カーゴニュース 2025年6月19日 第5348号
食品分野に限定せず、目指すのは「総合物流会社」
――物流事業を分社化し、「ベスト・ロジスティクス・パートナーズ」を設立しました。物流機能を強化するために、あえて別会社にしたのはなぜでしょうか。
田村 分社化については社内でもかなり議論がありましたし、取締役会では新会社の社名は「三菱食品ロジ」でよいのでは――という意見も出ました。会社を分けた理由のひとつが、人材の確保です。当社は全国に物流センターがあり、それを支えていくのは、やはり物流の仕事に対して専門性と誇り、「物流志向」を持っている人であるべきだと思います。あるエリア内で働きたいと希望する人はたくさんいますが、全国採用で転勤を前提としている三菱食品の人事体系とはマッチしません。全国各地でセンターを運営していく以上、むしろ各エリアで「物流志向」を持った人を採用した方が、ミスマッチが起きにくいのではないかと考え、採用体系を分けることにしたのです。
――分社化の背景には「採用戦略」があったのですね。新会社立ち上げに至った「物流戦略」についてもお聞かせください。
田村 社名を「三菱食品ロジ」にしなかった理由は、取り扱いを食品に限定せず、総合物流サービスを展開していくためです。社名に「〇〇食品」とある物流会社がアパレルのお客様のところに営業に行っても、「何しに来たの?」と返されてしまいます。ニュートラルなイメージの社名にしたいと考えました。もともと、三菱商事と旧菱食の合弁で「ベスト・ロジスティクス・パートナーズ」という同名の物流コンサル会社があり、その会社はいったんクローズしてしまいました。もう一度同じ名前で、今度は総合物流会社として羽ばたいていこう――という思いで、4月から業務をスタートしました。現在の売上高規模は2000億円程度ですが、3000億円を目標の目安としています。物流会社の売上高ランキングでベスト10くらいに入ることを目指して成長していきます。
――どのような業務を展開していきますか。
田村 食品の物流センターの運営・管理、配車、流通加工あたりがメインのビジネスになります。ベースとなるのは三菱食品向けですが、3PL的に幅を広げ、非食品の顧客へのアプローチも進めていきます。物流の受委託だけでなく、物流コンサルニーズの拡大にも期待しています。三菱食品としてとくに強みがあるのは、現場系のコンサルです。可視化ツールを活用し、庫内の生産性や数値の管理などが得意領域であり、顧客に対し説得力ある分析を行えます。将来的に挑戦したいのは、国際物流です。三菱食品として日本食の輸出に取り組もうとしており、それを物流面で支えていきたいと考えています。三菱商事による三菱食品へのTOB(株式の公開買い付け)が成立すると、当社と三菱商事ロジスティクスはともに三菱商事の100%子会社となります。三菱商事ロジスティクスは国際物流、海外物流を手掛けており、当社とは物流サービスの相互乗り入れが期待できます。
CLOは物流機能と経営をつなぐ視点を持て
――荷主への規制的措置を盛り込んだ物流改正法が施行され、来年度以降、一定規模以上の荷主には「CLO(Chief Logistics Officer)」の選任が義務付けられます。最後に物流改正法に対するご意見、CLOが果たすべき役割についてお聞かせください。
田村 物流についてはこれまで「基本法」となるものがありませんでした。「総合物流施策大綱」はありましたが、関係省庁の物流政策をまとめたものがひとつの“器”に入っていたという印象です。今回、改正法の中に、「物資の流通の効率化のための取組は、将来にわたって必要な物資が必要なときに確実に運送されることを旨とする」という「基本理念」が盛り込まれたことは大きいと思います。物流改正法により、将来にわたって物流が持続可能でなければならないという基本理念を明確化した点を評価しています。
「CLO」には、物流という一機能だけを見るのではなく、その機能と経営をどうつなぐかという視点が求められます。従来、物流機能は経営のプロセスの中では「物流費」として表わされ、「コスト」と「品質」というトレードオフの関係にある2つの変数をコントロールし、バランスをとっていくことが物流部長に求められる役割でした。
「CLO」は従来の「コスト」と「品質」に、「持続可能性」という新しい変数も加えた3つの連立方程式を解くことが求められます。持続可能性という言葉はかなり広範囲でとらえられており、ドライバー不足や環境問題、外国人労働者への対応、多重下請構造をどう是正するか――といった幅広い文脈で語られます。たとえば、物流拠点でCO2フリー電力や太陽光発電、自然冷媒を導入すれば、コストは上昇しますが、企業価値全体を考えれば、無視できない要素です。私自身もまだ答えが出ていませんが、「コスト」「品質」「持続可能性」という3つの変数についてどうバランスをとっていくか、物流機能と経営をどうつないでいくかを考えていきたいと思っています。
田村幸士(たむら・こうじ) 1988年3月慶應義塾大学法学部を卒業後、同4月三菱商事に入社。物流部門が長く、三菱商事ロジスティクス社長、三菱商事食品流通・物流本部長などを経て2021年4月三菱食品出向(取締役常務執行役員SCM統括)。25年4月からCLOを兼務
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