カーゴニュース 2025年6月5日 第5344号
「営業倉庫」の意義に注目! オペレーションに宿る“魂”
大手倉庫会社の不動産事業における攻めの戦略に注目が集まっている。大手倉庫会社は「物流事業」と「不動産事業」を二本柱としているケースが多い。東京証券取引所(東証)が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したのを機に、資本効率を改善するため、保有資産を長期保有せず、売却で得た資金を新たな事業に投資する「回転型ビジネス」を取り入れる企業が増えており、こうした動きが土地や建物を多く保有する倉庫会社にも広がりつつある。不動産賃貸を中心とした倉庫会社の不動産事業が守りから攻めに転じ、各社は物流事業と不動産事業のシナジー創出を見据え、物流不動産事業への本格進出などの戦略を打ち出している。
国内外で物流不動産ビジネスに参入
三菱倉庫は2025年2月に発表した経営計画(25~30年度)で、不動産事業を「グループの成長に貢献できる事業」として再定義。物流不動産ビジネスへの参入、海外不動産ビジネスへの進出、資産回転型ビジネスへの本格参入を3本柱に据えた。資産回転型ビジネスでは27年度をメドに300億円規模の不動産ファンドを組成。既存保有物件に新規物件を加えたアセットマネジメントを展開し、30年度には800億円規模に拡大する。
「不動産事業はこれまで安定的な収益源という位置づけだったが、物流と不動産の両事業で従来の延長線上ではない成長を実現していく」(斉藤秀親社長)と表明。物流不動産ビジネスでは、ユーザーに求められる施設スペックや立地の選定での倉庫会社ならではの優位性に加え、テナントに物流サービスを提供できるなど物流事業とのシナジーが見込まれる。5月にはタイで現地のデベロッパーとの共同出資により物流不動産開発に着手すると発表した。
住友倉庫も不動産事業として物流施設開発への本格進出を図った。三菱地所、九州旅客鉄道(JR九州)と共同で、埼玉県三郷市で「ロジクロス三郷」の建設を進めている。「引き続き適切な案件については積極的に投資していく」(星野公彦取締役常務執行役員)方針で、東京地区、都心に近いエリアで底堅いニーズがあるとみる。一方で、物流不動産の供給過剰気味のエリアもあることから慎重に物件を見定めていくという。
なお、住友倉庫ではもともと、倉庫用地の再開発を発祥として不動産賃貸事業を展開してきたが、近年は再開発に加え、新規不動産の取得を推進している。保有不動産の築年数経過に伴う将来的な収益力低下を避けるため、賃貸不動産の入れ替えを実施。非中核資産の売却で得た資金を、中核資産となる賃貸用不動産・販売用不動産の取得に再投資し、収益規模の拡大を目指している。
テナント向けサービス提供、物流事業と連携も
澁澤倉庫は26年度を最終年度とするグループ中期経営計画で不動産事業の戦略として物流事業とのシナジー深化を掲げる。所有資産の賃貸以外の収益基盤多様化を図り、私募ファンドスキームへの出資、私募リートへの出資や資産回転型案件への拡大を検討。物流不動産事業への取り組みでは、倉庫物件仲介・転貸など自社利用以外の活用や自営と賃貸の複合利用を推進。賃貸倉庫への人材派遣、建物管理などテナント向け付加サービスを提供する。
安田倉庫では新中期経営計画(25~27年度)で、グループの安定的な収益基盤である不動産事業の強化・拡大を図る。昨年、ファシリティソリューションのコンサル企業をグループ化し、ソリューション体制を強化した。同社は物流事業でオフィス移転や文書保管サービスを統合したオフィスサポート業務を展開しており、両事業のシナジーについて「建物を修理・修繕する際は必ず移動が伴い、両事業の連携ができている」(小川一成社長)という。
ヤマタネも不動産事業を物流、食品に次ぐ事業の柱に位置付け、成長戦略に取り組む。5月には本社や営業倉庫が所在する東京都江東区越中島地区の再開発プロジェクト「越中島開発グランドビジョン」を公表。東京都心部という立地優位性を活かし、商業施設やホテル・観光拠点、複合住宅などの一体開発に着手する。「26年3月までにパートナー事業者を選定する」(河原田岩夫社長)とし、34年以降の一部供用開始を見据える。同社は今年2月には、子会社の山種不動産をヤマタネ本体に吸収合併しており、CRE戦略を強化していく。
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