11日の記者会見で陳謝する犬飼社長(左)

カーゴニュース 2024年9月17日 第5275号

FOCUS
JR貨物が輪軸組立でデータ改ざんなど不正行為

全貨物列車が一時運行停止、輸送への影響懸念広がる

2024/09/13 16:00
FOCUS 貨物鉄道・通運 安全・BCP

 JR貨物(本社・東京都渋谷区、犬飼新社長)の「輪軸」組み立て時における不正行為の影響が広がっている。同社は10日、検査データが基準値を超えた輪軸を搭載した車両(機関車4両、貨車560両)の運行を停止したが、翌11日に不正の有無が確認できていない貨車が新たに300両見つかったことで、一時的にすべての貨物列車の運行を取りやめる異例の措置をとった。その後、安全が確認できた列車は順次、運行を再開したが、引き続き同社の輸送力の1割程度に相当する貨車の運行停止が続いており、輸送需要が高まる年末に向けて影響の拡大が懸念される。

 

輸送への影響「臨機応変にカバー」

 

 同社の犬飼社長は11日に行われた記者会見の冒頭、「お客様、関係する皆様に多大なるご心配やご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます」と陳謝した上で、「昨日時点で運行を停止した車両に加えて、本日、安全確認がとれていない貨車が新たに300両見つかったため、安全確保を最優先する観点から、現在走行中の列車について一時的に運転を見合わせた」と報告した。


 検査データ改ざんなどの不正行為については「社長就任以来、現場力をいかに向上させるかに注力してきたが、現場で不正が発生したことについては誠に残念であり、痛恨の極み。社長としての至らなさを重く受け止めている」と述べた。「結果的に、上辺だけの現場力の向上になっていた。安全はすべての基盤であり、コンプライアンス教育も進めてきたが、結果としてこのような事態を招いてしまった。安全やコンプライアンス意識の徹底を根底からやり直す必要がある」とした。


 今後の輸送への影響については、「貨車の数量としては全7000両のうち、1割程度が使えない状態だが、平時からすべての貨車が100%稼働しているわけではない。また、現状のコンテナ積載率は全日平均で7割強であり、需要の多い区間や列車に貨車を充当し、需要が低い区間の車両数を減らすなど臨機応変な対応でカバーしていく」と、影響を最小限に食い止める考えを強調。「心苦しいが、お客様には積載率の低い土日の利用も含めたご協力をお願いしたい」と要請した。


 輸送力が正常に戻る時期については「国土交通省の特別保安監査を受けている状況でもあり、現状では極力早くとしか言えない。まずは、基準値を超えている貨車が安全に使える状態なのかを検査して、関係者の同意を得た形で運行に戻していくことを早急に進めていく。一方、状態の悪い貨車については、車軸を交換していくが、それには一定の時間がかかる」との見通しを示した。

「輪軸」のイメージ

3ヵ所の車両所で検査データ差し替えなど不正行為


 これまでの経緯を振り返ると、今回の不正行為は、7月24日に山陽線新山口駅構内で発生した貨物列車の脱線事故を受け、6日に広島車両所(広島市東区)内で輪軸組立作業の確認を行っていた際、社員からの申告によって発覚した。


 金属の棒である車軸に車輪をはめ合わせる圧入作業を行う場合、車輪の穴の内径は、車軸の外径よりもわずかに小さい(0・03㎜程度)ため、約100tの圧力を加えて押し込む必要がある。同社はその圧入力値について上下の基準値を設定していたが、広島車両所では、圧入力値が基準値の上限を超えた場合、基準値内のデータに差し替えて検査を終了させていた。JR貨物の調査では、2014年頃から不正行為が行われており、脱線車両にもデータが差し替えられた輪軸が搭載されていた。


 こうした事態を受け、他の車両所でも調査を行った結果、輪西車両所(北海道室蘭市)と川崎車両所(川崎市川崎区)でも不正行為を行っていたことが判明。例えば川崎車両所では、圧入力値が基準値を超えた場合、基準値上限の数値を検査記録表に記入していた。


 基準値を超過した輪軸を搭載した車両は、10日発表時点で、輪西車両所で作業を行ったものが貨車309両、川崎車両所が貨車218両、広島車両所で機関車4両・貨車33両となっており、合計で機関車4両・貨車560両におよんでいる。JR貨物のコンテナ貨車は約7000両あることから、輸送力全体の約1割に相当する。

 

 10日に国土交通省内で行われた会見では、小暮一寿取締役兼常務執行役員(鉄道ロジスティクス本部長)が冒頭、「お客様や関係者の皆様に心よりお詫び申し上げます」と陳謝。不正行為が起きた背景については、圧入力値が基準値を下回った場合は、車輪の固定に不具合が生じる可能性があると認識していた一方、基準値を若干超過する分には問題がないとの認識が作業担当者の中にあったとの見方を示した。会見に同席した西田茂樹車両部長は「圧入作業がやり直しになることで、作業工程が輻輳してしまうことへの懸念があったほか、車軸に傷が入ると廃棄となる場合があるため、コストを気にしていた面があった」と述べた。


 その後、翌11日になって、該当する564両以外に、新たな貨車300両で安全確認がとれていないことが判明。急遽、すべての貨物列車の運行を一時的に停止して、該当する貨車がどの列車に搭載されているかを確認する異例の措置をとり、宅配貨物の配達に遅延が発生するなどの影響が出た(12日に300両のうち67両が不正に該当と判明)。

国交省での会見で陳謝する小暮取締役(左)

「貨物鉄道への信頼を損なう行為」鉄道局長コメント

 

 JR貨物を所管する国土交通省では今回の事態を重く見て、11日に不正行為のあった3つの車両所に特別保安監査を実施。監査の結果を踏まえて、安全・安定輸送の確保と再発防止の徹底について厳正に対処していくとした。


 また、同省の五十嵐徹人鉄道局長は同日、「(今回のような)不正行為は、鉄道輸送の安全確保の仕組みを根底から覆す行為であり、極めて遺憾。また、11日に同事案に関連して一時すべての貨物列車が運行停止となったことは、物流『2024年問題』への対応やカーボンニュートラル実現への貢献が期待されている貨物鉄道に対する信頼を損なうもの」との厳しいコメントを出した。 

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