カーゴニュース 2025年11月27日 第5391号
「茨城県に強い物流会社」を標榜し、「物流で人々を幸せに」を合言葉に掲げる沼尻産業(本社・茨城県つくば市、沼尻年正社長)。3月31日付で茨城倉庫(本社・茨城県水戸市、小倉正美社長)をグループに迎え入れ、従来から強みを持つ茨城県南部に加え、北部も含めて県全域に拠点網を拡充した。今後も専門的な機能・サービスを強化するため、相乗効果が見込める分野でのM&Aを検討していく考えだ。
17年には天井クレーン有する倉庫会社をM&A
倉庫業、運送業を主力とする沼尻産業は、茨城県つくばエリアを中心に19・8万㎡の倉庫を運営。近年は、アーカイブセンターの新設や危険物倉庫への進出など多機能物流サービスの基盤整備を推進。25年7月には伊藤忠ロジスティクスとの共同事業として、つくばメディカル物流センター第2期が竣工した。
沼尻産業が初めてM&Aを行ったのは2017年。埼玉県白岡市を本拠とし、倉庫業、運送業を手掛けるウチダフレイトを子会社化した。圏央道、東北自動車道の結節点である白岡は物流適地として知られ、倉庫(約1万2000㎡)は内陸の倉庫としては希少な天井クレーン2・8t×1基 10t×2基を備えている。
実は子会社化する前の約20年間、天井クレーンは稼働を休止していた。沼尻社長はこの設備のポテンシャルに着目し、再稼働を決定。群馬県、栃木県で重量物を扱うメーカー向けの“中継拠点”としての活用を想定し、「天井クレーン付きの重量物対応倉庫」という特色を明確に打ち出す営業戦略で顧客の開拓を進めている。
県南部と北部の拠点展開、両社の相乗効果見込む
第2弾として25年3月31日に茨城倉庫をSPC(特別目的会社)を通じて取得。両社のメインバンクが同じであったことから、株式取得の機会を得たもの。沼尻産業はつくばエリアを中心とした茨城県南部、茨城倉庫は水戸エリアを中心とした県北部にそれぞれ拠点展開しており、相乗効果が見込めると判断した。
茨城倉庫は1949年に創業し、倉庫面積は約3万1710㎡で、うち定温倉庫が約5960㎡。常温倉庫では長年ロール紙を取り扱い、メーカーの「門前倉庫」として24時間体制でJIT(ジャスト・イン・タイム)納品に対応。定温倉庫は大手物流会社が精密機器・部品の拠点として利用している。
沼尻社長によると、「当社が強みを持つ茨城県南部は消費財の流通が中心で、常磐道、圏央道沿線の首都圏がターゲット。一方、茨城倉庫の拠点のある県北部は素材関係の貨物が多く、常磐道、北関東自動車道を経由し、群馬、栃木、福島を見据えた物流網を形成している」。茨城倉庫がグループに加わることで県全域で物流網が強化される。
“連邦経営”、会社のアイデンティティを大事に
地球温暖化に伴い、貨物の品質維持の観点から、定温保管のニーズが年々高まっており、茨城倉庫の強みでもある定温倉庫の増床を検討している。既存の常温倉庫を定温倉庫に改修することや、沼尻産業が茨城県内に保有している土地に、温度帯管理が可能な倉庫を新たに建設することも視野に入れている。
M&A成立後、社長が交代するケースが多いが、茨城倉庫の小倉社長は社長職を継続し、新体制では同社のプロパー2人が取締役に就任。「社員とともに長年築いてきたブランド、企業文化がある。(子会社化後も)企業文化を尊重する“連邦経営”で、会社としてのアイデンティティを大事にしたい」と沼尻社長は語る。
こうした考え方の背景には、自身の過去の経験がある。1995年に米国で立ち上げた現地法人を現地企業に売却する際、両社の条件が折り合わずかなりの時間と労力を費やした。「会社を売る側として過去の苦い経験があるからこそ、相手の会社を尊重したいという思いが強い」と明かす。
グループ売上高100億円へM&Aも選択肢
沼尻産業の25年度から30年度までの中期経営計画では、グループ売上高100億円を目標に掲げる。オーガーニックグロースを基本としつつ、M&Aも選択肢で、「当社は“多機能物流サービス”を標榜しており、まだリーチできていない機能を持ち、相乗効果が見込まれる会社のM&Aについては積極的に検討していきたい」と意欲を見せる。
具体的には冷蔵倉庫、定温倉庫、危険物倉庫、重量物倉庫、医薬品・飲料品の取り扱いなど「重点分野」でノウハウや知見を有する企業をM&Aのターゲットに据える。なお、運送機能の強化については、「日曜日休暇」などドライバーの待遇改善を進めることで、自社車両の増強を優先し、M&Aには慎重なスタンスだ。
茨城県には大手物流会社や物流不動産デベロッパーの進出も増えているが、沼尻産業は長年地域に根差した会社として、地域や顧客との信用信頼を大切に、きめ細かなオペレーションなど付加価値の高いサービスにより差別化を推進。「地域社会への貢献が会社としての存在感を示すことになる」として地域活動への参画・支援にも積極的に取り組んでいる。
「日本の産業構造は転換点を迎えている。当社のような中小企業は『量』ではなく『質』を追求していかなければならないと考えている。『質』とは人、つまり社員であり、『この会社で働いてよかった』と思ってもらえるような物流のプロフェッショナル人材を数多く育て、物流業界に貢献したい」と意欲をみせる。
購読残数: / 本
恐れ入りますが、ログインをした後に再度印刷をしてください。