カーゴニュース 2024年9月26日 第5278号
「2024年問題」を契機として、物流子会社は大きな変革を迫られることになりそうだ。すでにメーカー企業を中心に物流子会社を3PL大手などに売却する事例が多くなっているが、今後もこうしたケースは増えていくだろう。また、改正物流法により一定規模以上の荷主企業に物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられることが、物流管理機能を荷主企業本体に取り込む「本体回帰」を加速させるトリガーとなることが予想される。つまり、これからの物流子会社は株式売却/アウトソーシングなどによる「外部化」と、本体取り込みの「内部化」という2つの動きの狭間に立たされることが考えられる。あらためて物流子会社が誕生した経緯とこれまでの変遷をたどることで、今後の物流子会社の行方を占ってみる。 (西村旦・本紙編集長)
オイルショックで始まった物流子会社ブーム
荷主企業の間で物流子会社の設立が盛んになった契機は、1970年代前半に起きた第一次オイルショックだと言われる。多くの企業の業績悪化で苦戦する中、効率化に向けて物流管理を強化する目的から、各社は物流子会社を設立する動きを加速させた。
この時期に誕生した物流子会社は、本体の物流管理部門をスピンアウトさせた「管理型」の子会社が多いことが特徴だ。当然、それ以前から物流子会社はあったが、それらの大半は高度成長期における生産量の増加を支える輸送力確保を目的としており、おおむね「運輸型・現業型」に位置づけられる。物流子会社の歴史を概括する際、この2つの類型の違いに着目する必要がある。
電機系物流子会社を例に、実際のケースを見ていくと分かりやすい。1971年に当時の三洋電機が三洋電機商品センター(現・三井倉庫ロジスティクス)を、72年には日本電気(NEC)が日電物流センター(現・日通NECロジスティクス)を設立するなど、電機業界での子会社設立が相次いだが、象徴的だったのが74 年の東芝物流(現・SBS東芝ロジスティクス)の誕生だ。同社は東芝本体の物流管理部門を独立させるかたちで誕生した「管理型」物流子会社の嚆矢に位置づけられる。
一方、それ以前に誕生していた物流子会社を見ると、日立物流(現・ロジスティード)の場合は戦後間もない50年に設立された日東運輸(52年に日立運輸に社名変更)を前身にしているほか、三菱電機ロジスティクスも58年に設立された菱電運輸をルーツにしている。いずれも設立時の社名に「運輸」を冠しており、「運輸型・現業型」の子会社として発足したことがうかがえる。
そして誰もいなくなった――電機系物流子会社の変遷
第一次オイルショックを契機として数多くの物流子会社が誕生し、一時は「上場企業で物流子会社を持っていないほうが珍しい」と言われるほどの〝物流子会社ブーム〟を迎えるとともに、日本特有の物流管理手法としても注目された。
こうした流れに転換期が訪れたのが、90年代のバブル崩壊後。日本経済が長期低迷期に入り、企業を取り巻く環境が大きく変化する中で、各産業で大型合併など業界再編が活発化したほか、グループ内で物流子会社を再編する動きが進んだ。さらに、連結決算制度の導入により子会社の収益性が問われるようになったことに加え、終身雇用に代表される日本型雇用のあり方も見直されるようになり、物流子会社の存在意義のひとつでもあった人材の受け皿という役割が徐々に希薄化していった。
そうした中、2000年代に入ると、キャッシュフロー改善などを目的に企業の「選択と集中」がさらに加速し、本業に集中する狙いから間接部門である物流管理をアウトソーシングする流れが強まった。物流会社側でも、輸送や保管、在庫管理といった物流関連業務を包括的に請け負う3PLが台頭し、アウトソーシングの一環から物流子会社を3PLなどに売却するケースが頻出した。
こうした動きは、物流子会社ブームをけん引してきた電機業界でより顕著に表れた。2004年に富士通ロジスティクスがエクセルジャパン(現・DHLサプライチェーン)に買収されたのを端緒に、日本IBM、富士電機、ビクター、三洋電機が相次いで物流子会社を売却。さらに10年代以降はNEC、パナソニック、ソニーなども子会社株式の過半を売却し、非連結化に踏み切った。20年には、「管理型」物流子会社の象徴でもあった東芝ロジスティクスも株式の3分の2を3PL大手のSBSホールディングスに売却した。さらに23年には、日立物流が米投資ファンドKKRの傘下に入る形で日立グループから離脱。今年10月には、三菱電機も三菱電機ロジスティクスの株式3分の2をセイノーホールディングスに売却することが決まっている。
20年という時間の中で、日本を代表する電機メーカーのほぼすべてが物流子会社を放出することになったわけだが、その背景には何があったのか――。その理由についてある識者は「家電販売における系列チャネルの縮小」と「グローバル化」の2点を挙げる。かつて家電販売を支えていたのはメーカーごとに組織された販売店網だったが、家電量販店の台頭によって徐々にシェアを落としていった。その結果、各社が同じ家電量販店の商品センターに納品するようになり、3PLへのアウトソーシングが進む土壌が整備されていった。また、グローバル化が進展する中で、物流子会社単独での資金余力では海外ネットワークの構築が追いつかず、3PLなど物流大手への外注化に踏み切らざるを得ない事情もあったようだ。
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