カーゴニュース 2025年7月17日 第5356号
2024年から25年にかけて、物流会社の株式市場からの退出が続いている。「2024年問題」をはじめ物流業界の急速な環境変化を背景に、業界再編に向けた機運が高まり、大手物流会社による上場物流会社のTOB(株式の公開買い付け)による大型買収が相次ぐ。また、短期的な業績向上や買収リスクにとらわれず、長期戦略に基づく経営改革を行うため、MBO(経営陣による買収)により株式の非公開化に踏み切るケースも増えてきた。
柔軟かつ機動的な経営体制に移行
近年、経営の意思決定の迅速化や中長期的な課題に対応するための経営戦略として、株式の非公開化を選ぶ企業が増えている。投資家の短期志向や資本効率経営への要請、アクティビストの圧力も強まっていることに加え、各種情報開示の義務付けなど上場維持費用、業務負担が増していることも背景にある。また、非公開化は買収防衛策にもなる。
日新は5月、創業家とベインキャピタルが組み、MBOによる非公開化に踏み切ることを発表。経営環境の変化への対応にあたり、同業他社との差別化、海上・航空事業におけるスペース調達力の強化、海外事業の拡大、デジタルフォワーディングサービスの高度化、人材の確保等の各種経営課題に対応するための抜本的な施策を実行する狙いがある。
これらの施策には多額の初期投資や継続的な投資が必要で、「株式を非公開化し、所有と経営を一致させることで柔軟かつ機動的な経営体制を構築することにより、株主に対して発生するおそれがある株価の下落等の悪影響を回避し、短期的な業績にとらわれない中長期的な視点での取り組みや意思決定の迅速化を実現できる」としている。
同じくベインキャピタルと組んで昨年、MBOを行ったのがトランコムだ。物流業界全体が大きな課題を抱える中で株式を非公開化したうえで経営課題に取り組む道を選んだ。求車求荷マッチング事業など同社の強みを活かしていくためにも、創業家によるMBOが非公開化の最善の方法と判断しつつ、ベインキャピタルのノウハウを活用することで新たな成長を目指すという。
トナミホールディングスのMBOは、日本郵便との協業による企業価値向上を図るのが狙い。MBOには創業家代表、経営陣も参加。「環境変化の中で上場を維持するメリットが相対的に低下し、経営陣および創業家による非上場化の道を模索」していたもので、「さらなる成長のためには外部の経営資源も活用することが必須」と判断した。特積み事業の幹線輸送網などで親和性の高いJPロジスティクスと協業しながら、日本郵便の連結子会社としてシナジーを創出していく。
短期的な収益確保にとらわれず積極投資
内外トランスラインは投資ファンドのIAパートナーズからのTOB提案に賛同し、非公開化に踏み切った。景気や外部環境の影響を受けやすい海上混載サービス業から国際総合フレイトフォワーダーへの変革を目指すため、短期的な収益確保にとらわれず、DX推進や事業領域拡大に向けた積極投資を迅速に行うとしている。
タンクコンテナ輸送の日本コンセプトも6月30日、同社の経営陣と国内投資ファンドのJ―STARが連携し、MBOを通じ株式を非公開化すると発表。成長市場での事業拡大と企業価値向上を図るため、「株式市場からの評価にとらわれず、株主と経営陣が一体化して機動的かつ柔軟な意思決定が可能な強固かつ安定した新たな経営体制を構築する」としている。
非公開化が増えている背景には、資金調達手段や社会的信用の獲得としての株式上場のメリットがかつてに比べ薄れていることもある。ただ、非公開化により経営の自由度が増す一方、ガバナンスや内部統制の一層の強化が求められる。またTOB価格は通常市場価格にプレミアムが加算され高くなり、MBOに必要な資金調達額は大きくなるため、MBO後の経営戦略、財務計画の重要性も増す。
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