カーゴニュース 2025年3月6日 第5321号

貨眺富栄303
「朝三暮四の夢」
中田信哉
(神奈川大学名誉教授)

2025/03/06 07:00
コラム・寄稿

 家電メーカーS社と音響メーカーP社が物流共同化を行うという昔話。僕たちは「これは絶対にうまく行かないね」と言った。理由はS、Pともに有名なケチ会社、開発投資や販売投資は別として、物流費には1円でも余計に払いたくない、とにかく物流費をカットしたいと、日夜考えているような会社です。確かに両者の輸配送部分を統合すれば計算上、運送費は大幅に削減できる。これは誰が考えても当たり前。ところが踏み込んで見ると物流費にはいろいろある。本当に物流効率化になるのか、ということでこの話はご破算。「それも当然。両方とも人のナントカで相撲をとりたいと考えているからね」と笑いあったものです。

 

 ヤマトと郵便、ホンダと日産、ともに安易な話から始まったのではないのか。ヤマトは人手が足りない、だからメール便などの配達は郵便に任かせればよい、郵便は固定費にプラスとなる。能力に余裕が出てくるとヤマトはこれをやめようとし、郵便は裁判所に訴える。ホンダも日産も、今後のハイブリッドやEVの研究開発、中国への対応などを考えると両者が統合して世界第三位(三菱を含める)の企業にしようとしたのでしょう。しかし、日産の経営内容とか改善の遅さで危機を感じるホンダは日産の子会社化を出してきた。プライドの高い日産がこれを受け入れるわけがない(僕はよい話だと思うが)。この話はこれもご破算。ただ、自動車業界はこれではすむわけがないので、今後は違う形になるはず。

 

 日産は今でも日本の二大自動車メーカーとしてトヨタと並ぶ存在だと思っている。ブルーバード、フェアレディー、スカイラインと歴史を作ってきたと思っているのではないのか(元はほぼプリンス)。「ホンダなど二輪メーカーだろう」では統合は許されても、子会社になるなど…ということでしょう。こういう話はボトムアップではいけない、ボトムアップだとすぐにもれる。トップダウンでなければ、と言うが、普通、企業のトップマネジメントは普段から遠い夕空を眺め、大まかな表面の数字でこういう構想を打ち出す。つまり、この段階では足し算・引き算の世界です。しかし、いざ内容を詰めていくとそれは掛け算・割り算の世界。

 

 朝三暮四という格言がある。サルに木の実を朝3つ、夜4つあげようと言うとサルは怒った。では、朝4つ、夜3つでどうだ、と言うと喜んだ。サルに失礼な話です。でもこれはサルが正しい。今すぐ4つ貰える方がよい。夜までに何がおこるかわからない。本当に貰える保障はない。それなら目先の数が大きい方がよい。それはともかく。ただ目先にこだわっていると大体その話は壊れる。M&Aでもお買い得な優良企業などあるわけがない。自社に必要な部分があり、修理すればどうにかなる会社を獲得すべき。これを僕は「リフォーム型M&A」と呼んでいます。

 

 ところで僕はトランプさんを見ていて「安売りチェーン店のバイヤーとバッタ屋の駆け引き」を考えます。バッタ屋さんはシャツ1枚500円で買え、と言う。バイヤーはシャツ1枚100円で買うが1000枚全部、現金で買う、と言う。こういう勝負。加・墨にとんでもない関税をぶつけるが違法薬物、移民問題で譲歩させてペンディング(?)。グリーンランドやパナマ運河を自分のものにすると言うが本当にそうは思っていない。ここから何かを引き出す。ウクライナ停戦も同じ。これは掛け算割り算ではなく足し算引き算の世界の話。国際問題も「売った買った」と値切りの一本勝負。バッタ屋トランプ・バイヤープーチン(反対か?)。

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