運賃の「減少」はゼロに(大ト協景況感調査)

カーゴニュース 2025年1月7日 第5305号

2025新年特集
記者座談会 その④

2025/01/07 07:00
FOCUS

【運賃問題】

トラック運賃は上昇基調、官の値上げ圧力も

 

A 「運賃」に話題を移そう。トラック運賃については政府の強力な後押しもあって徐々に上昇してきたという感触はある。とはいえ、まだまだ事業者が求める水準には届いていないとも言える。

 

 運賃・料金の水準が上昇傾向にあるのは確かだ。中長期運賃は緩やかながらも上昇基調で、大阪府トラック協会の調査でも直近の7~9月のデータでは運賃・料金が「低下」した割合はついに0%になった一方、「上昇」したという割合は5割を超えた。また、価格転嫁率もようやく3割を超えてきている。他方、スポット運賃の上昇はとくに顕著で、求荷求車ネットワーク「WebKIT」の成約運賃指数は前年同月を上回って推移しており、調査開始以来、過去最高の水準となっている。

 

 価格交渉に一定の進捗がみられる背景には、「標準的な運賃」が昨年6月から8%引き上げられたこと、つまり交渉の際に目安として提示するタリフの水準が上がったことが挙げられる。ただ、標準的な運賃はあくまでも強制力はない。一方で、かなり強い「値上げ圧力」を発揮したのは、公正取引委員会と中小企業庁ではないか。とくに、公取委が昨年4月に下請法の運用基準を見直し、燃料などのコスト上昇下において価格を据え置くことは「買いたたき」に相当するとし、価格据え置きを事実上の「値下げ」と見なしたことが大きい。

 

 物流会社の価格交渉先は「対荷主」と「対元請け」の2種類があるが、中小運送会社の交渉先はほとんどが同業である元請け企業だ。元請け物流会社への価格転嫁を促す公取委と中企庁が「価格交渉に後ろ向きな企業」「値上げをしぶる企業」を実名で公表したことは大きなインパクトがあった。また、中企庁は価格交渉促進月間(3月、9月)のフォローアップとして、年に2回、価格交渉/転嫁に後ろ向きな企業名を4段階にランク付けして公表している。物流業界の同じ仲間であるにもかかわらず、価格交渉に応じていないというのは企業イメージの毀損につながり、輸送力の確保にも影響が出かねない。そのため、元請けも下請の中小運送会社からの値上げ要請に応じざるを得ず、全体的な運賃の底上げにつながったのではないか。

 

 何と言っても、公取委が本腰を入れ出したというのは大きい。運賃水準はこれからもじわじわと上昇を続けていくだろうね。

 

 東京都トラック運送事業協同組合連合会が定期的に実施している運賃動向調査によると、直近の昨年10月調査時点で半数の運送事業者が、この半年間で運賃が「値上がりした」と答えており、今後についても2割が「上がるだろう」と予測している。荷主への運賃交渉でも「認められた」が4割となっている。物流業界が他業種より平均労働時間が長いにも関わらず、賃金は2割程度低いという状況であるのは、適正な運賃をもらえてないことも要因なのは確かだ。若年層はコスパ、タイパを重視する文化が定着しており、忙しいわりに給与が低い仕事というイメージは若手人材の確保においては死活問題につながる。今年も運賃は上昇基調を維持するだろうと思っている。

スポット運賃は上昇が顕著

C 確かにドライバー不足が年々深刻化する状況の中で、運賃が下がることは考えにくいが、何もしないでも上がるわけでもなく、荷主との粘り強い交渉が不可欠だ。ただ、荷動きが停滞すれば、安い運賃でいいから仕事がほしいというダンピング圧力が高まるかもね。やはり運賃は市場の需給関係によって決まるというのが基本だ。とはいえ当面は需給の問題よりも、標準的運賃制度や改正物流法、あるいは、下請法が運賃交渉に応じないことや正当な理由なく運賃を据え置くことを「買いたたき」とした規定したような〝官製圧力〟が働く局面が続くのではないか。本当は景気がよくなって荷量も増えるという、需要がけん引する形で運賃が上がるのがいいのだけれど。

 

 ある種の〝官製運賃〟と言えなくもないね。まあ、皆が言うように今後数年間は運賃水準が上昇していくとは思う。ただ、人件費や燃油費などのコストも上がっており、それを補って余りある上昇率を実現できないと、他産業との賃金格差がなかなか埋まらないことも事実だ。

 

 ドライバーの賃金水準が全産業平均かそれ以上に上がっていくかと言われれば難しい。それには、相当、高いレベルで運賃を引き上げていくことが前提となる。

 

A とはいえ、今後数年間、運賃上昇が続いていけば、どこかの時点で荷主が「うちは結構な額を支払っている。あとはトラック業界内の問題だ」との主張が湧き上がってくるタイミングが来るのではないか。そうなると、多重下請け構造などトラック業界内の構造問題にテーマが移っていくと思う。実運送を担っている下請け事業者の運賃が安いのは、「荷主が悪いのではなく、トラック業界内での富の分配の問題だ」とされかねない。そうならないためにも、多重下請け構造の是正は喫緊の課題だと思う。

 

 昨年、運輸労連(全日本運輸産業労働組合連合会)の大会で講演した国交省の貨物流通事業課長が、多重下請け構造について「把握している個別の事案では7次請けも確認している。5次、6次まで介在しないと取引が成立しないというはいかにも不自然だ。荷主側からすれば、そちらの構造を是正してほしい、という気持ちもあるだろう」と言っていた。これは個人的に結構刺さった発言で、トラック業界を担当する課長がこれを言えるのは素晴らしいと率直に思った。そうしたマインドを持って、トラック運送業界の構造改革に取り組んでいってほしい。

公取委は価格転嫁を監視
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