カーゴニュース 2025年5月29日 第5342号
ジャパンマテリアル(本社・三重県菰野町、田中久男社長)は、日本トランスシティ、JR貨物と協力し、半導体の製造過程で使用される半導体材料ガスについて、三重県から岩手県への輸送の一部を鉄道輸送に切り替えるモーダルシフトを推進している。「2024年問題」をはじめとした将来的なトラックドライバー不足に備えるとともに、トレーラによる陸送と比べCO2排出量を5割以上削減。環境に配慮した持続可能な物流体制の構築を図りサプライチェーンを強化することで、顧客の安定操業と半導体業界のグリーン調達に貢献していく考えだ。
門前倉庫から工場に一括納入、トラック台数抑制
ジャパンマテリアルの事業の柱のひとつである「エレクトロニクス関連事業」のうち特殊ガス関連事業では、半導体工場向けに特殊ガスの販売から、供給装置の製造・メンテナンス、供給配管設計施工および供給管理業務に至る一貫した機能を「トータルガスマネジメント」(TGM)として提供している。
顧客の半導体工場で各種ガスを受け入れ、ガス容器の交換、空容器を返還する業務を担う。サプライヤーが個々に手配するトラックで工場が混雑するといった物流課題を解決することもTGMの一環であり、「工場に持ってくる前段階で物流をマネジメントすることが、工場の安定稼働には欠かせない」と稲見鷹也営業本部副本部長は話す。
具体的な取り組みのひとつが「門前倉庫」の設置だ。顧客であるキオクシアの四日市工場(三重県四日市市)では半導体材料ガスの多頻度納入を解消するため、ジャパンマテリアルが工場外に門前倉庫を構え、各サプライヤーのガスを集約。トラックに混載して一括納入するスキームを構築し、納品トラックの台数を抑制することに成功した。
ガスのサプライヤーは西日本に集中していることから、キオクシアの北上工場(岩手県北上市)向けの供給では物流コストの上昇が課題となった。そこで、ジャパンマテリアルは岩手にも門前倉庫を設置し、四日市と岩手の両倉庫間を大型トレーラに混載して運ぶ効率的なスキームを構築した。
輸送モード多様化、四日市~水沢駅間を鉄道輸送
四日市から北上の倉庫間の輸送距離は約912㎞。ドライバーの時間外労働規制が強化される「2024年問題」やカーボンニュートラルへの対応を見据え、輸送モードの多様化を図るため、日本トランスシティ、JR貨物とともに鉄道輸送へのモーダルシフトの検討に着手。23年からトライアル輸送を重ねた。
コンテナ内の温度や輸送中の振動などを検証し、鉄道輸送が可能と判断し、24年3月から本格的な運行を開始。1回の輸送で12ftコンテナ2個使用し、ガスボンベ128本を積載。JR貨物の四日市駅~水沢駅間の約800㎞を鉄道で運び、空容器の返送でも鉄道を使用する。日本トランスシティが集荷から着駅までの配送を一貫して元請けとして担い、着駅(水沢駅)以降のラストワンマイル配送については、同社パートナー会社であるDOWA通運に委託する。
鉄道コンテナ(12ft)の最大積載重量は5t。ガス容器は60~70㎏程度あり、比重の重い液体ガスは少量しか積めずコンテナのスペースが余ってしまう。そこで、年間通じて需要のある圧縮ガスを鉄道輸送の対象に選定。庫内の温度が40℃を超えないよう、夏期は日本石油輸送(JOT)の冷蔵コンテナ「UR」を利用する。
高圧ガス保安法の「2時間ルール」対応が課題に
なお、高圧ガス保安法では一定の場所に2時間以上高圧ガスを停滞させると「貯蔵」に該当し、諸条件を満たした施設に加え許可・届出が必要となる。この「2時間ルール」をクリアするため、四日市駅~名古屋貨物ターミナル駅~水沢駅の鉄道輸送の行程で、貨物駅での2時間以上の停滞が生じないダイヤを選定した。
今後は九州方面への鉄道輸送の拡大を検討している。関西のサプライヤー工場から引き取った半導体材料ガスを最寄り駅から熊本駅まで鉄道輸送し、ジャパンマテリアルの熊本事業所(熊本県大津町)にいったん納め、九州地区の顧客に納入する――という構想。26年初旬からの開始を目指している。
九州方面への列車本数は多いが、高圧ガスの「2時間ルール」を踏まえると、利用できる選択肢は少ない。また、北海道の半導体工場向けのガスの供給では、青函トンネルを危険物が通過できないため、本州~北海道間は海上輸送に輸送手段が限られるが、海上輸送でも「2時間ルール」がネックとなるとみられている。
こうした高圧ガスの物流の課題を検討するために、北海道経済産業局が設置した「北海道半導体物流検討会議」にジャパンマテリアルもメンバーとして参画。高圧ガスの輸送過程における滞留が「貯蔵」に該当するのか否かの判断や、海上輸送する場合の港湾等でのあるべき貯蔵方法についての協議を重ねている。
半導体の国内生産強化を支えるサプライチェーンの強靭化が求められる中、稲見氏は、「当社は半導体工場に対して技術サービスを提供する会社で、運送・物流サービスをメインとする会社ではないが、高圧ガスを取り扱う視点で業界に横展開できる物流改善の取り組みをこれからも継続していきたい」と意欲を見せる。
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