カーゴニュース 2024年9月26日 第5278号
製薬業界は物流アウトソーシングで子会社を解散
物流アウトソーシングが急速に進んだ業界の事例として、製薬メーカーを中心とした医薬品業界も挙げられる。以前の医薬品業界では、品質重視の観点などから自社物流が主体となっていたが、規制緩和などを背景に物流会社への外注化が進展していった。
その最初のケースとなったのが山之内製薬(現・アステラス製薬)。同社は03年に物流業務を三菱倉庫に全面委託する方針を発表した。その後、同社は05年に藤沢薬品工業と合併してアステラス製薬となったが、新体制でも物流アウトソーシングを進め、同年に山之内物流と藤沢物流サービスを解散した。また、武田薬品工業も物流アウトソーシングに伴って09年に武田物流サービスを解散したほか、第一三共も第一三共ロジスティクスを実質的に解散し、物流業務を安田倉庫に委託している。
さらに23年には、エーザイがエーザイ物流の全株式を安田倉庫に譲渡。製薬メーカー大手5社(武田、アステラス、第一三共、大塚製薬、エーザイ)のうち、自社で物流子会社を保有しているのは大塚製薬の大塚倉庫を残すのみとなっている。
「外部化」と「内部化」で狭まる生存領域
ここまで、物流子会社を巡る変遷を振り返ってきたが、では今後、物流子会社はどこに向かっていくのか――。物流子会社の動向に詳しい有識者から聞こえてくるのは、子会社売却/アウトソーシングによる「外部化」と、物流管理機能を荷主企業本体に取り込む「内部化」という2つの流れがさらに加速するという見立てだ。
「外部化」については、「2024年問題」をはじめとする物流課題を乗り越えて持続可能な物流体制を維持していくためには、輸送力をはじめとする豊富な物流リソースを持つ大手物流会社との協業が欠かせないことから、引き続きメーカー系物流子会社を中心に子会社の売却を通じたアウトソーシングが進むとの考え方がベースにある。また、物流事業者側から見ても、有力物流子会社をグループ内に迎え入れることで、業種別の物流プラットフォーム戦略を展開しやすくなるなどのメリットが期待できる。
もうひとつの「内部化」については、とくに自前の輸送力を持たない「管理型」物流子会社を荷主企業本体に取り込むことで、本体主導による物流管理を強化しようという動きだ。この動き自体は、物流が荷主の経営課題の上位に位置づけられるようになったここ数年、〝物流部の復権〟といった文脈で語られることが増えているが、この動きをさらに強めるきっかけになると予測されているのが、改正物流法で荷主企業に新たに義務づけられる物流統括管理者(CLO)の選任だ。
現在、国土交通省など関係省庁による会議で、CLOの業務内容や位置づけを巡る議論が進行中だが、たたき台では「物流統括管理者は、自社における物資の流通全体を統括管理する者として、基本として、役員・執行役員等の経営者層から選任されることが必要である」とされており、荷主企業本体の役員レベルから選任される方向がほぼ確定的となっている。そうなった場合、従来、物流子会社に委任されていた物流管理機能が、CLOを中心とした荷主企業本体の物流部門に集約される流れが加速し、物流子会社の存在意義が薄れていくのではないかとの予測が成り立つ。
つまり、「外部化」と「内部化」という2つの相反するトレンドが「2024年問題」を契機としてさらに加速化し、物流子会社の存立基盤や生存領域を狭めることになるとの観測が出ているわけだ。
「ポスト24 年問題」に生き残る物流子会社とは
ただ、難しい時代を迎えることになっても、物流子会社の存在意義はなくなるわけではない。最後に、「2024年問題」以後も物流子会社が生き残るための要件を考えてみたい。
まず、今後の物流は、人手不足という課題をいかに克服するかが最大のテーマとなるため、「輸送力」の価値が最大化する。そのため、自前の輸送力を持っている「運輸型・現業型」物流子会社の優位性は必然的に高まることになる。親会社も自前で〝運び切る力〟をグループ内で保持することを重視する傾向が強まるため、物流戦略の実行部隊としての物流子会社を高く評価することにつながる。
また、物流子会社が潜在的に持っているジレンマ――親会社の物流コストを減らす貢献をすれば、子会社の収益が減るが、物流コストを減らさなければ存在価値を認められない――を乗り越えるためには、親会社以外の外販収入を増やすしか道はないが、自前の輸送力を持っていることが外販拡大の最大の強みになってくる。
一方、「管理型」物流子会社では、エンジニアリングなどに代表される高付加価値のノウハウをいかに維持・発展できるかがカギを握るとの声が多い。外部の3PLでは担うことができない高い専門性があれば、物流業務をアウトソーシングすることは難しくなる。また、自前で輸送力を持っていなくても、多数の協力会社を組織化するノウハウは今後ますます重要になる。ある物流子会社の関係者は「これまでと違って協力会社を選ぶのではなく、協力会社から〝選ばれる〟時代になっていく。そのためには、ときには協力会社の経営サポートなどきめ細かいケアがますます重要になる。親会社の物流部門だけでそうした痒いところに手が届く協力関係を築けるとは思わない」と物流子会社の存在価値を訴える。
かつてない変革期を迎える中、物流子会社の動向を引き続き注視したい。
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