カーゴニュース 2024年6月6日 第5248号
割れ甕のそこひの水も小六月 龍太
単純に六月と言うから選んだ句だが、小六月は11月のことらしい。
今、NHKの朝ドラの「虎に翼」が面白い。主人公の猪爪寅子は明律大学に通う学生。女性初の裁判官となった三淵嘉子がモデルである。どうも、このところの朝ドラは実在の人物をモデルとしたものがよいようだ。浪花千恵子、牧野富太郎、笠置しづ子などである。寅子が通う明律大学とは戦前の明治大学である。明治大学は白雲なびく駿河台にあった。この神田お茶の水地区に明治をはじめ、中央、専修、日大、法政ができた。すぐ近くの本郷に東京帝大があり、法律を学び、司法試験を目指す学生たちがこの地に集まった。日本一の学生街を作った。ちなみにより旧い大学のうち、早稲田と慶応はこの地にはない。それはこの両校が法律ではなく経済を学ぶ学校としてスタートしたからだろう。
僕の母方の祖父は戦前、明律大学のモデルだった明治を出て裁判官になり、勅任官になった。祖母が言っていたが「とても偉い人で、任地での公式行事では常に県知事の次の席だった」と。宮中席次である。私学出で苦労はしたらしい。岡山人だから同じ私学出の犬養木堂とは親しかったそうだ。どこでどういうキッカケか忘れたが、JR貨物の社長、物流連会長を歴任された伊藤直彦さんと話していて伊藤さんのオジイ様も戦前の明治を出て弁護士になられたそうである。わが祖父と同じ年代だから、駿河台で机を並べて勉強していたのではないか。一緒に高等司法試験に受かったはずである。ついでだが僕の父方のご先祖様に真面目で、立派な人がいて幕末、長崎に行き、シーボルトの鳴滝塾などに通い、医者になって石見に戻り、分家の中田家を作った。僕はその6代目である。現在、どんな家でも少なくとも6、7代前までは全員の追跡が可能である。明治になって現在の戸籍法につながる戸籍の確定がされたからである(まあ、徴兵のためだろう)。そして、どんな家系でもこの100年強の間には一人か二人は偉い人、立派な人が出ている。同時にやはり一人か二人、変なの、仕様がないのが生まれている。それで家系のバランスが取れているのだろう。
これは個人家庭のことだが企業について言うなら、もっと長い歴史がある。物流関係で言うなら廻船業はすでに平安時代に生まれている。また、陸運業とも言える馬借、車借は鎌倉時代にはいた。楠木正成はこの馬借の親分だったと言うが実際は武士である武装商人だった。江戸時代から明治に掛けて日本海航路で活躍した北前船は買積船と言い、商物一体の輸送を行なった。この時代、豪農、豪商が物流も支配下に置いていたが、廻船業は明治時代まで続き、今の内航海運業に続くものも多い。ただ、陸運では鉄道は明治に生まれ、全国的に物資輸送によって出来たものが多く、例えば僕のよく使うJR横浜線は明治時代に私鉄として八王子から横浜へ絹を運ぶことを目論んで出来た。ただ、現在、物流業としての鉄道はほぼJR貨物である。トラックという輸送具を使う運輸業の歴史は短い。戦前から存在するトラック業は多くなく、大部分は戦後に生まれている。したがって、大部分のトラック業の企業として歴史は短く戦後からである。ほとんどが家業であるからおおむね現在は3代目から5代目といったところ。それ以前も輸送に携わっていたところもあるからその場合は6代、7代あたりまでわかる。その間、会社を飛躍させた人、保守的で環境変化に乗り遅れた人、革新を行った人、会社を駄目にした人などいるだろう。家系と似たようなものである。全てが優れた立派な人だったというケースは少ない。
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