オブ・ウェールズ」でした。以前、横須賀で「ロナルド・レーガン(?)」が停まっていたのを見たことがありますがそれより小さいけれど、こんな近くから空母を見たのは初めて。空母というのはその形の異様さで極めて印象に残った。コンテナ埠頭など頭から飛んで行ってしまう。港湾を考える時、コンテナ埠頭、ガントリークレーン、コンテナヤード、各種上屋などハードウエアには強い印象が残るのですが、そのためもあってソフトウエアの方はお留守になる。本当はソフトウエアの方が重要だが。
ところで、横浜本牧埠頭で陸上のトラックによる搬出入の予約制度であるCONPASの試験運用が始まるそうです。CONPASとはContainer Fast Passからとったネーミングですが「どうして真ん中のFastが抜けているのだろう」と誰かが言っていました。「特にコンテナの搬出入が早くなるわけではない」けども混雑回避だけはできるということか。つまり、これはソフトの部分だがハードに比べると迫力が弱い。港湾や空港はあまりにハードの印象が強すぎる。
物流というのは本来、ソフトが基本であり、ハードはソフトによる運用システムの一部で、ソフトこそ核となる。しかし、一般には物流ではハードの印象が強い。流通ではハードである店舗の印象が強い。これがどうも高度化を阻害しているのではないか。でも海上から視察しているとハードばかり印象に残ってしまう。ハードさえ進歩すれば物流も高度化できると錯覚するのです。物流というのは本来、その機能と構造が問題であるのにハードに目が奪われるという宿命があるようです。
僕はこれまでできるだけ流通センターやターミナル、立体自動倉庫、自動仕分けライン、最新型輸送機関などは「最初に見ないよう」努めてきた。僕は昔から物流システムの調査分析、改善提案などをする場合、まず、最初に「物流現場を見る」ということはしないようにしてきました。先にソフトによる物流システムを聞き取り調査して、その上でハードである流通センターなどを見るようにしていた。見たらそれにとらわれる。お釈迦さまも「形あるものはすべて空である」と言っておられます。形の背景にある本質をつかみたいのです。現場重視の殺人事件捜査ではない。
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