カーゴニュース 2024年8月8日 第5266号
大いなる花の菫に夜明け来し 石鼎
この菫はパンジーのことらしい。寝苦しかった夜明けを詠ったものだという評あり。
ところで、皆さん、もういわゆる先端物流話に飽きてこられたのではないですか。小さな物流を考えませんか。テレビ関係の人が「一味違った前向きの物流の番組を作りたい」と言う。そこで僕はこう言った。「年商1000億円を越えるメーカー・流通業の荷主と年商100億円以上の運輸業の絡むケースは取り上げない。また、輸送距離が200キロを越える域間輸送も取り上げない。これで番組を作ったら一味違う」。するとそのテレビ氏は「そんなものできるわけがない。第一、目で見るV(ビデオ)が出来ない」と言ったのであります。
最近、テレビや一般紙において物流特集をするケースが目立つが(専門紙はもちろん)、それは「物流危機」がらみで、これからの物流の改善方向や優れたシステムを紹介する。これはこれで正しい姿勢だし、有益なものです。でも、それで物流危機は解決するのだろうか。以前から考えているのですが、この物流という巨大な経済分野はすべての製造業、流通業の総販売高の5%の費用であり(支払い物流費はその半分)、運輸業の産業規模も計算が難しいが20兆円以上、うちトラック業は15兆円以上もあるわけです。それを一口に〝物流〟と言ってよいのだろうか。
物流には「大物流(メジャー物流)」と「小物流(マイナー物流)」の2つがあると思う。この2つの世界のうち、現在、話題となる「これからの物流」は大物流の世界の話でないのか。それでは小物流の世界の話はどうなったのか。
何を隠そう、小生、今から40年前に「物流の新しい技術」(日本工業新聞社)という本を書きました。欧米を調査し、日本にはまだ登場していない将来の物流の新技術を紹介したものです。インターネットはまだ存在しないのでディジタル化に関するものはないが、今でも理想(?)とする優れた物流の技術を何もわからないまま、取り上げました。「ピギーバック(トレーラーと鉄道の結合システム)」「トレーラーの中継リレー方式」「ハンガーシステムによる自動化センター」「ランドブリッジ」「立体自動倉庫」「ユニットトレイン(物資別専用輸送)」「連結トレーラーの高速走行」「クランプフォークとシュリンク・パッケージによるパレットレス・ハンドリング」「POSによる自動発注・補充システム」などなど夢のような話。僕はこの本が大ヒットすると期待していたのですが、実際はほとんど売れなかった。「どうしてだろうか」と考えたのだが、こんな本に興味を示すのは一部の大企業の人だけ、読者の市場が全く小さかったのです。つまり、この本の話は一部の先進的かつ余裕のある気楽なヒトだけの〝愉快な話〟だった。
これ以来、僕はベストセラーを書こうという気持ちが薄れた。その後、版を重ねたのは日経文庫の「物流の話」とか「ロジスティクス入門」といった面白くもなんともない本ばかり。大物流向けの本はもう売れず、小物流向けの本を書ける人はいない(エレジーは書くが)。
今、必要なのは小物流の独立させた分析と政策です。小物流論を確固としたいと願っています。「それは中小企業論の話で物流論ではない」とある人が言った。しかし、今、トラック業界でM&Aが注目を浴びています。横型から縦型にこれが進むとやがて、これまでの下請け、孫請けが子会社、孫会社に変わるのか。それで小物流が大物流の仲間に移行し、多層構造問題が変化するのでしょうか。下請け孫請けが子会社孫会社に変わるだけで中味は変わらなかったりして。
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