カーゴニュース 2026年6月30日 第5447号

行政インタビュー
AIロボティクスの社会実装で〝物流課題〟解決へ
経済産業省 産業機械課長兼AIロボティクス推進官
須賀千鶴 氏

利用側の潜在需要を掘り起こす取り組みを

2026/06/29 17:00
全文公開記事 行政 インタビュー マテハン DX・システム・新技術

産業横断的に課題対応を進める

 

 ――AIロボティクス戦略では、社会実装を行う産業ドメインの選定と、実装に向けたロードマップを示しています。

 

 須賀 「製造業(多品種少量生産)」「造船」「物流(倉庫・輸配送)」「建設・土木」「建築」「インフラ保守」「小売」「宿泊業」「介護」「警備業」「農業」「林業」「廃棄物処理」「災害対応」「警察活動」「防衛」という16分野の産業ドメインを選定し、各ドメインにおいて、AIロボットの供給側と需要側それぞれで取り組むべき施策を明確に示しました。供給側だけに限れば、ロボット産業などを所管する経産省の政策で概ねカバーできますが、先ほど申し上げた通り、それだけでは本格的な社会実装は困難だという認識です。多岐にわたるドメインでの現場データ収集が社会実装のカギを握っています。

 

 そうした認識に立ち、今回の戦略では、各産業分野を所管する各省庁が課題や対策を持ち寄り、横断的に取りまとめました。どの分野でも労働力不足が深刻な課題となっており、かみ合った議論ができました。分野ごとの〝業界用語〟を使うのではなく、普遍性のある〝共通言語〟でとりまとめたことで、分野の垣根を越えて共通する課題やタスクが抽出できました。例えば、工場でも店舗でも介護施設でも倉庫でも建設現場でも、「搬送」は共通動作です。また、多くの分野で「見回り・点検」「清掃」といった共通動作が多いことも見えてきました。

 

 このことは、AIロボティクスの社会実装を広げていくプロセスにおいて非常に重要なことです。〝共通言語〟に基づき分野を超えた大きな初期需要を創出することで、供給側の投資判断を後押しすることができ、また、先行する市場から他の市場への横展開がより容易になるからです。

 

 現在「AIロボティクス実装ロードマップ」改訂版の策定作業中で、近々アップデートする予定です。是非ともマテハン業界の関係者にも、「物流」以外のロードマップも広く見ていただき、ビジネスの機会につなげていただきたいと思います。

短期・中長期の時間軸で「戦略」を推進

――「実装ロードマップ」では、短期・中長期という時間軸も設けています。

 

 須賀 2030年頃までの「短期」フェーズと、以降の「中長期」フェーズに分けています。短期的には「見廻る」「モノを動かす」といった動作を中心にしたAIロボティクスの開発に取り組み、中長期的には「指作業」レベルの自動化や複雑な環境における経路計画や歩行制御などの実現に注力していく方針です。「見廻る/モノを動かす」という動作は既存技術の延長線上にあり、物流倉庫などの現場でも先行事例が見られますので、ユースケース(実例)がイメージしやすく、導入のハードルが下がります。

 

 次のステップとなる中長期的フェーズでの「指作業」の実現ですが、こちらは技術的なハードルは高いものになります。人間の指先の作業には、対象に合わせて器用な動作や力加減など複雑な認知・判断・計画が必要となり、そのためのデータセットやAIモデルの構築が不可欠となります。また緻密な指作業を高い動作精度で行うには、これまで別々に設計・開発されてきたアーム(腕)とハンド(指先)を一体で制御することも必要になります。

 

 また自律移動型のロボットの移動能力については、単純な環境での車輪式の活用は進展していますが、複雑な環境に柔軟に対応した経路計画の策定や脚式の安定・安全な歩行制御には技術的な課題があります。

 

 そのため、今の時点から具体的なユースケースを想定し、それに向けた研究開発等に着手し、技術の確立・実装を目指します。

 

「物流」でのAIロボティクスのロードマップは?

 

 ――「物流」におけるロードマップはどのようなものですか。

 

 須賀 物流分野への導入を進める上での主要な市場課題、技術課題、制度課題について整理しています。例えば技術課題に関しては、まずは物流分野のオペレーションを工程別に分解し、人手不足や身体的負担が大きく、自動化ニーズの高いタスクを抽出し、その上で技術的に短期的なロボット導入が可能と見込まれるタスクとして「搬送」「荷積み」「パレタイズ」「ケースピッキング」という4つの主なタスクを抽出しています。その上でそれぞれのタスクに応じた現状の課題と必要となる技術およびマニュピレーションやロコモーションの技術発展を踏まえた中長期的な課題を整理しています。

 

日本にとって「千載一遇のチャンス」

 

 ――「AIロボティクス戦略」では、AIロボットの発展が我が国にとって大きなチャンスであることが強調されています。この点についてのお考えや思いを教えてください。

 

 須賀 AIの開発競争は今、米中を軸に世界的規模で進展しており、正直なところ日本は出遅れていると言わざるを得ません。しかし、フィジカルAIの登場により、AIが活躍する場面がサイバー空間での知的作業から、現実世界においてモノを相手とする行動に広がろうとしています。つまり、AIに現場で活躍できる「統合力・運用力」が求められるようになったわけです。この状況は、産業用ロボットに高い技術を持ち、豊富な現場データという〝資産〟を有している我が国の強みを活かせる数少ない戦略的機会だと言えるわけです。

「統合力・運用力」が求められる

 ――その機会を活かすための支援策として、どのようなものを考えていますか。

 

 須賀 供給側での取り組みとして、国産ロボット基盤モデルをつくり、27年6月頃をメドにベータ版をオープンソースで公開する予定です。その後、順次アップデートしていきます。また、AIの基盤モデル開発や社会実装の加速化を支援する国家プロジェクト「GENIAC(ジーニアック)」を活用し、ロボット基盤モデルの開発に必要となるデータ収集用ロボットの整備や大規模なデータ収集・検証を行い、ロボット基盤モデルの開発・改善を促進していきます。需要側に対しては、先ほど申し上げた通り「AIロボティクス実装ロードマップ」に基づき、16の産業分野において短期・中長期の時間軸を踏まえ施策を着実に推進していきます。具体的な支援策については今後さらに検討していくことになります。

 

 ――最後に、AIロボティクスの社会実装に向けた展望をお話しください。

 

 須賀 繰り返しになりますが、我が国には産業用ロボット分野で高い国際競争力があります。モーターやセンサーなど高い水準を誇る部品・コンポーネントに加え、それらを支える素材・加工・装置産業において強固なサプライチェーンを構築してきました。さらに、長年の現場実装や継続的な改善を通じて蓄積されてきた豊富な現場データとノウハウがあり、これは諸外国が簡単に真似できない暗黙知の集合体です。

 

 フィジカルAIの時代が本格的に訪れれば、AIの性能競争だけでなく、現実の環境下で安定的に価値を発揮させる実装能力が必要となりますから、この分野における我が国の存在感は高まっていくと確信しています。

 

 また、マテリアルハンドリング業界の各プレイヤーの皆さんは、世界的に見ても高い技術水準と現場ノウハウを持っていると認識しています。庫内搬送の分野では先進的な事例も数多くあります。マテリアルハンドリングという言葉は、「モノを扱う・動かす」ということですから、「AIロボティクス戦略」が提示したビジョンのまさに真ん中に位置する業界ではないでしょうか。今後、AIロボティクス戦略を実行していくうえで、メインプレイヤーとしての活躍に期待しています。     

 

 

須賀 千鶴(すが・ちづる)

 2003年東京大学法学部卒、同年経済産業省入省。09年ペンシルバニア大学ウォートン校経営学修士(MBA)。商務・サービスグループ政策企画委員、商務情報政策局情報経済課長などを経て、製造産業局産業機械課長兼製造産業DX政策企画調整官兼AIロボティクス推進官兼デジタル庁統括官付参事官

 

「AIロボティクス」が物流課題解決に貢献
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