カーゴニュース 2024年7月30日 第5263号
CLO-物流管理統括者-を知る!
「2024年問題」に対応し、物流の持続的成長を図るための「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(改正物流法)が5月15日に公布された。物流にかかわる2つの法律に「規制的措置」を盛り込んだのが、今回の改正の大きな特徴。「流通業務総合効率化法」は荷主と物流事業者への規制を、「貨物自動車運送事業法」はトラック事業者の取引に対する規制を法制化した。最も関心の高いと思われる規制的措置について、その判断基準、要件、スケジュールを本紙記者が国土交通省など行政関係者に取材しQ&Aにまとめた。
Q改正物流法の荷主・物流事業者に対する規制は、一定規模以上の事業者、すなわち大企業だけが対象になるのでしょうか。
A流通業務総合効率化法では、すべての事業者に対し物流効率化のために取り組むべき措置について「努力義務」を課す。つまり企業の規模にかかわらず、すべての企業に物流の効率化に取り組む努力義務がある。6月28日には国土交通省・経済産業省・農林水産省3省合同会議が発足し、すべての荷主・物流事業者に課す努力義務について議論が始まっている。その具体的中身に関しては、昨年6月に政府が策定した「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき3省が公表した物流改善ガイドラインに沿ったものとなり、取り組みの参考にできる。努力義務は25年4月から施行される。
この努力義務違反に対する罰則はないものの、違反しても何ら「おとがめなし」ということではない。具体的には、貨物自動車運送事業法に基づく「トラックGメン」制度があり、トラック輸送の適正化を妨げ、法令違反の原因をつくっている行為に対しては「働きかけ」や「要請」「勧告・公表」を行う。厚生労働省、中小企業庁、公正取引委員会も荷主に対し物流改善を促す制度を設けており、「トラックGメン」との連携も進んでいる。「中小企業だから」「罰則がないから」といって物流改善の努力を怠ると企業名が公表され、社会や取引先からの評判を落とすリスクがあるといえる。
Q一定規模以上の事業者は「特定事業者」として指定され、規制的措置の対象になります。その「線引き」「実施スケジュール」、取り組みが不十分だとみなされる判断基準はどうなっていますか。
A流通業務総合効率化法では、物流改善への寄与が大きいと想定される、一定規模以上の物流事業者を「特定事業者」に指定し、中長期計画の策定やその定期報告、荷主には「物流統括管理者」の選任などを義務付ける。「特定事業者」とは、日本全体の貨物量の半分程度を取り扱う大手荷主・大手物流事業者を想定し、国交省・経産省・農水省3省合同会議で議論を進めている。荷主については取り扱い貨物の重量の多い順、トラック運送事業者は省エネ法が規定する「特定輸送業者」と同様の「保有台数200台以上」などとする案があり、今後、検討を進め、26年4月に「特定事業者」を国が指定する。
中期長期計画は毎年度提出することを原則とするものの、計画に変更がない場合は5年に1度提出する形となりそう。一方、定期報告は年に1度以上の頻度で行い、取り組みの中でも「荷待ち時間の改善状況」の報告を必須事項と位置付ける。荷待ち・荷役時間の算定方法についても3省合同会議で検討しているところだ。報告内容は国が定めた基準に従って評価され、中長期計画に基づく取り組みが不十分な場合は、勧告・命令を行う。大規模自然災害など個別の事情を斟酌することも含め、判断基準に関する事項は3省合同会議で議論していくことになる。
Q「物流統括管理者」は「CLO=Chief Logistics Officer」とも呼ばれていますが、その要件や業務内容、選任のタイミングはどうなっていますか。
A流通業務総合効率化法では、大手荷主・フランチャイズチェーン本部に「物流統括管理者(CLO)」の選任を義務付けている。「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」を想定しており、改正法に基づく義務などに対し全社的な責任を持って対応することが求められる。CLOについて役員レベルを想定しているのはそうした理由からだ。荷主の中には物流子会社を設け、物流管理を委託しているケースもあるが、物流子会社の社長が、親会社である荷主企業の「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」でない場合には、CLOとしての要件を満たさない可能性がある。
CLOが統括管理する業務は、物流効率化に向けた中長期計画の作成とともに、ドライバーの負荷軽減、貨物のトラックへの過度な集中を是正するための事業運営の方針の作成と管理体制の整備などが挙げられる。トラック運送と荷役の効率化といった実務に近いテーマから、物流・調達・販売など社内の関係部門との連携体制の構築、商慣行の見直しや業界全体の物流効率化のための関係事業者との調整まで、担当範囲が幅広い印象だ。スケジュールとしては、25年1月に荷主所管省庁がCLOの要件を定め、一定の周知期間を経て26年4月にCLO選任を要請する。
Q多重下請け構造是正のために「実運送体制管理簿」は荷主も閲覧できるのでしょうか。また、スポット傭車、マッチングサイトを使う場合の扱いはどうなりますか。
A改正貨物自動車運送事業法では、トラック事業者に対する規制的措置として、元請事業者に「実運送体制管理簿」の作成を義務付けている。様式は自由で既存の配車表等への追記でもよく、実運送事業者の名称、下請次数、貨物の内容、運送する区間等を記載する。「実運送体制管理簿」の作成は、荷主がトラック事業者の適正な取引に配慮できるようにするための方策であり、荷主が閲覧できるようにしている。トラック事業者は繁忙期などにスポット傭車を使わざるを得ない場合もあるが、輸送業務を委託する回数が少なくても実運送を委託する場合には、「実運送体制管理簿」に記載する必要がある。
改正物流法成立時の衆参両院の附帯決議の第7項目に「多重下請構造の是正を図り、さらなる措置が必要な場合は下請次数を二次までとする」と明記されている。なお、トラック事業者が運送責任を負わない、いわゆる「水屋」や「マッチングサイト」などを使って下請けに出す場合も、当該トラック事業者は適正化にかかわる努力義務を負い、監査や「トラックGメン」によるチェックの対象となる。つまり、実運送会社に直接下請けに出すにしても、マッチングサイトを使って間接的に下請けに出すにしても発注者責任が生じる――ということになる。
購読残数: / 本
恐れ入りますが、ログインをした後に再度印刷をしてください。