カーゴニュース 2025年1月7日 第5305号
【多重下請け構造】
「元請け」とは誰か、利用運送の位置づけを問う
A その多重下請け構造だが、現在、国交省で見直しに向けた議論が続いているが、見通しはどうだろう。
B 多重下請け構造の是正は、当初は利用運送やマッチング業者を規制するものだと思っていたが、蓋を開けてみたら、あくまでも「実運送業界内の下請け規制」だった――という印象を受けた。
まず、荷主に次いで上位に位置する利用運送や物流子会社は、改正物流法で求められる「下請け管理簿」の作成義務がなく、下請け管理簿の開示請求をできる「準荷主」のような位置付けになっている。つまり純粋な利用運送は元請けでなく、あくまでも実運送のトップが「元請け」に位置付けられ、下請け管理の責任を負うという整理の仕方になっている。
「元請け」に対する定義はかなりあいまいで、文脈によって意味が微妙に変化するものだが、多重下請け構造是正にかかわる今までの議論をみていると、少なくとも法律の範囲、つまり貨物自動車運送事業法の改正に伴う規制の対象としては、物流子会社やプラットフォーマー(マッチング事業者)は「元請け」にはあたらず、その下で運送業務を引き受けた実運送会社を「元請け」と見なし、そこからスタートして1次、2次とカウントされている。つまり、多重下請け構造を「実運送会社間の取引の問題」と位置付けたことで、より問題の所在が明確になり、多重下請け構造は業界内部の問題であることがはっきりした。
E それは、あくまで貨物自動車運送事業法の範囲内での整理だから、そうなってしまうという部分があると思うけど。
B これから利用運送や物流子会社に対する規制は出てくるかもしれないけれど、あくまで今回の規制法の対象としての元請けは「実運送会社」が該当する。それで、そもそも多重下請け構造が発生するのはなぜかを考えてみたのだが、私は多重下請け構造の根っこの部分は、「実運送会社が自社で受け切れない仕事まで受けてしまう」、「採算が合わない仕事まで受けてしまう」という無責任な受注姿勢に起因しているように思う。つまり、「発注」側ではなく、「受注」側の問題ではないか、と。下請け管理簿の作成を義務付けることで、どの程度の是正効果があるかはわからないが、無責任な受注に対する一定の歯止めになるのではないか。
一方、多重下請け構造の是正について、「実運送会社間の取引の問題」に焦点を当てたのはいいとして、純粋な利用運送は、少なくとも下請け管理簿などの規制的措置からはフリーハンドな立場になり、トラック業界が当初、強く求めていた「水屋規制」という論点は薄くなってしまった印象がある。利用運送事業者や物流子会社、プラットフォーマーは、改正物流法において「物流効率化法に基づく規制」と「貨物自動車運送事業法の規制」の間をすり抜けてしまっており、彼らが果たすべき責任がどのように位置付けられるのか、今後の議論に注視していきたいと思っている。
A 「無責任な受注」に関しては、日本の文化として「なんでもできます」と答えることが、営業の姿勢として褒められてきた部分もあるのではないか。商慣習の見直しを含めてそのあたりをどう整理するのかは、物流の構造改革にとって意外に小さいくないテーマかもしれない。
それと、これはずっと思ってきたことなんだが、国交省は利用運送事業という存在にもっと注目すべきだと思う。実運送としての元請けはもちろん存在するが、実態としてはその大元に利用運送事業者や3PLがいて、そこが本来の意味での1次請けとなる。にもかかわらず、貨物自動車運送事業法の枠外にあるため、そこを除外して規制を実行していこうとしても、実態を正確に反映できないという課題意識を持っている。
ここ数年の国交省の物流施策は、貨物自動車運送事業法の枠内、つまり実運送にフォーカスした形で政策課題を整理している。それはそれで一定の意義はあるのだけど、もっと本質的には利用運送事業者、フォワーダーにも焦点を当てた政策アプローチが必要だ。グローバル物流を見ても、モノの流れをコントロールしているのはメガフォワーダーという存在だ。日本も同様で、物流を実質的にコントロールしているのは、プラットフォーを含めたフォワーダーだと言える。フォワーダーを「総合物流事業者」と言い換えても差し支えない。
E 確かに、フォワーダーへの行政の関心がやや薄いという言い方はできると思うが、「24年問題」という課題の主要テーマが、実運送の担い手であるドライバーの待遇改善にある以上、やむを得ない面はあると思うよ。ただ、気になるのは「利用運送事業者=水屋」と狭くとらえることで、フォワーダーという存在を少し矮小化している傾向は見受けられるかな。
話を整理すると、実運送の枠内で「元請―下請」の関係を整理することには一定の有効性はあると思う。だが、次のステージでは〝元請としてのフォワーダー・3PL〟を含めた形で多重下請け構造の課題を包括的に整理していくことは大事だ。
B 「輸送責任の問題」と「多重下請け構造の是正の問題」を分けて考える必要があるかもしれない。ただ、利用運送事業者が負う輸送責任の範囲内で、多重下請け構造の是正に何らかの責任を果たす必要があるのではないかと思う。多重下請け構造は輸送品質を低下させるリスクを抱えているのは明らかで、荷主から直接の「元請け」の立場にある利用運送事業者が、そこに何もコミットしなくていいことにはならないのではないか。
A 普通に考えたら、誰もが「元請け=フォワーダー」だと思っているんじゃないかな。実運送の1次請けとフォワーダーが同じ会社であるケースもあるけど、多重下請け構造の起点はフォワーダー・3PLだというのが一般的な認識だと思うけどね。
B 多重下請け構造と言われる中で、一体誰がサヤ抜きしているのか――というのはよく議論になる。あくまで仮定の話として聞いてほしい。
仮に荷主が適正な運賃を払っているとした場合、元請けである物流子会社はそもそも大きく儲ける必要はないし、委託先の大手物流会社も多くの場合、運送だけでなく倉庫も含めた物流全般を請け負っているので、運送部門で大きく儲ける必要がないため、それほど抜かずに下請けの物流会社に支払っている。ところが、その先になるとだんだんと怪しくなってくる。トラック協会の会合の中でも、「まず皆さんが下請けに適正な運賃を払っているのかをチェックすべきだ」という意見があったとも聞く。つまり、トラック業界内部の多重下請け構造を改善しないことには、実運送会社の適正運賃収受は実現しないということになるのではないか。
A そうなると、荷主にとってはみれば「結局のところトラック業界内の問題ではないか。自分たちで解決してくれ」となるのではないか。だからこそ、多重下請け構造の是正は必ずやり遂げるべきテーマだと思う。
E 冒頭のほうで話題になったトラック事業への「更新制」導入も、そうしたトラック業界内の危機感の表れだと理解しているけど。
D 先程、日本では「何でもできます」という営業姿勢が評価される文化があるという話があった。しかし、実際は「何でもできます」と言わなければ仕事を獲得できないというのは、営業力がない証拠でもある。営業力がないからこそ、「水屋」のような存在から仕事を斡旋してもらって何とか存続できている会社がある。多重下請け構造が是正されていくと、こうした営業力のないトラック事業者から真っ先に淘汰されていくのではないかな。
そうした営業力のないトラック事業者に〝救いの手〟を差し伸べているのが、マッチングサイトなどの事業者の存在なのだろうけれど、手数料の相場はどのようになっているんだろう。実運送事業者にとって採算の取れない運賃でマッチングしようとする業者がいるのなら、それでは多重下請け構造がある場合と何も変わらない。そういう案件はどのみちマッチングは成立しないだろうけれど、そうした採算度外視の案件に対する抑止力として、多重下請け構造を是正する流れの中で、マッチングサイトに対しても法令によってある程度の規制や指導を行うなど、国の一定の関与があるべきではないかな。
C 中小零細のトラック事業者の営業力不足を事実上補完しているのがマッチングサイトだから、必要な存在ではあると思うよ。中小事業者が99%を占めるというトラックの業界構造を考えても、マッチングサイトがなければ積載率や実車率はもっと下がってしまうだろう。
ところで標準的な運賃では、利用運送手数料として運賃の10%を収受することを求めており、下請けを使うと10%ずつ収受運賃が上がっていく基本設計になっている。これは荷主も元請けの利用運送会社も納得いかないのではないか。下請けを使うことで10%以上の付加価値が生じているのならば納得できるけれど。実運送業界が多重下請け構造を正さずして、荷主や元請けに利用運送手数料を請求しようというのはムシのいい話ではないだろうか。
E それはやや一元的な見方だな。3PLなどのいわゆる元請けが荷主から「安値」で受注し、末端の運送会社まで利益が届かないという問題だってあるだろう。「失われた30年」と言われるデフレ経済下において実運送事業者の疲弊が進んだわけだが、3PLという存在がそれを助長させた側面だってある。
A 3PLが物流を包括的に受託して、運送や保管も全部請け負いますというビジネスモデルは、荷主にとってはとても楽な存在だった。3PLは〝デフレ産業〟的な側面もあって、実運送が痩せていく一方で、3PLビジネスが大きく成長したというのがこの30年の物流業界の歴史でもある。
3PL、総合物流、フォワーダーなど呼び方は様々だが、彼らの存在が物流にとって非常に大事な存在ではあることは間違いない。ただ、その役割を認めたうえで、負の側面や多重下請け構造に与える影響などにも光を当てないと、物流の全体像は見えてこないと思う。
B そこは改正物流法のうち、物流効率化法による荷主・元請け規制で措置するつもりなんじゃないかな。
C その点については、取引関係を規定した下請法や独禁法(物流特殊指定)が関わるところでもある。また、貨物自動車運送事業法では、荷主は輸送の安全に配慮すべきと規定している。極端に安い運賃は安全運行の阻害要因となり、法令違反とされる可能性もあるだろうね。この理屈を押していけば利用運送業者や物流子会社、元請けを規制することもできるよ。
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