カーゴニュース 2025年1月7日 第5305号
【荷主の物流組織を読む】
荷主は物流部門を強化、子会社の存在意義は?
E 皮肉な言い方になるけど、荷主の物流に対する意識が高まることは、物流事業者にとっては必ずしもいいことばかりではないような気がする。
B 荷主の物流の効率化・改善の動きは、まさに「業界総力戦」の様相を呈してきた。荷主が業界を挙げて物流改革の取り組む中で、運び方、物流拠点の持ち方などの主導権を握り、文字どおり「主」となっていくのではないか。
荷主同士が直接コミュニケーションをとり、まさに荷主主導型で物流共同化を進めるようになると、物流事業者からの提案の余地は少なくなる。過去にあった事例のひとつが、コンテナのラウンドユースだ。これはAという荷主が輸入で使った海上コンテナを、Bという荷主が輸出で再利用するという取り組みだが、AとBの荷主主導でラウンドユースのスキームが構築されると、フォワーダーや海上コンテナ輸送会社といった物流事業者はそのスキームにはめこまれて動くだけで、コストもガラス張りとなり「おいしいところは荷主が全部持っていってしまう」とのことだった。荷主は物流の知見を蓄積し、業界全体でその知見を結集し、物流効率化を進めていくようになる。物流事業者がパートナーとして重要であるという位置づけはもちろん変わることはない。ただ、Amazonが自社にとって最も効率的な物流システムを構築し、そのコントロール下で配送業者がシステマチックに動く――これと同様なことが、今後、いろいろな業界で起きてくるのではないかという危惧がある。
A 荷主主導のある種の弊害ということだね。効率性を究極まで追求すると、いい意味での〝ハンドルの遊び〟がなくなって実運送を担う事業者が追い詰められて疲弊してしまう。そうしたことは実際に起きていて、そこは本当に課題だと感じている。私はその部分におけるある種の中和剤というか緩衝剤の役目を担うのが物流子会社という存在だと思っている。
B どういうこと?
A 本社組織の中枢に近いロジスティクス部門やSCM部門は効率性を最重視する。これ自体が悪いわけではなく、むしろ当たり前のことだ。ただ、企業戦略上の効率性だけを追求して、その仕組みに物流事業者をオートマティックに当てはめるだけでは、物流事業者が疲弊してしまう事態が起きかねず、荷主と物流事業者との永続的な互恵関係を築くことができないように感じる。
そこで、荷主本体と物流事業者との間に、より物流現場に近い存在である物流子会社をワンクッション的に置くことで、荷主本体の戦略やロジックをうまい感じで中和して現場に落とし込んでくれるのではないか。
今後、ドライバー不足がさらに進めば、「運ぶ」ことの価値はさらに高まる。そうなると、いかにパートナーシップ意識の強い協力運送会社を囲い込むことができるかが、荷主企業の盛衰のカギを握ることもあり得る。その際に大事になってくるのは、パートナーである協力会社にいかに適正利潤をもたらすことができるか、だ。協力会社との間で強いエンゲージメントを結ぶことができるのは、荷主本体よりもむしろ物流子会社だと思っている。
E 確かに、これからCLO制度が本格的に始まれば、荷主本体の権限がさらに強化されることになる。そうなった時に、荷主本体と協力会社とのダイレクトな関係だけでは認識の乖離や齟齬が生じかねないということだね。
A 物流現場は、常にイレギュラーなことが起きるので、机上の計算だけでは回らない世界だよね。ロジックが大事なことは十分理解しているけれど、部分最適の集積が必ずしも全体最適にはならないのと同様に、多少の余剰やリダンダンシーを飲み込みながら運営していくことも、リアルな経済活動では重要になると思う。
C クルマを例に考えてみると、エンジンが動力を生み出し、トランスミッションがその動力を車輪に伝えて走っている。荷物を効率的に運びたいというエンジン=荷主の意思があり、それを的確に実現するために物流子会社が適切なギアを選択して、車輪である運送会社に――というイメージが浮かんできた。物流というクルマをうまく走らせるためには、トランスミッションとなる物流子会社の役割が重要だということだね。
A 物流子会社の役割や機能は各社ごとに違うけれど。例えば、これまでは物流子会社も物流戦略の策定機能を担っていたのに、CLO制度がスタートした後は、荷主本体に戦略策定機能が完全に戻ってしまうという事例も今後は起こり得るだろう。そうなった時に物流子会社の存在意義があらためて問い直される場面が出てくると思う。そこに対する答えのひとつが、先程から申し上げたところでもあるのだけどね。
E トラックの車両数が減っていく中で、物流子会社に求められる重要なミッションのひとつが「集車力」だ。いざという時に車を集められる力を維持するためには、ギブ&テイクも含めた現場的な裁量が必要になるということだね。
A その通り。場合によっては、経営が行き詰まった協力会社をM&Aしたり、経営支援することだってあるだろう。物流の実行部隊である物流子会社には痒いところに手が届くような施策が求められる。そうでないと、〝運送経済圏〟を守ることができない。
B 物流子会社の果たしている、意外と重要な役割のひとつに、協力会社との取引を維持するための、ある種の「柔軟さ」が挙げられる。たとえば、往復で荷物を運べるようにあえて復路にトラック1台分の仕事を作ってあげる――なんて話がある。「1台分つくる」という発想が、協力会社の維持、ひいては物流体制の安定化につながっている面がある。無駄とは言わないまでも、必ずしも経済合理性だけでは割り切れない世界だよね。
C 物流子会社と協力会社とがしっかりと向き合った関係を築いているからこそできることだね。そうした血の通った調整機能がこれからの物流子会社にはもっと求められるのかもしれない。
そうなると一部で言われているような、「物流子会社不要論」は空論ということかな。サプライチェーンだってメーカーと小売の間に卸があるわけだし。物流子会社に求められる役割は確実にある。逆に言えば、その役割を果たしていない物流子会社は不要になっていく…。
A 一般論として、戦略機能は荷主本体に戻るわけだから、そういう意味で物流子会社の存在意義は多少薄れることは避けられない。しかし、たとえば食品や酒類・飲料、一部のケミカル系物流子会社のように、自分たちで実運送部門を持ち、ある程度の物量も持っている物流子会社は間違いなく生き残るだろう。また、自前の車両を持っていなくても、協力会社をしっかり囲い込んで上手に動かせる存在であれば、生き残る道は十分にあると思うけど。
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