日下社長

注目のスタートアップ! トップが語る物流DX

ズームアップ
アセンド
「変動運賃」で物流業界の価値を最大化

データという“資産” を活用

2023/06/27 07:00
全文公開記事 インタビュー DX・システム・新技術

 物流システム開発やコンサルティング事業を手がけるアセンド(本社・東京都新宿区、日下瑞貴社長)は、「2024年問題」の解決策のひとつとして、変動運賃(ダイナミック・プライシング)の普及に力を入れている。ビッグデータを活用して、需給バランスに応じて運賃が自動的に変動するシステムの開発を加速。DXによって物流業界の構造変革を進め、ミッションに掲げる「物流業界の価値最大化」の実現を目指していく。


システム提供とコンサルティングが事業の柱

 

 アセンドの設立は2020年3月。創業からわずか3年強のスタートアップだが、物流業界での存在感が徐々に高まっている。今年4月には英語表記だった旧社名から現社名に変更した。


 現在、主力サービスとして展開しているのが、運送事業者向けクラウド型業務管理ツール「LogiX(ロジックス)」。輸送案件の受注・管理から配車表の作成、請求書の発行までの一連の業務をクラウド上で完結できるため、運送管理業務の効率化につながると利用者からも好評だ。

 

 適正な労務管理に則った業務計画の作成が可能なため、「2024年問題」の対策ツールとしても有効。また、業務データはシステムに自動で蓄積され、経営データとして可視化できるため、日々の経営改善に活かすことができる。さらに、「わかりやすさ/使いやすさ」を重視して開発したこともあり、誰でも簡単に扱うことができ、運送管理業務の属人化解消にも有効だという。


 日下社長は「クラウド型システムは、ユーザーの声を迅速に機能改善に反映できることが長所。導入時に高額な設備投資も必要ないため〝DXの入り口〟としても最適」と語る。


 昨年8月のリリースからまだ1年足らずだが、すでに全国数十社の運送事業者が導入。導入企業の規模も、車両台数10台から400台までとバラエティに富んでいる。足元での引き合いも好調で「『24年問題』が近付く中で問い合わせがさらに増えている。サービスの認知度は間違いなく上がっている」と自信を見せる。

 

 アセンドのもうひとつの事業軸が、運送会社や荷主企業、業界団体・行政向けの物流コンサルティング業務。運送事業者向けには運賃交渉用の資料作成やDX戦略のプランニングといった経営戦略策定のサポートを、業界団体や自治体向けにはセミナーや業界の実態調査などを受託している。

 

 運送事業者の経営改善支援では、「ロジックス」に蓄積されたデータを〝情報資産〟として積極的に活用。システムの提供だけにとどまらず、実際のデータに基づいた的確なアドバイスができることも、他社にないアセンドの強みになっている。

主力サービスの「ロジックス」

変動運賃の普及に向け内閣府SIPに参画

 

 行政と提携したプロジェクトでも、データ活用のノウハウを活かした事業を展開。昨年、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、スマート物流サービスの一環である「ビッグデータ利活用実証プログラム」に実証事業者として参画した。

 

 アセンドが手がけたのは、物
流業界に「ダイナミック・プライシング(変動料金制)」を定着させるためのAIエンジンの開発。同エンジンでは、複数の求荷求車プラットフォームなどから収集した輸送データをもとに、AIが季節波動や輸送ルート、荷量、荷物の種類などの諸要素を考慮した上で、実態に即した適正運賃を自動算出。運賃は「最低金額」「推奨金額」「最高金額」の3パターンで分かりやすく表示される。運送事業者は荷主と運賃交渉する際の判断材料として活用することで、適正運賃の収受につなげることができる。


 日下氏は「24年問題」を運賃収受適正化を進める好機にしていくべきであり、そのための手法のひとつが変動運賃だと語る。「航空やホテル業界ではすでにダイナミック・プライシングが普及している。運送業界はこれまで、供給量が多すぎるために導入が難しかったが、『24年問題』を機に供給量が減れば、運送事業者は自分たちで設定した運賃を荷主に提案しやすくなる。その際、根拠となるデータがあれば双方の納得感が高まる」と意義を強調する。

 

 同エンジンは実証実験を終え、サービス化に向けて開発が進行中。「ロジックス」に機能を搭載する形で今秋~今冬頃のリリースを予定している。


物流を〝面白くてかっこいい仕事〟にしていく

 

 将来の成長イメージとして「日本の物流事業者の約半数がロジックスを導入していることが理想的」と日下氏。「実装していることが業界のデフォルトであるようなシステムに育て上げ、物流業界のDXをけん引していきたい」と語る。

 

 そのビジョン実現に向け、ほぼ毎週、全国で物流事業者や業界団体などを対象としたセミナーを開催。多くの事業者と対話や情報交換を繰り返す日々の中で、物流に対する思いはますます強くなっているという。「一般的に、運送業は忙しい割に低賃金で報われないというイメージを持たれているが、経済や生活に欠かせない重要な社会インフラであるという認知度はむしろ上がってきている」として、DXなどを通じて適正かつ公正なルールづくりが急務だと述べる。


 また、人材不足解消のカギとなる賃金上昇を実現していくためにも、データの利活用が重要だと強調する。「物流DXやテクノロジー導入による生産性向上をさらに加速していくためにも、最先端技術を扱える人材が活躍できる環境を整える必要がある。当社はそのための土壌づくりに貢献していきたい。業界の価値を底上げすることで、若い人に物流は社会経済を支える〝面白くてかっこいい仕事〟だと思ってもらえるようにしていきたい」と展望する。

講演を通じて事業者と情報交換
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