カーゴニュース 2024年9月5日 第5272号
9月10日~13日の日程で開催される「国際物流総合展2024」。物流の「2024年問題」など、物流業界が抱える多くの課題を乗り越えるための機器やソリューションが集まる同展は、回を追うごとに注目を集め、16回目となる今回は過去最大規模で開催される。同展の事務局長を務める日本ロジスティクスシステム協会(JILS)理事・JILS総合研究所所長の北條英氏に見どころを聞いた。
(インタビュアー/吉野俊彦・松浦優樹)
過去最大の出展者数 海外メーカーの参加が増加
――「国際物流総合展2024」がいよいよ10日から開幕です。見どころを教えてください。
北條 今回の「国際物流総合展」は出展者数の規模や来場者数の予定が過去最大となっており、今回の最大の特徴となっています。東京ビッグサイトの「東ホール・1~8エリア」すべてを使用するのは初の取り組みとなります。出展者の数は8月21日現在で580社・団体3242ブースの出展が確定しています。また、来場者数は約7万人を見込んでいます。来場者の方々にはすべてのエリアを時間の許す限り回ってもらうことで、紹介されている機器やソリューションの抱負なバリエーションを体感していただきたいと考えています。最大の開催規模となった理由は2つあります。ひとつには、常連のマテハンメーカーの出展が活発で、ブースの規模をこれまでよりも拡充する動きがあるということ。もうひとつは、物流分野のDX促進の動きを背景に新規企業の出展が増加しているということがあります。
また、ロボットメーカーやマテハンメーカーのような大規模なブースだけでなく、システム・ソリューションでも、新規の出展企業が増加傾向にあります。「国際物流総合展」の「総合」の名の通り、バリエーションに富んだ展示がみられます。来場者は、老舗メーカーとスタートアップ的な新しいメーカーが、それぞれどのような機器やシステム・ソリューションを展示しているのかを同一会場で対比的に見ることができますから、極めて興味深いところなのではないでしょうか。
また、国内だけにとどまらず海外からの出展も増えています。中国企業が最も多いのですが、コロナ禍以降は中国のロボットメーカーの出展は加速度的に増えています。自動化・機械化が急務となっている日本の物流の現状を商機と捉え、本格的な日本進出を狙っているのだと思います。
「物流コストは削減対象」では立ち行かなくなる
――海外メーカーの機器に直接触れることができるのも国際物流総合展ならではの魅力ですね。今年は2024年ですが、物流の「2024年問題」への社会的関心が高まり、かつてないほど物流が注目されています。その最中に開かれる今回の「国際物流総合展2024」のテーマは「持続可能な道、物流の明日を育む」です。このテーマに込められた思いを教えて下さい。
北條 「2024年問題」というと、得てして物流は持続可能なのか、これからどうなってしまうのか、という、いささか悲観的なイメージが先行しているようですが、決してそうではないのだという明るい面をこそアピールしたいと思っています。「24年問題」には3つの大きな法改正が関わっています。そのひとつは働き方改革関連法で、トラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されたことです。これに加え、トラックドライバーの労働環境改善や物流の生産性向上を図るという大きな課題に対応するため、今年4月に物流関連2法(物流総合効率化法および貨物自動車運送事業法)が改正されました。この改正物流効率化法によると、一定規模の特定荷主には物流統括管理者の設置が義務付けられました。物流課題を解決するには、もはや物流事業者のみでは難しく、荷主が経営の観点から主体的にロジスティクスに関与することで解決を図るべきだという考えに基づくものです。荷主は、3PL事業者など委託先や、自社の物流部だけでは解決できないサプライチェーン全体に関わる問題に取り組まなくてはならないということです。納品条件、例えばリードタイムを見直すということも、自社の物流部門や委託先の物流事業者だけの取り組みではなしえません。物流現場の人間だけが頑張れば、何とかうまく回っていたような状況は終わりました。今後は経営層も含めて物流をいかにして維持するか、安定的なサプライチェーンを実現できるかという課題に向き合う必要があります。
荷主からすれば物流費はコストであり、極端に言えば「物流費を削減すればいい」という考えだけでした。今やそれでは物流を維持できなくなる局面になっています。もちろんコスト管理は重要ですが、サプライチェーンを維持していくには、適正な在庫管理や物流標準化、労働力不足に対応した機械化・自動化など、総合的な観点から「ロジスティクス」を実現することが不可欠であり、そのための投資が求められています。たんに「物流」だけを考えるのではなく「ロジスティクス」をどのように最適なものにしていくかというアプローチが重要です。そうした潮流の中で開かれるのが今年の国際物流総合展であり、「持続可能な道、物流の明日を育む」というテーマの「道」という言葉にその思いを凝縮したものです。
「国際物流総合展2024」のポスターに関しては、各種輸送モードをモンタージュしたようなデザインに据えました。これはトラックだけでなく、そのほかの輸送機関も含め、〝どんな手段を使っても荷物を運びきる、物流を持続する〟という強いメッセージを込めています。
経営戦略としての「ロジスティクス」普及の好機に
――改正物流効率化法や「総合物流施策大綱(2021年度~25年度)」では高度な物流人材を育成することが課題のひとつとなっています。今回の国際物流総合展でも会期中の「ロジスティクス未来フォーラム2024」ではマネジメント層に向けた複数のセッションが開催され、CLOもテーマに含まれています。また、これまでもJILSでは高度物流人材の育成に注力してきたということもあります。あらためてCLOについてのお考えをお聞かせください。
北條 改正物流効率化法で特定荷主に選任が義務化された職務は「物流統括管理者」と表現されています。現在これはしばしば「CLO(Chief Logistics Officer)」と呼ばれているのですが、物流統括管理者とCLOという概念は、完全に一致しないのではないかというのが正直な感想です。「CLO」と表現する以上、「ロジスティクス」とは何かをしっかりと定義する必要があります。重要なのは「物流」は活動であり、その活動には「機能」と「領域」があること。「機能」とは輸送や保管、荷役、包装、流通加工など指し、「領域」とは調達や生産、販売あるいは回収などサプライチェーンにおける各種行程を示しています。これらが相まっての活動が「物流」です。一方で「ロジスティクス」とは戦略的な経営管理の一分野を指しています。ロジスティクスの目標は3つあり、「需要と供給の適正化」「顧客満足度の向上」そして今回の法改正の1番の狙いとなる「社会的課題の解決」です。〝トラックドライバー不足の解決〟というのは社会的課題の解決に相当します。この3つの目標を実現するための手段として「物流」が使われており、先ほど挙げた活動としての「機能」を高度化し、「領域」では調達~生産~販売を統合するという形です。
――まさに「ロジスティクス」は経営課題ですね。
北條 〝トラックドライバー不足〟についてはトラック輸送力が19年と比較して、24年には14・%不足すると指摘されていますが、課題はドライバー不足だけではありません。日本はパリ協定で引き上げたCO2排出量削減の目標値で30年までに13年比で46%削減を掲げていますが、運輸に関する目標値は35%削減です。国内の貨物分野のCO2排出量は漸減傾向であり、営業用トラックもピークアウトして以降は横ばいで推移しています。そこに35%削減の目標値を重ねると野心的な目標だということがわかります。ドライバーにエコドライブを頑張ってもらうとか、転がり抵抗の低いタイヤを使うなどの手立てだけではなく、運び方そのものを変える必要があります。ロードファクターを上げるには、リードタイムの緩和や発注ロットの拡大といった荷主を巻き込むやり方が求められます。改正法によってすべての荷主に物流改善の努力義務が求められましたが、なかでも物流量の多い特定荷主には物流統括管理者の選任が課せられました。荷主はただ荷物を運んでもらうだけではなく、ドライバー不足や物流生産性向上に一定の責任を負うことになりますから、荷主企業は自社内に、ロジスティクスを理解し、営業部門・製造部門への必要な指示を行い、方策をまとめることができる担当者が必要となります。物流関係よりも広範囲にわたる社内外のサプライチェーン関係者をつなげて、環境負荷低減やドライバー不足への対応も行うとなると、相当高度な人材が必要です。
改正法では〝物流統括管理者〟という名称であり、厳密には〝CLO〟と呼んではいないのですが、物流統括管理者がCLOを目指しているものであるという前提で言うならば、経営的にアプローチしないと物流の諸問題は解決できなくなっているという認識がバックグラウンドにあるのではないでしょうか。
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