カーゴニュース 2024年7月30日 第5263号
宅配便業界で大手の〝棲み分け〟が進んでいる。かつては熾烈な競合関係にあったヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3強だが、佐川と日本郵便、ヤマトと日本郵便がそれぞれ協業に動いたことで、「協調」路線に大きく舵を切った。とくに薄物小物の投函型サービスについては、日本郵便にサービスが集約され、各社とも得意領域に経営資源を集中する動きが加速している。また、ヤマト、佐川が相次いで「置き配」を〝解禁〟。今後、「置き配」が業界のデファクトスタンダードになることで、宅配便サービスのあり方が大きく変化していく可能性もある。
3社の23年度実績は、コロナ後初のマイナスに
2023年度の大手3社合計の取扱個数は46 億2900万個となり、前年度比1・0%減、個数ベースで約4900万個の減少となった。コロナによる巣ごもり需要以降、取扱個数は増加を続けてきたが、23年度は物価上昇に伴う個人消費の冷え込みなどもあり、ECを中心に宅配需要にもブレーキがかかった。
各社の動向を振り返ると、ヤマトは1・9%減の22億9500万個。年度を通じて前年割れ基調が続き、前年を上回ったのはわずか2ヵ月のみだった。佐川も2・5%減の13億2500万個となり、2年連続での前年割れだった。
唯一、前年実績を上回ったのは日本郵便で、3・0%増の10億900万個。ただ、内訳を見ると、伸びをけん引したのは投函型サービスのゆうパケットで、ゆうパックのみの実績では前年割れだった。
今期に入ってからの3社の動向も、ほぼ同様の傾向が続く。ヤマトの4―6月の取扱個数はほぼ前年同期並み(約3500増)の5億5091万個。内訳は宅急便・宅急便コンパクト・EAZYの3商品は2・0%増だったが、日本郵便への委託が進む投函型サービス(ネコポス・クロネコゆうパケット)が8・2%減となったことが響いた。
佐川の飛脚宅配便の4―6月実績は、3・4%減の3億1800万個で、依然として低調に推移している。
一方、日本郵便の実績は5月までの2ヵ月分ながら、ゆうパックが2・6%増の8380万個、ゆうパケットが16・7%増の8355万個となっており好調を維持。とくに投函型サービスのゆうパケットについては、佐川、ヤマト両社からの委託が進んでいることから、2ケタ増の高い伸びを見せている。
今期の3社合計の取扱個数については、各社とも下期以降の需要回復を見込んでいるものの、個人消費の回復が遅れているとの観測もあることから、年度トータルでは小幅な伸びにとどまりそうだ。
3社の事業戦略――得意分野にリソース集中へ
そうした中で、今後の3社の事業戦略を見ていくと、それぞれの得意分野に経営資源を集中化していく動きに拍車がかかっていきそうだ。
日本郵便は、郵便ネットワークの強みを活かせる薄物小物の投函型サービスであるゆうパケットをさらに強化していく。日本郵政グループの改訂計画である「JPビジョン2025+」では、ゆうパケットの取扱個数、収益を25年度までに23年度比で倍増(807億円→1600億円、4・6億個→9・7億個)させる野心的な目標を掲げた。ゆうパックの取扱個数についても、23年度の5億5000万個から25年度に6億2000万個まで増やす計画だが、佐川とヤマトからの委託が進み、事実上の独占サービスとなったゆうパケットを郵便・物流事業における成長エンジンに明確に位置づけたかっこうだ。
一方のヤマト運輸は、単価が低い投函型サービスを日本郵便に委託したことで、通常の宅急便を中心とした“箱の荷物”にリソースを集中していく。すでに一部で成果が出始めており、4―6月期の同社の取扱個数は全体では前年並みだが、宅急便・宅急便コンパクト・EAZYの3商品に限るとプラスに転じており、下期以降さらなる取り扱いの拡大を図っていく。その戦略のひとつとなるのが法人ビジネス領域の開拓。サプライチェーンの上流工程から顧客のソリューションパートナーになることで、そこから発生する宅配需要を取り込んでいく。また、全国に最大4000ヵ所あった宅急便営業所を今後数年で約1800ヵ所まで集約するなどネットワーク・オペレーション構造改革を進め、コストを適正化していく(24年3月期末では2915ヵ所)。
佐川急便は、本来の得意分野であるBtoB小口荷物に注力していくとともに、同社がTMSと呼ぶ宅配便以外の輸送サービスを拡大していく。また、以前から「個数より単価」の戦略を掲げており、むやみに数量を追うことなく、着実に単価水準を高めている。今後はハブとなる中継センターを新設することで、ネットワークとしての輸送キャパシティを高めるとともに、運行便の集約による幹線運行の効率化を進める。26年2月に東京都江東区に「東京中継センター」、同年7月に兵庫県尼崎市に「関西中継センター」を新設。東西2ヵ所に大型中継センターを整備することで、今後の取扱数量の増加にも対応できる持続的な輸送インフラを構築していく。
ヤマト、佐川が「置き配」解禁、リスク指摘も
「2024年問題」の解決策のひとつとして、社会的な関心も高い宅配便の再配達削減。その有力な手段のひとつとして「置き配」に対するニーズが高まっている。以前から大手ECが自社配達する際の手法として導入してきたものの、宅配大手では一部を除いて正式には導入されていなかった。
しかし、ヤマト運輸は今年6月、クロネコメンバーズの会員を対象に宅急便、宅急便コンパクトの受け取り方法に「置き配」を追加。また、佐川急便も9月からスマートクラブの会員やLINE公式アカウントを通じて「置き配」を選択できるようにすることを決めた。
この事実上の“解禁”は、「置き配」に対する認知度向上や社会的なニーズの高まりを背景に、社会課題を解決する一環として受け取り利便性の向上を図ったものだが、一方で、宅配事業者としての事業戦略上のリスクを指摘する声もある。そのひとつが今回、ヤマト、佐川という最大手2社が“解禁”したことで、宅配便サービスのデファクトスタンダードが「対面受け取り」から「置き配」に移り、参入障壁が下がるというものだ。また、その結果としてサービスの低下を招き、単価下落につながりかねないという指摘も出ている。
さらに、盗難などのリスクへの対応が難しいという指摘もある。ある関係者は「EC企業の場合は、自社で配達した荷物が盗難被害にあったとしても社内事故で処理できる。もとより、一定の比率で何らかのアクシデントが起きることは想定の範囲内でもある。しかし、“運び届けること”を仕事としている宅配事業者が預かった荷物を盗難された場合、顧客への説明や調査などにかなりの時間や労力が割かれる」という。
「置き配」の“解禁”は時代の流れではあるものの、今後の宅配サービスのあり方が変化していく可能性も孕んでいると言えそうだ。
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