カーゴニュース 2025年7月31日 第5360号
物流の「2024年問題」や中長期的な輸送力不足への対応として期待の集まる自動運転トラック。その商業運行の普及に向け、事業者・メーカー・トラックターミナルの取り組みが加速している。政府は2023年に「高速道路でのレベル4(=特定条件下での完全自動運転)自動運転トラック社会実装に向けたロードマップ」を策定。25年度までに車両技術として実現するだけでなく、運行管理システムや必要なインフラ、情報など事業化に必要な事業環境を整備。26年度以降は保安要員が同乗したレベル2自動運転の社会実装を開始し、30年度以降には保安要員なしのレベル4自動運転の商業運行を開始するスケジュールを示した。物流事業者、トラックメーカー、トラックターミナルなど物流のステークホルダーはロードマップに対応した動きを活発化。政府はさらに、今年6月に「モビリティDX戦略」最新版を公表し、実証走行や技術開発などへの支援を推進する方針を確認。経済産業省が15年に「自動走行ビジネス検討会」を設置して10年が経過し、自動運転トラックの商業化に向けて一段と弾みがついてきたようだ。
T2が事業者・荷主との実証輸送を展開
「ロードマップ」は30年度以降のビジネスモデルについて、特積み・宅配など大手物流事業者を中心に関東~関西間の全区間で、自動運転トラックの夜間・全季節の幹線輸送を実現するとともに、高速道路と一般道をつなぐ物流施設の整備を推進。35年度以降は関東~関西間に加え、関西以西まで延伸し、昼夜・全季節・全天候での幹線輸送を実現する目標を掲げた。これを受け、大手特積みトラックや大手宅配など物流事業者や荷主による自動運転トラックの商業化がスピードアップしている。
とくに目立つのは自動運転トラックによる幹線輸送事業を掲げるT2の取り組みだ。同社は22年に三井物産とAI開発企業のPreferred Networks(PFN、プリファード・ネットワークス)の共同出資により設立。設立後もJR貨物、三井倉庫ロジスティクス、大和物流など物流企業をはじめ、不動産、リース、情報通信、損保など複数の企業からの出資を受け、経産省などの支援も得ながら事業展開を図っている。
24年6月に新東名高速「駿河湾沼津SA~浜松SA」間でドライバーの介入なしで連続自動走行に成功。それ以降、物流事業者では佐川急便、セイノーホールディングス、日本通運、JR貨物、全国通運、日本フレートライナー、日本郵便、JPロジスティクス、福山通運、東京流通センター、鈴与、三井物産サプライチェーン・ソリューションズなどと連携して実証走行を実施。荷主・物流子会社では、F―LINE、パナソニックグループ、大王製紙、横浜ゴム、江崎グリコ、キユーピー、キユーソー流通システム、住友化学、住化ロジスティクス、日清食品、アサヒロジ、キリングループロジスティクス、サッポログループ物流、サントリーロジスティクス、大和物流、月桂冠、東罐ロジテック、ザ・パックなどの貨物を自動運転トラックで輸送する実証を積み重ねてきた。
実証輸送のうち、6月20、21日にはJR貨物、日本通運、T2の3社が連携し、雪印メグミルクの粉ミルク製品を北海道の工場から大阪の同社拠点まで輸送するモーダルコンビネーションを実施。また、今月14、15日には東罐ロジテック、JR貨物、全国通運、T2による実証輸送を実施した。東洋製罐グループの飲料用容器を自動運転トラックと貨物鉄道を組み合わせて関東~九州間を輸送し、自動運転トラックの運用の可能性を拡大したものとして注目された。
官民一体で自動運転トラックの商業化を図る取り組みも進んでいる。今年2月にT2は国土交通省とともに「自動運転トラック輸送実現会議」の全体会議を初開催。三菱ふそうトラック・バス、大林組、日本通運、名鉄NX運輸らが新たな会議メンバーとして参画し、商業運行実現への官民協議体制を強化した。
7月、国内初となる「自動運転」事業化スタート
一連の実証輸送の成果を踏まえ、T2は今月1日から国内初となる自動運転トラックによる幹線輸送を事業化した。佐川急便、西濃運輸、日本郵便、福山通運、三井倉庫ロジスティクスの5社と協業し、東名高速「横浜青葉IC」~阪神高速「魚崎出入口」までの約500㎞において5社が集荷した貨物をレベル2自動運転で輸送する事業を開始した。今後は協業する物流事業者や荷主を拡大するとともに、27年度にはレベル4での関東~関西間幹線輸送実現を目指す。
T2以外でも自動運転トラックの取り組みは進んでいる。ヤマト運輸とNEXT Logistics Japan(NLJ)は3次元地図データを提供するダイナミックマッププラットフォーム、ITソリューションのBIPROGY(ビプロジー)と連携し、新東名高速「駿河湾沼津SA~浜松SA」間で4社協働による実証運行を実施。安全性を確保し、積載効率の高い自動運転トラックの輸送スキームを検証し、今後の本格的運行につなげたい考えだ。
トラックターミナルの整備が重要テーマに
「高速道路でのレベル4自動運転トラック社会実装に向けたロードマップ」は高速道路と一般道をつなぐIC近傍に無人運転から有人運転への切り替えや貨物の積み替えを行える物流施設を設置する実証事業を支援するとともに、複数の物流事業者が共同運行を行う際に運行主体となる企業創設に向けて検討を開始する方向性を示した。また、今年6月に政府が改訂した「モビリティDX戦略」は、IC近傍の物流施設から納品先までの配送に関して、①自動配送ロボットの活用②複数荷主の共同配送③貨客混載による効率化――などの取り組みを推進する方向性を提示した。配送までを含めた自動運転スキームを構築するには、自動運転の大型車を受け入れ可能とし、無人運転から有人運転への切り替えや、積荷を大型車から小型車に積み替えることができる施設が必要となる。
すでにそうしたニーズへの対応が始まっている。今年4月30日、関西で北大阪トラックターミナルや東大阪トラックターミナルを運営する南海鉄道と物流センター事業を展開する東京流通センター(TRC)は、関東~関西間の自動運転トラック運行の商業化を視野に入れた業務提携を締結。大阪府茨木市に立地する北大阪TTを自動運転トラックの無人/有人切り替えや貨物の積み替え拠点として活用していく方向だ。一方、関東でも同様の動きが進んでいる。6月25日にTRC、日本自動車ターミナル(JMT)、T2、大田区の4者が自動運転トラックの一般道受け入れに向けて本格的協議を開始。TRCとJMTが立地する平和島地区を自動運転トラックと配送車両をつなぐ物流拠点エリアとする構想を検討していく。
トラックメーカーの取り組みも進展
大手トラックメーカーも自動運転トラックの商業運行を見据えた取り組みを推進している。いすゞ自動車とUDトラックスは3月に新東名高速「駿河湾沼津SA~浜松SA」間に新設された「自動運転車優先レーン」で実証走行を実施。安全運行や自動駐車・発進、情報提供システムの稼働を検証した。その結果を踏まえ、いすゞは26年にパートナー企業との協働によるレベル4の実証を国内で開始し、27年から日本・北米を起点にレベル4のトラック・バス事業を開始する計画だ。
日野自動車は今月、舗装道路のテストコースでレベル4自動運転トラックをモニター監視のうえ24時間無人運行すると発表。将来的には公道上での自動運転実証につなげる。
三菱ふそうトラック・バスは3月、自動運転レベル2での高度運転支援機能を備えた大型トラック「スーパーグレート」を発売した。今後はレベル4技術を搭載したトラックの開発に注力していく。
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