カーゴニュース 2025年6月26日 第5350号
「パレットの日」特集
「2024年問題」を機にトラックドライバーの荷待ち・荷役時間短縮につながる「パレット輸送」が注目されている。パレットの運用で長年課題とされ、いまだ解決されていないのが、パレットの紛失・流用問題だ。約50年にわたり製紙メーカーが保有するパレットの共同回収事業を担ってきたのが、主要製紙メーカーの共同出資による製紙パレット機構(本社・東京都中央区)。川里裕一社長はパレットの不正流用をなくし、回収率を高めるためには、メーカー、流通、最終需要家のサプライチェーン関係者の意識改革が必要だと訴える。
沖縄含む全国の紙需要家から無償で回収
製紙パレットの共同回収の歴史は古く、半世紀前にさかのぼる。通商産業省(現経済産業省)所管の産業構造審議会流通システム化推進会議の答申を受け、1973年7月、製紙メーカー17社(合併などにより現在は7社)が「製紙パレット共同回収機構」を日本製紙連合会内に設置。事業の拡大・多角化を図るため株式会社に移行し、3年後の76年4月に「製紙パレット機構」が設立された。
製紙工場で生産された紙・板紙(平判製品)は輸送機材としておもに木製パレットが使用されるが、パレット自体は製紙メーカーの所有物である。紙需要家に納品された後のパレットを、メーカーから委託を受けた製紙パレット機構が回収し、デポで仕分け後、各社の工場に返却、再利用するクローズドリサイクルの仕組みを構築。2017年には沖縄を含む全国からの回収体制が整い、指定回収協力会社のデポを全国に11ヵ所設けている。
共同回収事業には製紙メーカーだけでなく、印刷会社なども参加。製紙パレット機構が回収を行うことのできるパレットは、委託を受けた共同回収事業参加企業のパレットに限定され、無記名や改造されているもの、輸入紙や異業種のパレットについては回収の権限がない。機構の指定回収会社が行うパレットの回収・返送業務に関する費用は製紙メーカーが負担し、紙需要家からは無償で引き取りを行う。
ピーク時の06年度のパレット回収実績(納品枚数)は504万枚だったが、紙の出荷量の減少に伴い回収実績は減少基調。21年度411万枚、22年度405万枚、23年度は394万枚と400万枚を割り込んだ。24年度の回収実績(納品枚数)は386万8000枚。今後も出荷量の大幅増は期待できず、回収効率の悪化を見込む。燃料費やトラックなどの消費資材の高騰に、人件費の上昇も加わり回収のコストアップが予想されている。
回収率は7割どまり、不正流用や売却は“違法”
課題となっているのが、約7割にとどまっている回収率だ。24年度の回収率は67・8%で約3割は回収できていない。その背景には、紙需要家に製品がパレットで納入された後、そのパレットが不正流用されていることが挙げられる。「2024年問題」を機に、荷役作業の軽減につながる「便利な輸送機材」として国土交通省が推奨するなどパレットの認知度が高まるにつれ、需要家が不正流用する動機が強まる可能性もある。
製紙パレットは所有権を明確にするために社名・工場名等を刷り込みしてある。製紙パレット機構では、製紙パレットを返却せず、無断で流用・転売することは犯罪にあたると指摘。紙需要家が違法回収業者への横流しをしたり、自社で利用する行為は業務用横領罪(刑法253条)に、転売先も盗品譲受け等罪(刑法256条)に該当する可能性があり、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求を受ける可能性もあるという。
製紙パレット機構では、パレットの返却を呼びかけるチラシを作成し、メーカーとともに印刷所などの紙需要家を訪問して回収への協力を呼び掛けている。ただ、紙需要家の購買部を訪問して周知を行っても、実際に製品やパレットが納入される現場まで浸透させるのは難しい。紙需要家のコンプライアンス部門にアプローチするアイデアも出されたが、当該部門を持つ企業は限定されている。
メーカーに回収する「権利」と「義務」
川里社長は、回収率を高めるためにさらに踏み込んだ施策が必要と見る。紙製品は大口需要家にはメーカーから直送されているが、中口需要家には代理店、小口需要家には卸店を経由して納品されることが多い。パレット回収に、パレットの所有者ではない中間流通をどう巻き込んでいくかが今後のテーマとなる。製紙パレットは返却が必要な輸送機材であることをサプライチェーン全体に啓発していく考え。
一方で、メーカー側も製紙パレットを回収する「権利」とともに「義務」があることを再認識する必要があるという。製紙メーカーではパレットの調達や回収費用の負担は資材部、出荷後の回収は物流部と“分業化”されていることが多く、回収の「義務」が意識されにくい。製紙パレット機構では、運営委員会等を通じて回収の実績や課題について各メーカーと共有し、社内での啓発を促していく。
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