カーゴニュース 2024年6月27日 第5254号
ホームセンター最大手のカインズ(本社・埼玉県本庄市、高家正行社長CEO)は、同社最大規模の物流拠点「カインズ桑名流通センター」(三重県桑名市)が3月11日から本格稼働を開始した。西日本のマザーセンターとの位置づけで、各地の配送拠点および店舗へのリードタイムを短縮。地球環境や従業員の快適な労働環境に配慮した施設設計にもこだわった。汎用性を重視したマテハン技術を導入し、それらを連携するシステムを構築することで社会環境の変化にも柔軟に対応できる省人化モデルを構築している点も特徴だ。
西の基幹拠点となる「桑名流通センター」が本稼働
同センターは伊藤忠商事が開発した物流施設で、カインズが全棟を利用。敷地面積約6万2905・82㎡、延床面積約9万5161・57㎡の地上4階建てで、2023年6月に竣工。東名阪自動車道「桑名IC」から約7・5㎞、「桑名東IC」から約7㎞に位置し、全国への広域配送拠点および名古屋中心地への配送拠点としての利便性が高い。新名神高速道路、東海環状自動車道の整備に伴い、さらなる交通利便性の向上が見込まれている。
カインズは海外から輸入する商品が多く、東京港から荷揚げし、群馬県太田市の「カインズ太田流通センター」に集約後、全国の配送拠点に幹線輸送していた。西日本エリアへの供給拠点となる「カインズ桑名流通センター」の稼働により、名古屋港も含めた2港揚げを開始し、同センターから西日本エリアの配送拠点、店舗に配送する体制を整えた。
「カインズ桑名流通センター」は「西のマザーセンター」との位置づけで、在庫拠点(DC)機能と中部エリアの店舗への配送および周辺のTCセンターへの幹線輸送拠点(TC)機能を併せ持つ。全国239店舗(24年3月1日現在)のうち約100店舗向けの供給を担い、輸送距離の短縮化によりトラックドライバーの労働時間規制が厳格化される「2024年問題」への対応を図るとともに、輸送に伴うCO2排出量を削減する。
カインズの店舗向け配送は10tトラックがメイン。従来の物流網と比較して、西日本エリアへの輸送距離が短くなることで、1台のトラックの回転率が向上する。ロジスティクス事業部の石那田篤物流インフラ開発部部長は、ドライバー不足に関し「厳しい環境になってきている。店舗へ配送したトラックの帰り便を活用して、1台あたりのトラックの生産性を向上させる取り組みも積極的に進めている」と話す。
マテハン等の一元制御・同期へWESを導入
同センターのコンセプトのひとつが省人化だ。カインズの大型店舗では約12万点のアイテムを扱っているが、機械化・自動化に適さない長尺・異形物も多く含まれている。そのため、「完全に無人化することは不可能で、〝省人化〟というよりも〝少人化〟を目指している。そのため、アイテムや業務を絞って、非効率な工程に集中的にマテハン設備を導入している」(石那田氏)。
同センターでは各階に少人化マテハンを導入。4階に設置した自動倉庫システム「ROBO Carry Rack(ロボキャリーラック)」(中西金属工業製)は空間を有効に活用し、高密度な保管を実現できるのが特徴。35台のAGVが設備内を立体的に走行し、荷役・仕分け・保管の自動化を実現した。
4階にはこのほか、パレットに積み付けを行うパレタイジングロボット「フジエース」(不二輸送機工業製)、移動ラック(ダイフク製)を導入し、マテハンの追加も検討している。なお、垂直搬送機は、6枚分のバッファを設け、作業者側に余裕を持たせる設計とした。
3階には、パレット単位の荷物を自動搬送し、高層ラックに保管するパレット立体自動倉庫(ダイフク製)ととともに、自動倉庫と組み合わせて使う高速仕分け台車「ソーティング・トランスファー・ビークル(STV)」(同)を採用した。移動ラック、固定ラックの活用のほか、自動倉庫に入れる必要のない高回転の荷物は平置きスペースで保管するなど荷物の特性に応じて保管方法を分けている。
幹線便の拠点となる2階には、長尺物用に平置きスペースを確保している。1階は中部エリアの店舗への配送拠点として使う。マテハン、ロボットとしては、パレットから荷物を崩して取り出す「デパレタイジングロボット」、ラベル張りを自動化する「オートラベラーシステム」、店舗ごとに自動仕分けを行う「サーフィンソーター」を導入。
また、YEデジタルが提供する倉庫自動化システム「MMLogiStation」を採用した。複数のマテハンやロボット設備の一元制御・同期を行うWES(倉庫実行システム)を導入することで、全社横断で使用しているWMS(倉庫管理システム)から倉庫ごとに導入されるWCS(倉庫制御システム)を分離し、柔軟な設備構成、運用フローを実現するとともに、新たなマテハンの導入スピードを上げられるという。
デバンロボット導入、人時管理にAIの活用も検討
今後も自社の物流課題に対して、有効な機能を持つマテハンをしっかり精査しながら投資を行っていく。今秋にはコンテナデバンニングロボット「Vambo」(中西金属工業/川崎重工業製)を導入予定だ。
輸入商品は1コンテナあたり3人で3時間(9人時)かけて荷降ろししていた。デバンニングロボットを導入することで作業員の配置は1人で済むようになる。POC(概念実証)を終え、まずは1台導入し、効果が確認できれば台数を増やすとともに、他のセンターへの水平展開も検討していく。
「Vambo」は他社の機種に比べて設置工事が容易で、場所にとらわれず、他センターへの移動も可能だ。「マルチテナント型倉庫の利用を検討する場面も増えたため、根が生えないマテハンであることが重要」(石那田氏)というカインズの物流センター構築戦略にマッチしている。
ロジスティクス分野におけるAIの活用も進めていく考えだ。現在、同センターでは多い時で約250人が働いており、過去のデータに基づき、作業量予測からその日に必要な人数を人の手によって算出している。今後、人時管理にAIを活用し、時間が差し迫った状況での対応、属人化した業務、改善効果が出ない、などの物流現場の課題に対して、蓄積したビッグデータを活用した業務効率化にもチャレンジする。
なお、同センターは環境配慮型の物流センターとしてもこだわった。全館にLED照明や人感センサー付き照明を採用し、施設の屋上に自家消費型の太陽光発電を導入し、最大発電時には消費電力の100%を再生可能エネルギーで賄うことが可能。パレットの一部には、海に流れ出る可能性のあるプラスチックごみを回収・リサイクルした素材のOBP(オーシャン・バウンド・プラスチック)を使用している。
従業員の働く環境にも配慮。適切な温度下で作業を行えるように、シーリングファンやスポットクーラー、天井カセットタイプの空調を導入した。各階に設置した従業員用休憩室は、「空」「大地」「緑」などそれぞれ異なるコンセプトを持たせ、室内のデザインにも工夫を凝らしている。観葉植物やソファー、ディスプレイを配置し、カフェのような空間を演出するなど、従業員がくつろぎやすい快適なスペースを提供している。
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