カーゴニュース 2025年1月7日 第5305号
CLO制度が持つ物流変革の可能性
――今年(2025年)の物流業界の課題については、どのようにお考えでしょうか。
真貝 幸いにして、現時点においてはトラックドライバー不足による物流の大きな混乱は起きていません。この理由としては、関係者による共同輸送やモーダルシフト等への努力、また宅配の受け取り等についての一般消費者の皆さんの協力があったからと考えられます。しかしドライバーの時間外労働規制は年間規制であり、年度末である3月に向けて影響が顕在化する可能性は引き続き残っています。また、もう少し先に目を転じても、現在の上限規制は年間960時間ですが、一般則である720時間が適用された際に果たして物流が維持できるのかという課題があります。物流連としても、こうした物流を巡る状況を常に注視しながら、臨機応変に対応していく必要があると考えています。
また、今年4月以降、改正物流法が段階的に施行されますが、その中で個人的に大いに注目しているのはCLO(物流統括管理者)制度の創設です。それによって、物流の大きな変革が進んでいくことを期待しています。
――具体的に、CLO制度のどのような点に注目されているのですか。
真貝 改正物流法では、CLOは荷主企業の役員クラスが選任されると想定されています。約3000社の大手荷主に選任が義務付けられ、自社の物流に関する計画策定を求められるなど規制的措置が適用されますが、これは日本全体の物流量の約半分をカバーすることになると言われています。仮にコンプライアンス上で何らかの問題が発覚すれば、事業継続がままならない事態に陥る可能性もあるわけです。そうした事態を避けるためにも、必然的に各社における経営テーマとしての「物流」の重要度が高まり、経営トップが関与する形で自社の物流のあり方をチェックすることになります。このことは、物流業界に極めて大きな変化をもたらすことになるだろうと思っています。荷主企業の中から、すでに数多くの先進的な取り組み事例が出ていますが、今後はさらに物流管理の透明化やレベルアップが進むことは間違いないと考えています。
――確かに、荷主企業の数ある経営テーマの中でも、「物流」が相当上位に位置するようになるでしょう。
真貝 さらに、もう一歩踏み込んで考えると、CLO制度の創設によって、将来的に荷主と物流事業者との契約のあり方が変わっていく可能性もあると考えています。現在の契約形態は、発荷主と元請である物流事業者との二者間契約であり、物流事業者と着荷主の間には直接的な契約はなく、実際に荷物を運ぶ下請事業者とも契約していません。私は現在のこうした契約のあり方が物流現場における様々な歪みを生み、下請事業者を苦しめることにもつながっているのではないかと思っています。
しかし、CLO制度がスタートすれば、下請事業者にいくらの運賃が支払われているのかといった事態を把握しなければ、CLOは社内で正確な説明ができませんし、実効性のある計画を立てることが難しくなります。また、着荷主のCLOにとっても、契約関係がなく、あまりよく知らない運送会社がモノを届けているという状況を放置することは許されず、届く荷物に対しても一定の責任を持つ必要が生じるはずです。
そうなると、現状の二者間契約から、発着双方の荷主と物流事業者による三角契約、あるいは下請事業者を含めた物流に関係するすべての事業者が関与できる契約形態に発展していくことも将来的にはあり得ると考えています。こうした新たな契約の形が実現すれば、荷主と物流事業者が文字通りのイコールパートナーとして、これまで以上に連携効率が高まりますし、物流全体の底上げにもつながると思います。
物流連の役割はますます高まっていく
――これからの物流は、限られたリソースの中でいかに最適解を見出していくかが重要になります。その意味で、各モードの事業者団体や有力事業者が結集した物流連の存在意義や役割はますます重要になります。
真貝 物流連は1991年に陸・海・空の14におよぶ物流事業者団体などの参画を得て発足し、その活動の歴史は30年を超えました。ある方に伺った話では、海外では各モードの事業者団体はあるものの、モードを超えた統合的な物流団体はないらしく、その点からも発足に尽力された当時の関係者の卓見に敬意を表したいと思います。
ご指摘の通り、持続可能な物流の構築に向けて、物流連が果たすべき役割はますます大事になります。そのためにも、会員間で緊密に情報交換しながら、対外的に物流の重要性をしっかり発信していきます。
また、物流業界全体に共通する諸課題に対して、物流連がいかに橋渡しをしていけるか、それによって全体的なレベル向上につなげていけるかも大事なテーマです。目下、各業界が苦労しているのは採用や人材育成の問題であり、そこについても明確なソリューションを示していきたいと考えています。さらに、持続可能な物流を構築するために不可欠なのがハード・ソフト両面の標準化です。昨年、物流連が関与する形で国交省が11型を標準パレットとする方向性を打ち出しましたが、方針を示しただけで終わりにせず、実効性を高めるためのフォローアップに努めていきます。
今後も物流連の活動にご期待ください。
真貝 康一(しんがい・こういち)
1978年東大法卒、同年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2004年JR貨物入社。グループ戦略部長、執行役員東北支社長、取締役兼常務執行役員ロジスティクス本部営業統括部長、同事業開発本部長を経て、18年6月代表取締役社長、22年6月代表取締役会長(現任)。23年6月物流連会長に就任
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