カーゴニュース 2025年11月27日 第5391号
京浜港を中心とした港湾運送事業や倉庫保管およびグローバルな一貫輸送を行う物流事業などを展開する鈴江コーポレーション(本社・横浜市中区、田留晏社長)。物流事業本部副本部長兼業務統括部長を務める笠島智子執行役員は物流の魅力について「モノを運んで社会が動くことにロマンを感じる」と語り、国内外をつなぐ物流事業の屋台骨を支える。また、試行錯誤を通じて改善を図る姿勢で「自分らしい働き方」を重視した職場づくりにも意欲を見せる。
国際物流通じて「日本と海外の架け橋に」
笠島氏は1997年に入社。幼少期から、北米、東南アジア、欧州などへの旅行経験から旅行業界を志望していたが、大学の講義で貿易実務に関するビジネス英語を学んだ際に国際輸送の事例に触れたことから、日本と海外をつなぐ仕事である国際物流の分野に魅力を感じた。その後に足を運んだ合同企業説明会を通じて鈴江コーポレーションの国際的な事業展開を知ったことが入社を決めたきっかけだったという。
入社後は、経営企画関連の部署に配属。新規海外プロジェクトの立ち上げ調査などに従事した。強みとしていた英語能力を活かし、3年ほど文書の翻訳や通訳などの業務を行っていたが「モノを運ぶことで日本と海外の架け橋になりたい」という思いから、貿易実務に携われる物流事業本部への転属を希望し続けた。
99年にNVOCC(非船舶運航事業者)業務を行う部署へ転属し、念願だった貿易実務に関わることとなった。海外からの機械部品調達などを担当し、自社拠点や代理店をはじめとした国内外関係者とのやり取りなどのため各地へ飛び回り、とくに中国への出張が多かったという。「自分が輸出を手配した機械が現地の工場で実際に動いている場面を見たときは深く感動した」(笠島氏)。
当時の印象に残った出来事として、笠島氏は立ち上げに関わった顧客の中国工場の開所式に招待されたことを挙げ、「パートナーとして認められていると感じて嬉しかった」と振り返る。
個人を尊重し風土改善サービス品質向上に寄与
14年にNVOCC業務がグループ会社へ移管されることとなり、笠島氏は営業部へ転属。その際、一部顧客への業務に関しては同部に引き継がれた。経験を積み、管理職への昇進を打診された際には、笠島氏は自身を「キャリア志向はほとんどない」としつつも昇進を承諾。その理由として「入社時に『どんなに難しそうな仕事でも2年間はやってみよう』と自分自身に約束した。今でもその約束が自分を後押ししている」と語る。
こうしたチャレンジ精神は普段の仕事の姿勢にも反映されており、「機会があれば挑戦してみて、試行錯誤しながら物事を進めていくことを重視している。組織をより良い方向に導くためにも重要なことであり、挑戦を通じて得た経験を、プロセス改善や成果物の品質向上につなげていきたい」(笠島氏)。
管理職の心構えとして、部下とのコミュニケーションに関し、「個人をしっかりと尊重し、相手の提案を丁寧に汲みとったうえで、前向きに検討することを重視している」と語る。そのうえで「業績改善だけでなく会社の風土や労働環境も改善させていくことが、サービス品質向上につながり、ひいては世の中への貢献にもつながるのではないか」と信頼関係の重要性を示す。
故会長の言葉を胸に「自分らしい働き方」推進
2019年には執行役員に就任した。その際、故鈴江孝裕元会長から言われた「あなたが女性だからではなく、あなたでしか会社に貢献できないことがあるから役員にする。これからもあなたらしく働いてほしい」という言葉が強く印象に残っていると語る。
この言葉が心の支えになったことで、役員就任後もその思いを引き継ぎ、みんなが自分らしく働けるようにしたい――という思いから、職場環境の整備にも力を入れる。同社は昨年11月に東京本社を港区新橋から港区海岸へ移転。これに伴い、社員から事務所設備についての意見を募った。その中でも「自分らしく働ける環境を」との声が多く上がったことから、オフィスをフリーグループアドレスにするなどの環境整備を進めた。また、ドアやベンチはコンテナやパレットなど物流関連の設備をモチーフとしたデザインとなっており、これらも社員の意見を反映させたものだという。
笠島氏は仕事のやりがいについて「倉庫が貨物で埋まっていると、事業が確実に回っている手応えを覚える。貨物のシッピングマークからは国境を越えたサプライチェーンの実在を感じ、どの国からどんな工程を経て、海を渡って運ばれてきたのかと考えて胸がときめく瞬間がある。現場の方々の活躍を見ていると励みになり、顧客の業績が伸びたという報告を聞くと、モノを動かすことで社会が動いていると実感し、その度にいい業界だなと思える」と述べ、さらに「管理職に就いてからは、他の社員が活躍する瞬間をみることが一番うれしい」と語る。
女性活躍のカギ「安全に働ける環境が重要」
笠島氏は入社当初を振り返り、「当社はかねてより女性を管理職に登用するなど、女性活躍の土台が整っており、実績をきちんと評価してもらえる環境があった」と語る。
これまでの物流業界における男性の活躍に、感謝・尊敬の念を抱きつつ、「今後の発展には多様な意見や働き方を取り入れないと、次の時代までつなげていけない」と指摘。物流業界の女性活躍の現状については「一般的に、倉庫などの現場ではまだ女性が少なく、課題に感じている。海外に行くと、現場でも女性が管理職として当たり前のように働いていて、強い刺激を受けた。日本でもテクノロジーの活用や作業工程の管理などを通じて安全を強化することで、年齢・性別にかかわらず働ける環境を整備していくことが重要となる」と話す。加えて「女性活躍推進にあたっては、年齢や性別、役職を超えて安心して意見や提案を言い合える環境が必要」とし、職場の安全を物理的・心理的の両側面から捉える重要性を訴える。
今後の業界展望として「性別に関係なく、やりたい仕事がある人は周りの環境が後押ししてくれる時代になってきた。誰もが活躍できる業界として、これからさらに改善が進んでいくと思っている」と期待を込め、物流業界を志す女性の背中を押す。また、管理職になったことで実務とは異なる仕事の面白さに気づいたと振り返り、「昇進だけがキャリアの正解ではないが、機会があればとにかく怖がらずに次の一歩を踏み出してほしい。視野や世界がどんどん広がっていき、仕事がさらに楽しくなっていく」と述べる。
購読残数: / 本
恐れ入りますが、ログインをした後に再度印刷をしてください。