カーゴニュース 2025年9月9日 第5369号
国土交通省と北海道庁は3日、「北海道新幹線札幌延伸に伴う鉄道物流のあり方に関する有識者検討会議」の中間とりまとめを公表した。札幌延伸後、JR北海道から経営分離される函館線函館~長万部間(海線)の貨物鉄道機能について、中間とりまとめでは「少なくとも北海道新幹線札幌延伸開業時点では、海線の維持により貨物鉄道の機能を確保することが必要であるとの結論に至った」と明記した。他方、海線における鉄道施設の保有主体、維持管理費用の分担、要員の確保・育成など、整理すべき課題が多岐にわたると指摘。その解決にあたっては、国や北海道などの関係者で「なお一層検討を深度化させていく必要がある」と強調した。
船舶による全量代替は事実上、不可能
有識者会議は、2023年11月の初会合から今年7月までに計6回の会合を実施。JR貨物や物流事業者、荷主企業などにヒアリングを行うとともに、貨物鉄道機能を維持する場合の利点や課題、貨物鉄道が担っている輸送量を船舶等に全量代替できるか可能性について検討してきた。
船舶への全量代替については最繁忙期の9月で、代替輸送量が北海道発で6割程度、北海道着で5割程度にとどまると試算。さらに今後のトラックドライバー不足によって道内での陸送における制約が高まり、割合がさらに下がることが想定されるとした。関係者からのヒアリングでも「港湾からの陸送距離や苫小牧港への航路の集中を考えれば、全量を船舶で代替することは難しい」「輸送手段が寡占になれば、輸送価格が上昇」するといった懸念が示され、貨物鉄道機能を確保すべきとの意見が大勢を占めた。また、船舶輸送で主流となる20tシャーシが大きすぎる中小荷主などにとっては、鉄道で使用される5tコンテナが適しているとの声もあった。
前例がない貨物専用の並行在来線
一方、海線の貨物鉄道機能を維持する場合の課題については、鉄道施設の保有主体、維持管理費用の分担、要員の確保・育成――の3点を主に挙げた。
保有主体については、海線が旅客輸送を実施しなかった場合、「貨物輸送を専用とする並行在来線は前例がない」と指摘。保有主体は新設・既存を含めた第3セクターの活用が考えられるが、いずれの場合でも出資者、出資割合、人材の確保・育成についての調整が必要になるとした。
また、保有主体が決まった場合でも、毎年度数十億円規模の施設の維持管理費用の負担のあり方が課題になると説明。今後は国や北海道庁、運行主体であるJR貨物、利用者などが多様な観点から検討すべきとした。鉄道施設の維持管理要員も数百人規模で必要となり、人材の確保が困難になる点にも言及した。
このほか、貨物鉄道機能を維持していく場合は、青函共用走行問題にも留意しなければならないほか、機能を維持することよる効果を最大化するためには「JR貨物自体が荷主に選ばれるサービスを提供することが前提になる」と指摘した。
開業時期の延期踏まえ、最終報告は先送りの公算
今後については、札幌延伸の開業時期が当初予定されていた30年度末から早くても38年度末まで延期される見通しとなっているため、海線が並行在来線としてJR北海道から経営分離される時期は想定よりも後ろ倒しされると明記。また、札幌延伸後の地域公共交通の維持方策を検討している北海道新幹線並行在来線対策協議会・渡島ブロック会議も、現時点では旅客鉄道の維持かバス路線への転換かの選択が終わっていない。このため、中間とりまとめでは、「今後は、海線を取り巻く情勢が大きく変化していることを踏まえ、検討にあたっての時間軸を整理しながら、課題解決に向けた議論を継続していく」と説明。当初は26年3月に最終報告をまとめる予定だったが、情勢変化を踏まえて先送りされる公算が高まっている。
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