初会合では真剣な意見交換

カーゴニュース 2024年8月29日 第5270号

FOCUS
国交省が「水屋」対策の有識者会議スタート

実態調査後、来年2月に規制など策定へ

2024/08/29 13:25
FOCUS 行政 トラック輸送

 国土交通省は23日、トラック運送業の「水屋」対策を検討するため、「トラック運送業における多重下請構造検討会」(座長=野尻俊明・流通経済大学名誉教授)を立ち上げ、初会合を開いた。車両を所有せず利用運送のみを専門に行う「専業水屋」などについて11月まで実態調査を行い、調査結果を踏まえて来年2月頃に規制措置などを含めた対策を打ち出す。荷主と実運送事業者を仲介する「水屋」への対策を講じることで実運送事業者が収受する運賃の引き上げを図る狙いがある。

 

多重下請構造による運賃格差の実態把握へ

 

 トラック運送の多重下請構造には、元請と下請のほか、運賃や手数料を取ることで取引の仲介を行う中間的存在の事業者がいる。運送不能時の損害賠償責任を負い、国に登録して利用運送を行う第一種利用運送事業者のほか、荷主と実運送事業者との運送契約を取り次いで運賃と手数料を収受する取次事業者、荷主と運送事業者を仲介・マッチングすることで手数料のみを収受する媒介事業者などが存在している。こうした中間事業者が運送サービスの取引に関与することで、「荷主が支払う運賃・料金」と「実運送事業者が収受する運賃・料金」との格差がどのように生じているか現状では明確に把握できていない。

 

 4月26日に成立した改正物流法(改正貨物自動車運送事業法・改正物流効率化法)はトラックドライバーの賃金引き上げに向け、実運送事業者の適正な運賃確保を促進するため、多重下請構造の是正や契約条件の明確化を規定した。この趣旨を徹底する意図で、衆参両院の国土交通委員会は法改正の際に、実運送を行わない「専業水屋」などについて実態を把握し、規制措置の導入も含め必要な対策を講じるよう附帯決議を行った。これは中間的事業者が不当な〝中抜き〟や過剰な手数料を収受することで、実運送事業者が適正な運賃を収受できない場合も想定され、取引環境を是正する観点から対策が必要との考えに基づく。


利用運送とマッチングサイト数社を調査

 

 国交省は国会の附帯決議を受け、トラックの多重下請構造の実態調査を決定。多重下請構造に介在する事業者の関与のあり方や運賃・料金の決定に及ぼす影響を調査し、トラック業界が下請構造となる背景や課題を検証し、是正を通じて適正な運賃収受につなげる。


 実態調査は第一種利用運送事業者の登録を受けている約2万8000者(2023年度時点)へのアンケート調査と、代表的な大手マッチングサイト複数社を対象とするヒアリング調査を実施する。第一種利用運送事業者の登録を受けているが、トラックを所有して実運送も行っている事業者は除くこととした。また、元請~中間事業者~実運送事業者といった輸送委託の川上から川下までの個別事例についてヒアリング調査を行い、取引実態を把握する方針。ただ、利用運送登録を受けていない取次事業者について国交省は情報を把握していないため、トラック団体や大手元請の情報提供により事業者をたどることとしている。


 改正物流法の成立に先立ち、全日本トラック協会(坂本克己会長)は多重下請構造のあり方に関する提言を3月に公表した。その中で「利用運送は中小運送事業者を含めた業界全体として2次下請までと制限すべき」としたうえで「一部の水屋(利用運送事業者・取次事業者)は輸送に関して責任を持たず、明確な運行指示を行わない単なる〝横流し〟を行う実態がみられることや、実運送事業者の採算を度外視した仲介を行うなどの問題点を指摘。水屋は元請と同様に依頼元である運送事業者などから運賃とは別に利用運送手数料を確保し、実運送事業者に適正な運賃を支払うべきだ」と指摘した。検討会でも「水屋は〝中抜き〟をするだけで輸送の安全確保の点からも問題がある」との指摘もあった。


 一方でトラック業界の一部にも「水屋は荷物を確保できない実運送事業者に仕事を割り当てる機能があり、一定程度は事業者の運賃収受や輸送の効率化に寄与している」「利用運送やマッチングサイトに対する規制を行うことは、物流効率化に逆行する動きではないか」との意見がある。国交省サイドもこうした認識があることは受け止めており、物流担当者は「物流の生産性向上に資する〝良い水屋〟と、手数料を取るだけ、運賃の中抜きをするだけの〝悪い水屋〟があると考えている。〝良い・悪い〟を判別する要件は、輸送に対して付加価値をもたらしているかがポイントとなる」とする。利用運送事業者やマッチングサイト運営企業に対して一律な規制を課すのではなく、生産性向上の観点から判断する姿勢もうかがえることから、今後の有識者会議による対策案が注目される。

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