カーゴニュース 2024年11月28日 第5296号
物流業界でM&Aが活発化 成長戦略の有力な選択肢に
福岡倉庫(本社・福岡市東区、富永太郎社長)は2012年以降、5件のM&Aを実行し、関連会社の福岡運輸ホールディングスも含めるとグループ全体では15件以上のM&Aの実績を持つ。物流業界ではとくに中小物流会社の後継者不足が深刻化しており、M&Aを通じた事業承継により、新たなノウハウと人材を福岡倉庫グループに迎え入れ、シナジーと成長機会の創出に取り組んでいる。
海外引越営業、運送・通運会社をグループ化
福岡倉庫が初めてM&Aを行ったのは2012年。取引先の意向を受け、同社の海外引越営業部門を譲受した。福岡倉庫は海外引越で豊富な実績とネットワークを有し、当該取引先から海外引越の実作業を請け負っていた。ノウハウを持った人材を引き継ぐことで営業体制が強化され、現在、海外引越の取り扱いは年間1万件の規模に成長を遂げた。
15年には福岡県を本拠とする山田運輸(車両17台、売上高3・4億円)を完全子会社化。同社は主要荷主である地元の電力会社の資材センターの管理・輸送を手掛けており、前経営者の後継者が不在だったため、福岡倉庫が事業を承継した。当初は福岡倉庫から経営者を送り込んでいたが、その後はプロパーの人材が経営を担っている。
「社名を残し、プロパーの人材が経営に携わる方が、M&Aされた会社の社員のモチベーションが上がる」と富永氏は指摘する。プロパーの人材が営業など自身の得意分野で力を発揮できるように、総務、経理、労務など管理業務を福岡倉庫側でサポート。福岡倉庫グループに入ることで資金繰りから解放され、業務に専念できるメリットもあるという。
18年には、山口県岩国市に本社を置く岩国通運(車両17台、売上高4・7億円)を完全子会社化した。同社の経営者も事業承継に課題を抱えており、従来から信頼関係を築いてきた福岡倉庫が事業を引き継ぐことなった。福岡倉庫はグループで通運業の機能を持たず、通運というビジネスモデルへの理解を深め、グループの成長に取り込むことを目指した。
岩国通運は大竹駅(広島)を拠点に通運業を展開。モーダルシフトの担い手として長年の実績があり、全国初の「共同点呼」を実施している通運会社でもある。岩国・大竹地域コンビナートの荷主の動向を常にキャッチアップしながら、「2024年問題」を機に高まるモーダルシフトのニーズに応えていく考えだ。
「グループとの相乗効果」「社員の安心感」を重視
これまでのM&Aについて、「本業が物流業の会社、あるいは顧客、協力会社という点で共通する」と富永氏は話す。海外引越の営業部門を譲受した最初のケースは、取引先からの提案で、当時はM&Aという言葉も日本ではまだ一般的ではなかったが、今ではM&Aは成長戦略のひとつとしてとらえられている。
福岡倉庫では、「グループとの相乗効果が見込まれること」、「M&Aされる会社の社員に安心感を持ってもらうこと」をM&Aの基本方針とし、後にシナジーを創出し、業績の向上につなげていくためには、M&Aについて伝える最初の段階で、M&Aされる会社の社員の雇用に対する不安を払拭することが重要だという。
富永氏は企業経営について、「日々の業務において継続的に改善と差別化を図っていくことはもちろん大事だが、『オーナーシップの継承』はもうひとつの経営の軸となる。後継者が不在であるということは、短期的には社員への影響は小さく見えても、中長期的には会社の存続が揺らぐ事象につながる」とその重要性を指摘する。
「自分も倉庫業のオーナー家に生まれ、29歳で社長に就いた。M&Aを通じ、それぞれ歴史や特色のある会社がグループに入ってもらうことを誇らしく思い、また、その歴史や特色を尊重しながら、経営の手助けをすることに喜びを感じる」と話す。M&A後、管理部門をテコ入れして経営状況を明確化し、適切な手を打ってきた“手応え”も感じている。
運送事業の強化策、M&Aも選択肢のひとつ
福岡倉庫では福岡県内8ヵ所で倉庫を運営し、15台の自社便による九州域内の輸配送業務だけでなく、全国7ヵ所に陸運部の拠点を配置。約3000社の協力会社をネットワーク化し、1日あたりの幹線輸送の手配は250~300台に上る。倉庫会社として差別化につながる運送事業の強化策として、M&Aも選択肢のひとつとする。
「2024年問題」をきっかけにドライバー不足への対応や空白エリアに拠点を広げるため、運送会社のM&Aが活況だが、高額な仲介手数料もハードルとなる。「仲介会社が売り手と買い手の両方と契約している案件は、利益相反になるためお断りしている。より透明性の高い合理的な仲介手数料になることを期待している」と話す。
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