カーゴニュース 2025年11月27日 第5391号
群馬県を地盤にゴルフ用品販売事業などを展開する有賀園ゴルフ(本社・群馬県高崎市、有賀史剛社長)は、新たな経営の柱のひとつとして、物流・倉庫事業の拡大を目指す。地元・高崎市での倉庫開発を皮切りに、倉庫の開発・賃貸を北関東中心に拡大し、10年後までに20拠点開設を計画する。EC事業で培ったノウハウを強みに、将来的にはEC運営から物流コンサルティング、出荷なども含めた3PL業務の提供へとオペレーションの範囲を広げる方針だ。
EC物流のノウハウと立地の優位性が強み
有賀園ゴルフは1961年に北関東エリアで初となるゴルフ練習場をオープンしたことから事業が始まり、翌年2月に株式会社を設立。店舗でのゴルフ用品販売や会員権売買をコア事業に業績を拡大してきた。本社がある群馬だけでなく、首都圏や京都、静岡にも店舗を構え、現在は全国で23店舗を設ける。今後は60店舗までの拡大と売上高300億円の達成に向けて、新たな出店計画も進んでいる。
主力のゴルフ用品販売事業において、店舗販売と併せて注力しているのが、公式ECサイト「有賀園ゴルフオンライン(AGO)」や他社ECモールなどを通じたインターネット販売だ。コロナ禍でのEC需要増により、現在は販売事業における売上高の3割をEC販売が占めており、本社オフィス併設の倉庫(延床面積約1320㎡)をEC物流の専用拠点として運用している。EC事業は開始当初より、受注から保管・出荷までを自社で内製化するなど、物流ノウハウを蓄積してきた。
一方、最盛期には3000万人以上とも言われた国内のゴルフ人口は減少傾向にあり、販売事業に少なからず影響が及んでいた。有賀生雄専務取締役は「ゴルフ人口の縮小に加えて、東日本大震災による不謹慎ムードの煽りを受けて、瞬間的にゴルフの需要が厳しくなった。そのため、ゴルフ関連以外にも新たな収益の柱になる事業を確保する必要があった」と語る。
加えて、コロナ禍に伴う行動制限により、ゴルフ需要が再び低下。他方、巣ごもり需要の追い風を受けてECの業績が飛躍的に伸長した。これを契機に同社は、蓄積してきたEC物流のノウハウを活用した新たな事業として、物流・倉庫事業を本格的に開始した。
有賀氏は「東日本大震災でサプライチェーンが寸断されたことにより、災害発生時でも混乱が発生しない物流を構築するという機運が高まっていた。その点、群馬県は内陸にあるなど立地面から自然災害の影響を受けづらく、加えて、関越自動車道を起点に上信越自動車道や北関東自動車道などの高速道路網が整備されており、東北や首都圏方面への交通利便性も優れている。また、製造業を多く抱えた産業集積地でもあるなど、物流拠点の立地としてポテンシャルが高い」と説明。こうした立地の優位性も、物流・倉庫事業を本格展開する後押しとなった。
2拠点を新設、今後は冷凍・冷蔵対応施設も計画
有賀園ゴルフではまず、倉庫の賃貸事業から着手。その最初の一手として、2023年6月に高崎市で新倉庫「有賀園LOGITEX TAKASAKI―2」(約8275㎡、平屋建て)を開発した。「LOGITEX」という名称は「ロジスティクス」と「テクノロジー」をかけ合わせたもの。施設の運営では、同社傘下で不動産事業を手がける有賀園不動産と連携している。
同倉庫は、開発前から精密機器の配送・設置などを手がける新開トランスポートシステムズと近鉄エクスプレス傘下の近鉄ロジスティクス・システムズの入居が決定しており、仕様の大部分を両社の業務に合わせて設計した施設として開発した。群馬県は全国的にも夏場の気温が高いことで知られるが、同倉庫は全館空調を採用しており、従業員の労働環境整備や精密機器の高品質な保管を実現。空いた区画は当初、有賀園ゴルフがEC拠点として利用する予定だったものの、現在は2社の入居により満床で稼働している。
さらに24年12月には、かねてより有賀園ゴルフがラストワンマイル配送を委託しているヤマト運輸と連携し、同じく高崎市内に「有賀園LOGITEX TAKASAKI―3」(約2700㎡、2階建て)を開発した。同倉庫は、高崎市内に点在していたヤマトの営業所を集約し、同社の「高崎営業所」として稼働。自動化機器などを導入した次世代型物流拠点として、効率的な物流を実現している。2階には休憩室などを備えて労働環境に配慮しただけでなく、屋根面には太陽光パネルも導入し環境負荷低減にも寄与している。現在は敷地内に第1期のみの建設が完了しており、今後は他社への賃貸施設として第2期の開発も計画。竣工時期は未定だが、現在はテナント候補との交渉段階にあるという。
加えて、27年春には群馬県玉村町に「有賀園LOGITEX TAKASAKI―4」(敷地面積約1万6550㎡)の着工を予定する。低温物流対応施設としての開発を見据えており、需要が高まる冷凍食品関係の荷主・物流事業者のリーシングを図る。すでに東京に拠点を持つ大手食品メーカーや大手卸売業から引き合いがあり、交渉を進めている。
EC運営から輸配送手配まで一括提供の体制構築へ
現在は7拠点目まで構想段階にあり、すでに大手の物流事業者からも引き合いの声がある。今後の開発計画として、群馬県外でも、埼玉・千葉・神奈川といった首都圏や茨城・栃木での開発も視野に、将来的には今後10年間で、北関東を中心に20拠点の開設を計画している。
土地の選定に関して有賀氏は「圏央道周辺など、他社デベロッパーによる物流施設の開発が集中しているエリアは避ける。施設の規模などで大手デベロッパーに対抗するより、ミニマムな施設を利便性の高い立地に建てて、十分に活用していく」と説明。そのうえで、「群馬県は土地代が首都圏より控えめで、かつ当社は複数のゼネコンとも協力関係にあり、建築コストを抑えられるため、競争力のある賃料をテナントに提案できる」と語る。また、管理本部の樋口達也総務部部長兼事業開発室室長は「基本的に顧客の業務や要望に合わせた仕様で倉庫を作っていくことが他社との一番の差別化になる。立地に関しても、顧客がどのあたりに倉庫を建てたいのか、ニーズを踏まえて提案していく」と述べる。
テナント確保への営業戦略として、特にECを手がける大手企業などをターゲットに据える。交通利便性やBCP面での優位性、土地代の安さなどをアピールし、第2、第3の拠点開設を検討する企業などにアプローチしていきたい考え。また、土地の確保やテナントの誘致にあたり、自治体との連携にも力を入れる方針だ。
コア事業に関わるゴルフ用品メーカーを荷主として取り込む考えも、物流・倉庫事業を開始する当初はあったものの、すでに物流の外部委託が進んでいたことなどから交渉はあまり進まなかったという。有賀氏は「ゴルフ業界はメーカー同士の共同配送など、物流最適化がある程度進捗している。当社の事業としては『2024年問題』の対応やBCPを考慮した物流拠点を検討する荷主に対し、倉庫事業を通じてサポートできる体制を作りたい」と話す。
現在の倉庫・物流事業は倉庫の開発・賃貸のみにとどまっているが、将来的には3PL業務も輸配送を含め、オペレーション提供を拡大したい考え。これにあたり、3PL事業者や配送事業者を傘下に取り込むといった戦略も検討しているという。さらに、他社EC運営や物流コンサルティングにも踏み込むことで、3PL業務、輸配送までを一貫して提供できる体制を構築し、物流・倉庫事業者としての成長を目指す。
今後のビジョンとして、有賀園ゴルフの年間売上高が現在100億円程度であるのに対し、10年後における物流・倉庫事業の売上高を全体の半分にあたる50億円程度まで引き上げたいとしている。有賀氏は「国際的な大手物流事業者や倉庫事業者と同程度にまで事業を拡大することで、日本から世界に向けて、物流問題を解決できるようなポジションを目指していきたい」と語る。
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