カーゴニュース 2025年7月24日 第5358号
鈴仙運輸(本社・東京都港区、鈴木宏和代表取締役)は、発電機を搭載することで、荷台の中でエアコンや照明、コンセントの使用が可能な新型トラックを開発した。放送機材等を運搬後、空になった荷台を作業スペースや休憩所として荷主に提供することで、トラックの“二毛作”を実現。今後は、外部電力を必要としない“自家発電”トラックのメリットを活かし、様々な用途で荷台スペースの活用を提案していく考えだ。
撮影現場で「トラックを使わせて」
同社は1927年に創業。当初は放送局の領収書やポスター等の発送代行業務を行っていたが、後に放送機材の輸送を手掛けるようになった。現在はゲート車11台とルートバン1台を保有しており、カゴ車にセットされた放送機材を撮影地まで輸送し、撮影終了後に回収して放送局へ返却する業務を行っている。返却が放送局の終業後の夜間の時間帯になる時は、倉庫での一時保管も行っている。
発電機搭載のトラックを考案するきっかけになったのが、撮影現場の厳しい環境だ。鈴木社長によると、「荷主(放送局)は従来、撮影した映像や音声を現地で編集する際に、簡易テントを設置し、その中で作業していた。職員やスタッフもテント内で休憩していた」。しかし、近年は猛暑による熱中症、豪雨や落雷、突風などで簡易テントは安全な場所でなくなった。
「鈴仙さん、トラックが空なら使わせてもらえないか」――荷主からのそうした提案を受け、トラックの荷台の貸し出しを行うようになった。夏の暑さをしのぐため、トラックの荷台にスポットクーラーを設置することで対応したが、冷房能力が不十分だった。そこで、荷台のアルミ板に断熱材を入れ、エアコン、照明やコンセントを設置。中継時には電源車が来ているため、電源の供給も受けることができた。
しかし、この仕様では、山の上や地方など、電源車がいない場所では荷台の各種設備を稼働できないという課題があった。そこで、同社では、電源車など外部電源を必要とせず、トラックが単独稼働できるよう発電機を搭載した新型車両の開発に挑戦。車両の製作は北村製作所(本社・新潟市江南区、廣田利明社長)に依頼した。
移動可能な簡易スペースとして提供
新型車両は3tトラック(いすゞエルフ)を改造。最大積載量を2950㎏確保し、発電機に軽油を使用することから燃料タンクは通常の100ℓから倍の200ℓに変更した。床下スペースが狭いために設置できなくなったスペアタイヤは、運転席後方にエアコンの室外機とともに取り付けた。荷台への昇降用に簡易階段も設置。また、床部分を木製からクロス張りに変更し、カーペット張りとすることで防音性も向上した。
外部電源からの電力供給と発電機からの供給を切り替える装置を設置することで、状況に応じた作業環境を構築する。同社が行った実証実験では、72時間以上の発電機連続運転に成功し、「100時間以上の稼働も可能」(鈴木社長)と見込む。なお、今月にはエアコン(2台)、照明、コンセント付き(発電機は搭載せず)の6tトラックを1台導入し、従来の3tトラックよりもさらに快適で広々とした空間を提供する。
放送局向けのトラックの荷台スペース貸し出しについては、放送機材の輸送の途上であるため、使用料金は「(車両)留め置き料」とし、エアコンや発電機など使用する設備に応じて料金を設定している。同社では、新型車両の利用シーンを幅広く想定しており、荷主や同業者からも「いろいろなアイデアをいただきたい」と鈴木代表取締役は話す。荷物の輸送を伴わない、移動可能な簡易スペースとしての利用ニーズにも対応する。
トラック運送業界が人手不足と高齢化の課題に直面する中、同社の社員は平均年齢が40歳を下回り、20代の若手ドライバーもいる。シフト制で勤務時間の融通が利きやすいことに加え、中継・撮影現場への「泊りがけの出張」があることも魅力になっているという。鈴木社長は「複数台での出張もあり、出張先でドライバー同士がコミュニケーションを深めているようだ」と語った。
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