カーゴニュース 2025年6月19日 第5348号

CLOに訊く
物流事業を分社化、競争力高め新たな収益の柱に
三菱食品取締役常務執行役員SCM統括(兼)CLO 田村幸士 氏

「可視化」「最適化」「オープン化」戦略を推進

2025/06/18 17:00
全文公開記事 FOCUS インタビュー

サプライチェーンの「上流」に目を向けよう

 

 ――新会社については後程、詳しくお聞きしたいと思います。先ほど「2024年問題」は荷主が考え方を変えるきっかけとなったとお聞きしましたが、卸にとってはどのようなインパクトがありましたか。

 

 田村 「サプライチェーン全体を見なければならない」と言いますが、従来、卸として関心を向けていたのは、「川下」の領域だけでした。卸にとってのお客様は小売ですので、小売に対してどう届けるかに専心する一方で、「上流」、すなわちメーカーから卸に持ってくるところについてはメーカー側の責任とコストで行うため、関心が薄かったのではないかと思います。要するに、いままではサプライチェーンの半分しか見て来なかったのです。

 

 ところが、「2024年問題」で物流に制約がかかるようになり、中小の食品メーカーからは「もう持っていけません」という声が聞こえてくるようになりました。これは卸としては想定していなかった問題でした。一方で、大手の食品メーカーからは「リードタイムを延長してもらえないと運べません」という働きかけが増えてきました。卸は商品の仕入れができなければ売ることができません。サプライチェーンの「上流」にあたる、メーカー~卸の物流についても卸として考えていく必要があると気付かされました。

 

 私は21年にいまのポジションに着任しました。サプライチェーン全体を考え、最適化を目指すにあたって、最初に着手したのは「可視化」です。それまで、自分たちの貨物はどこに何ケース、何トンあって、どのトラックでどこに向かって走っているか、積載率はどうなっているのか、物流拠点で何人働いているか――について把握できていませんでした。どこで何が起きているかを可視化さえできれば、何が問題で、どこにボトルネックがあるのか、何を改善したらいいのかが見えてきます。当時はDXという言葉が流行り始めたころでしたが、難しいことを考えるよりもまず可視化することが大事で、それが当社のDXだととらえました。TMS(輸配送管理システム)や倉庫の画像分析など各種可視化ツールの導入に取り組みました。

 

 ――可視化することによって「ムダ」だけでなく「余力」も見えてきたのではないでしょうか。

 

 田村 国土交通省の物流センサスを見ても、日本全体の貨物流動は減少してきています。人口の減少に伴い、貨物量も減るため、本来、ドライバーをはじめ物流のキャパシティー不足が起きないはずです。一方で、トラックの積載率は年々低下し、6割は空気を運んでいる状態です。すごくおかしな話で、どこかにボトルネックがあって歪みが生じていると考えられます。それはおそらく当社にも当てはまります。物流リソースの最適配分を行えば、物流のキャパシティーをもっと捻出できるのではないかという“仮説”を持っています。「可視化」ができたら、次は「最適化」と「オープン化」のフェーズに入っていくのが、当社の物流事業の戦略です。

各種可視化ツールを導入

チルド→冷凍化シフト、冷凍倉庫の供給増やす

 

 ――近年の取り組みでは様々な連携・協働を進めています。23年にはキユーソー流通システムと合弁会社を設立しました。卸と物流専業者が手を組むのは珍しい事例だと思います。

 

 田村 私は食品専門ではありませんでしたが、「耳学問」で「これからはチルドは減っていく。増えるのは冷凍だよ」という見立てを経営トップから聞いていました。チルドはフードロスが発生しやすいという問題があります。すでにコンビニでは冷凍おにぎりが販売されており、冷凍技術はどんどん進歩していきますので、「チルド→冷凍化」のトレンドは間違いなく進むと思います。一方で、物流をみると冷凍倉庫の供給はそれほど増えていません。冷凍倉庫はドライの倉庫に比べ新設や建て替えのハードル高く、冷凍食品の成長のスピードに冷凍倉庫の供給が追い付いていないのです。冷凍倉庫のスペースをある程度自分たちでコントロールできるよう増やしていく必要があり、そこにビジネスチャンスも生まれる――と考えました。ただ、冷凍倉庫の管理・運営には高度な専門技術が必要です。「餅は餅屋」ということで、低温物流に知見を持つキユーソー流通システムと組んで、冷凍倉庫の供給を増やしていこうとしています。いま合弁会社では関東で2つのセンターを運営していますが、3つ目のセンターの開発を議論しています。ただ、建設費が高騰し、投資の意思決定は悩ましいところです。

 

 ――最近は賃貸用冷凍倉庫も増えてきています。冷凍食品など「流通型」の商材はそうした施設にマッチしやすいとも言われていますが、活用するご意向はありますか。

 

 田村 メーカーと卸では冷凍倉庫の使い方が異なっています。具体的には、メーカーは工場で製造した製品をそのまま「保管」することが多いのですが、冒頭お話したように、卸の冷凍倉庫は「ケース」で入庫されたものを「ピース」に流通加工して出荷するので、ケースを開けて仕分けしたり、オリコンに積み替えたりする作業が発生します。つまり倉庫内に「前室」が必要です。パレット単位で保管できる冷凍自動倉庫も登場していますが、自動倉庫は作業スペースを想定していないため、卸としては使いにくさを感じます。

 

 ――トラック輸送の空きスペースを活用した 「trucXing(トラクシング)」を展開しています。これはサプライチェーンの「上流」に着目したサービスですね。

 

 田村 もともとは中小の食品メーカー向けに考案したサービスです。中小のメーカーは販売が車建ての量にならず、「3~4パレットの量では誰も運んでくれない」という声を聞いていました。そうしたメーカーを支援できないか――と考えたのが発端です。以前から当社はメーカーの荷物をまとめて小売の専用センターに持っていく仕事を手掛けていたこともあり、「上流」の物流を請け負っていけるのではないかと考えました。実際にここ数年、3PLとしてメーカー物流を受託するサービスが好調で、商流とは関係なく、物流だけを受託しているケースもあります。

「trucXing(トラクシング)」の取引の流れ
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