カーゴニュース 2025年7月31日 第5360号
2024年度の宅配便大手3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)の取扱個数の合計は前年度比1・9%増の47億1800万個となり、前年割れとなった23年度から一転、増加に転じた。24年度の市場全体の取扱個数はまだ明らかになっていないが、3社で95・1%(23年度実績)の占有率を占めているため、市場全体でも伸びに転じることが予想される。25年度に入っても3社の取扱個数は増加基調で推移しているが、6月末に日本郵便の一般貨物自動車運送事業の認可が取り消される事態が発生し、今後のゆうパック事業への影響が予想される。また、国土交通省は現在、「置き配」を標準サービスに位置づける方向で検討を進めていると言われており、今後の宅配便市場に変化が起きる可能性がある。
24年度の3社実績は2年ぶりに増加
まず、24年度の大手3社の取扱個数を見ると、合計で47億1800万個となり、23年度比で1・9%増、個数ベースで約8900万個の増加となった。3社のうちヤマト運輸、日本郵便の2社は前年度実績を上回り、佐川急便は23年度の取扱個数を下回った。22年秋以降、インフレによる物価上昇などにより消費マインドが冷え込み、ECを中心に宅配需要の低迷が続いていたが、ようやく回復の兆しが見えてきた。
各社の実績を見ていくと、ヤマト運輸は23億5200万個となり、前年度比2・5%増、前期から約5700万個の増加となった。主力3商品(宅急便、宅急便コンパクト、EAZY)の実績は前年度比4・0%増の19億6100万個と好調だった一方、投函型商品(ネコポス、クロネコゆうパケット)は日本郵便に配達を委託した影響もあり4・5%減の3億9100万個と低調だった。
佐川急便の「飛脚宅配便」実績は12億7100万個、前年度比4・1%減、個数ベースで5400万個の減少。同社はここ数年、数量よりも単価を重視する方針を掲げており、22年度以降、3年連続で前年割れとなるなど、個数面では苦戦が続く。一方、平均単価は23年度から14円上昇の662円と大幅に改善するなど、戦略面では成果が出ている。
3社の中で最も高い伸びを示したのが日本郵便。24年度は前年度比8・5%増の10億9500万個となり、個数では8600万個増加した。内訳を見ると、ゆうパックの取扱個数は2・1%増の5億5800万個となった一方、ポスト投函型のゆうパケットはヤマト運輸の委託分も寄与し、16・1%増の5億3700万個となり、伸びを大きくけん引した。
コロナ禍後5年間の純増は1億8500万個
20年度以降5年間の大手3社の推移を振り返ると、コロナ初年度だった20年度は在宅による巣ごもり需要によって通販利用が爆発的に増加し、3社計で前年度比5億個増(12・4%増)の45億3300万個を記録した。翌21年度はその反動減もあって伸び率自体は2・2%増にとどまったものの、個数ベースでは前年比で約1億個の増加となった。続く22年度は、下期以降に個人消費が停滞し、伸び率が1%増の微増にとどまるとともに、3社のうち2社が前年割れに落ち込むなど成長鈍化が顕在化した。さらに23年度は、22年度下期からの停滞モードが継続し、前年割れ基調で推移。その結果、ヤマト運輸と佐川急便の2社が前年割れとなるなど、消費低迷による減速が顕在化し、コロナ禍以降で初めて3社合計の取扱個数が前年割れとなった。
20年度と24年度の3社の取扱個数を比較すると、5年間での純増個数は1億8500万個。コロナ禍後の反動減や個人消費の低迷といった個々の要因はあるものの、EC化率の向上は続いており、宅配便市場は依然として拡大基調にあることがうかがえる。
どうなる?日本郵便のゆうパック事業
25年度の宅配便市場は、緩やかながらも拡大基調が続くものと見られるが、最大の波乱要素となるのが、不適切点呼事案により一般貨物運送事業の許可を取り消された日本郵便の動向だ。6月26日以降、大口顧客への集荷などに使用していたトラック約2500台が使用できなくなり、自社の軽トラックや他社への委託によって業務を代替している状況が続いている。また、今後は郵便物やゆうパックの配達などラストマイルの根幹を担う軽貨物事業についても行政処分は避けられない見通し。日本郵便は「どのような処分を受けても、ゆうパック事業は継続していく」との方針を表明しているが、事業に与える影響は少なくない。関係者からは「安全の根幹を揺るがす事案だけに、大口顧客の離反もあり得る」との声があるほか、業務委託によるコスト増の影響も指摘される。日本郵便の5月までの取扱実績は前年同期比3・9%増と堅調を維持しているが、行政処分が実施された7月以降の状況を注視していく必要がある。
他方、ヤマト運輸は個人・小口法人の取扱個数で前年度比2・8%増を計画するなど、リテール領域を中心に需要回復を予想。6月までの今期実績は前年同期比3・6%増を記録するなど順調に取扱個数を増やしている。今期は日本郵便への委託を見直したことで、24年度に前年割れだった投函型商品(ネコポス、クロネコゆうパケット)の取扱個数が回復しており、6月までの実績(内数)は前年同期比7・7%増となっている。また、日本郵便に対する処分の影響から、ヤマトへのシフトが一定程度進むことも考えられそうだ。
佐川急便も、今期はリアルコマースや定温、越境ECなど新たな領域での取り扱いを増やすことで、4年ぶりに取扱個数を見込む。とくに観光・レジャー市場向けに「SAGAWA手ぶらサービス」の拡販に注力することでインバウンド需要に取り込みを図るほか、前期にグループ化したC&Fロジホールディングスのインフラを活用した定温など温度管理宅配便の増加を計画している。
「置き配」標準化、まずは宅配市場全体の把握を
今後の宅配便事業の行方を左右しかねないのが、「置き配」を巡る問題だ。国交省は今年6月、「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」の初会合を開き、現在は対面配達が基本となっている標準宅配便運送約款に「置き配」を標準サービスに盛り込む方向で検討を開始した。「2024年問題」対策の一環として取り組んだ不在配達率の引き下げが目標に届かなかったことを受け、さらなる配達効率の改善を見込んだもの。
「置き配」は配達時間を気にすることなく、荷物を受け取れるという利点がある一方で、盗難や汚破損、個人情報流出などへの懸念から利用をためらう人も少なくない。また、マンションや一戸建て住宅への宅配ボックスの設置をどのように進めていくかといったインフラ面での課題もあり、関係者からは「『置き配』を標準サービスとするためには、前提として解消すべきハードルが数多くある」との指摘もある。
また、大手ECプラットフォーマーが進めている自社配送の多くが「置き配」を前提としていることについて、「大手ECの自社配送はあくまで小売りの付帯業務だが、荷主からの運送委託を受けて〝業〟として行う宅配便事業者とは一線を画すべき」との声もある。仮に荷物が盗難に遭った場合、EC事業者の場合は社内処理で完了するが、宅配便事業者の場合は荷物追跡や荷送人への報告、補償処理など膨大な労力と時間がかかるという。さらに、「大手ECが自社配送を開始して以降、宅配便市場の全体像が見えにくくなった」とも言われており、まずは自社配送を含めた宅配便全体の取扱個数など市場全体の可視化が必要との指摘も出ている。
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