カーゴニュース 2025年5月27日 第5341号
4月1日付でヤマト運輸の代表取締役社長に就任した阿波誠一氏は22日、東京都中央区の本社で物流専門紙と会見し、今後の成長戦略について説明した。阿波氏は「最大のミッションは、本丸である宅急便ビジネスをもう一度成長させ、お客様に選んでもらえるサービスにすること」と表明。「そのために全員経営によって宅急便を進化させ、自信を持って売っていけるものにしていくとともに、社員の力を引き出すための仕組みや仕掛けを考えていく」と抱負を語った。
まずは宅急便を元気にしていく
阿波氏は冒頭、来年1月に50周年を迎える宅急便の現状について「eコマースの荷物の急増によって配達に追われ、SD(セールスドライバー)のS(セールス)がなくなってしまった。時間的な余裕がない中で、お客様から要望を聞き、ソリューションとして応えていく力がここ数年で弱まった」と指摘。「経営面で言えば、法人向けCL(コントラクト・ロジスティクス)事業や成長領域の新規ビジネスがあるが、屋台骨となるのは全国2800ヵ所の宅急便営業所だ。宅急便の収益がしっかりと持ち上がり、そこに新規ビジネスが上乗せされれば、これからも大きく成長していける」と述べ、「まずは宅急便が元気になることが大事だ」と強調した。
経営面の課題については「シンプルに売上が足りない」として、トップラインを伸ばすことで上昇基調が続くコストや固定費を補っていく必要があるとした。ただ、宅急便市場も年率2ケタ成長など大きな伸びは期待できないため、現有戦力をベースに人の差配などで効率化を図り、コストを抑制していくことが大事だと述べた。さらにEC事業者の倉庫が関東エリアに集中しているため、上りと下りの物量にインバランスが生じていると指摘。「例えば、関東発の下りはトラック10台に満載でも、上りの荷物はその半分もなく、それがコストに影響している。そうした課題を解決する手段としてフレイター(貨物専用機)は武器になる」と述べ、昨年運航を開始したフレイター事業は中長期的に効果が出てくるとした。
CL事業、「宅急便+α」を成長エンジンに
成長領域に位置付ける法人向けCL事業では、「宅急便以外の収入を増やしていくことが求められる中で、これまで手が出せなかった調達や大規模倉庫運営などの領域にリーチできるようになった。宅急便+αが大きな成長エンジンになる」と強調。昨年12月にナカノ商会をグループ化したことで、倉庫運営のノウハウやBtoBに特化した車両の使い方など新たな知見を得られているとして、「これまでヤマト流でやってきた部分が大きく変わった。一方で、当社にはナカノ商会にはない全国ネットワークがあり、お互いの強みを吸収し合うことでシナジーを出していける」と、今後の事業拡大に自信を見せた。
海外・グローバル事業では、越境ECが成長をけん引していると強調。「アジアなど海外で日本型の宅急便ビジネスを展開するのは難しく、現在はフォワーディングと海外引越、越境ECに注力分野を絞っている。ただ、越境ECは足回りだけでは儲からないので、発地でのロジ業務など上流工程をトータルで受託する戦略を進めていく。その一環として、海外でのM&Aも視野に入れている」と述べた。
阿波誠一(あわ・せいいち) 1993年法政大学社会学部卒、同年ヤマト運輸入社。高知主幹支店長、ヤマトホールディングス経営戦略立案推進担当マネージャー、ヤマト運輸経営戦略部長などを経て、2015年4月執行役員、17年4月常務執行役員、18年4月ヤマトHD常務執行役員、20年3月ヤマトHD執行役員兼ヤマトシステム開発代表取締役社長、21年4月ヤマト運輸常務執行役員(リテール事業担当)、22年2月同南関東地域担当、24年10月専務執行役員(ネットワーク再構築統括)、25年4月現職。70年10月6日生まれ、54歳
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