カーゴニュース 2026年6月30日 第5447号
日本の強みである産業用ロボットや関連部品の技術と最先端の人工知能(AI)を融合し、社会課題の解決や経済安全保障の強化を目指す国家戦略「AIロボティクス戦略」が今年3月に策定された。物流や介護、農業など16分野でのフィジカルAI(AIロボティクス)の社会実装プランが盛り込まれている。同戦略の狙いと実現に向けたロードマップなどについて、経済産業省で製造DXの推進役を担う産業機械課長兼AIロボティクス推進官の須賀千鶴氏に話を聞いた。 (インタビュアー/西村太郎・吉野俊彦)
「AIロボティクス戦略」が目指すもの
――3月26日に政府の「AIロボティクス戦略」が策定されました。まず、「AIロボティクス」の定義と戦略策定に至った背景を教えてください。
須賀 まず、AIロボティクスの定義ですが、ヒューマノイド型(ヒト型ロボット)だけを指すのではなく、車輪やキャタピラーなどを持つものも含め、AI駆動で「自律的に行動するロボットや機器」と広義にとらえてください。巷間、よく言われている「フィジカルAI」もこれとほぼ同義です。戦略を策定した背景には、急速なAIの進化により、国際的な開発の競争軸が大規模言語モデル(LLM)や生成AIからフィジカルAIの領域に広がってきたことがあります。
生成AIがサイバー空間にある膨大な情報を学習し「知的作業の高度化」を支援する技術であるとすると、フィジカルAIは生成AIも活用しつつ現実世界で「物理作業を自動化」する技術です。フィジカルAIを社会実装していくプロセスにおいて、質の高い大量のデータをAIに学習させる必要がありますが、モノづくりを得意とする日本には、解像度の高い現場データを持つ企業が数多く存在しますので、フィジカルAI分野で競争力を発揮できる余地があります。
――AIロボティクス戦略の目指すところを教えてください。
須賀 端的に申し上げれば、AIロボティクスを日本の中核産業として育成することです。世界のロボット市場に目を向けると、2025年度のNEDO調査では、アーム型の産業用ロボット市場は0・8兆円となっており、日本はそのうちの約7割という高いシェアを持っています。しかし、その一方で、飲食店や医療機関などで広く利用されているサービスロボット市場での日本のシェアは約11%と低く、米国の30%、中国の37%と比べて遅れをとっています。また、生成AIの開発でも日本は米国や中国の後塵を拝しているのが現状です。つまり、日本は産業用ロボットの分野で高い競争力を維持しているにもかかわらず、そのポテンシャルを十分に活かし切れていません。そのような状況を、官民あげてAIロボティクス戦略を実行していくことで打ち破りたいと考えています。
もうひとつの大きな目的は、社会課題の解決です。日本国内では人口減少を背景としてあらゆる産業において労働力不足が顕在化しています。なかでも製造、物流、建設、介護などの現場では作業の担い手不足が年々深刻化しており、「早くロボットを普及させてほしい」と一部の労働組合からお声をいただくまでになっています。
これらの分野へのAIロボティクス導入を加速させることで、不足する労働力を補完して供給制約を解消していくことが国全体で喫緊の課題となっています。
供給と需要の一体的な取り組みで市場を創出
――日本の中核産業に育成していくとのことですが、AIロボティクスにどのくらいのポテンシャルがあるとお考えでしょうか。
須賀 人手不足が深刻化している、日本を含む先進諸国では、AIロボティクスの需要が先行して顕在化しつつあります。AIロボティクスの導入が比較的進んでいる製造業に加え、これまで導入が進んでいなかった物流、建設、小売、介護、災害対応といった業種やジャンルでも、これまでヒトが行っていた作業の置き換えが拡大していくと予想されており、2040年までに約60兆円規模の市場に成長するとの予想もあります。
そうした将来が到来しようとするなかで、国産ロボットの供給が追い付かず、海外からの輸入に頼るということになれば、経済安全保障の観点からも大きなリスクとなり得ます。そうした面からも、我が国において自立した技術基盤と供給体制を確立することが急務になっていると言えるわけです。
――自立した供給体制を確立していくことは、そう簡単なことではないと思えますが、どのような道筋を想定しているのでしょうか。
須賀 これまでの国内のロボティクス産業は、高い技術基盤があるにもかかわらず、その供給潜在力に見合った需要をつくり出せなかったという反省があります。そこで今回の戦略では、供給側の視点だけでなく、供給と需要の双方の取り組みを国が一体的に支援し、供給と需要を相互に連携させながら同時に拡大させていくことにポイントを置いています。
まず、先行して社会実装に着手する需要側の事業者が、大量の現場データやノウハウをAIに学習させます。これを受けて、供給側のベンダーは大量のデータをもとに改善を重ねるとともに、他分野への展開などを進めていきます。こうしたサイクルを何度も繰り返すことで、生産量の拡大を実現するとともに、供給側からみるとロングテール市場にあたる分野や業務にもAIロボティクスの実装を広げていきます。
需要側の企業には、しっかりと将来見通しを立てて、AIロボティクスの導入シナリオを共有いただきたいと思います。例えば10年後に本当に人手不足に困って「明日からAIロボットを買って自動化を実現したい」と思い立っても、いきなり使えるソリューションは手に入りません。AIロボティクスは、複雑な人の作業を代行する高度な技術であり、今のうちから10年後の活用を見据えてAIロボティクスを導入し、現場情報をAIに計画的に学習させていく必要があるわけです。
他方、供給側のベンダーには、標準化、規格化、オープン化等による採算性の確保や、本当に困っているロングテール分野への供給に力を入れていってほしいと思います。同時に、ロボットと人間の役割分担を設計する、AI制御のロボット・機器を適切にメンテナンスするなどの未来スキルをもつエンジニアの養成を進めることが極めて重要だと考えています。
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