カーゴニュース 2026年7月2日 第5448号

物流戦略のキーマン “CLOに訊く”シリーズ

CLOに訊く vol.5
サプライチェーン全体の持続性を高める
日販
専務取締役構造改革本部長
物流部・運輸部統括、CLO(物流統括責任者)
伊藤宏治氏

物流領域を中心とした改革・協業を推進

2026/07/01 17:00
全文公開記事 FOCUS 荷主・物流子会社 インタビュー

 日本出版販売(日販、本社・東京都千代田区、富樫建社長)は、持続可能な出版流通の構築に向けて、抜本的な構造改革を進めている。同業他社との物流協業に加え、異業種共同配送コンソーシアムにも参画。出版流通の業量が減少するなかで、トラック1台あたりの積載率向上を図り、運送会社との共存共栄を目指す。伊藤宏治専務取締役構造改革本部長、物流部・運輸部統括、CLO(物流統括責任者)に同社の物流改革を聞いた。(インタビュアー/石井麻里)

 

物流コストはこの10年で1・8倍に

 

 ――出版取次事業を取り巻く環境、出版特有の物流課題についてご説明いただけますでしょうか。

 

 伊藤 2024年の紙の出版物の販売金額は約1兆2000億円規模でした。1996~97年をピークに、減少が続いており、この10年では30%近く減っています。主要な取引先である書店についても、同様にこの 10年で30%以上の店舗数が減っている状況です。こうした市場環境のなか、物流コストはかなり上昇しています。物流コストのなかでもウェートの大きい運賃、人件費を含めたセンター運営コスト、荷造費などを合わせた物流コストはこの10年で1・8倍になっています。

 

 とくに上昇率が大きいのが運賃です。運送会社の皆様にはいろいろご協力や工夫をいただいていますが、燃料費、人件費など運送原価が上昇しています。加えて、出版流通のマーケットの縮小に伴い、取り扱い業量が減っていますので、積載率が悪化しています。重量運賃の採算が悪化し、運送会社からの値上げ要請を受けており、年間数億円単位で運賃が上がっている状況です。

 

 ――それに対して、どのような手を打っているのでしょうか。

 

 伊藤 出版市場の縮小を見据え、拠点の再編や、固定費の圧縮を進めています。この10年で物流にかかるコストはおよそ100億円を圧縮しました。ただ、業量の減少に伴う効率の悪化、資材の高騰、物流コストの上昇のスピードの方がもっと速く、結果として、取次事業は赤字となっています。

 

 出版物は「再販売価格維持制度」により、出版社やメーカーが小売価格を決めて、その価格の範囲内で取次、書店にマージンが配分されます。つまり、物流コストが上昇した分を価格転嫁することが難しいという業界特有の構造があります。出版社側の原価も上昇していますので、出版物の価格の引き上げは継続的に行われていますが、流通コストの上昇をサプライチェーン全体で吸収できるような価格設定にはいまだなっていません。

 

 ――業量の減少により出版物の輸送から撤退する運送会社も増えていると聞きます。

 

 伊藤 たとえば、従来2コースでの配送を1コースに再編することで積載率を上げる――といったコースの再編の取り組みを行っています。ただ、運送会社の原価の上昇をカバーするには至らず、出版物輸送を継続できないという声が一部にあるのは事実です。

業量の減少による効率悪化が課題

新組織で抜本的な改革を進める

 

 ――4月1日付の組織変更は、出版流通の持続可能なモデル構築に向けた取り組みを加速・強化するのが目的ということです。組織変更の背景をお聞かせください。

 

 伊藤 出版業界自体がマーケットの縮小により、売上でコストを賄えておらず、構造的な改革を抜本的に行うことが不可欠です。こうした課題に対応するため、今回の組織変更では、従来の5本部体制を見直し、2本部体制に再編しました。

 

 従来は取次の営業、仕入、物流といった機能別の本部体制をとっていましたが、抜本的な改革を進めるため、新組織では「出版流通事業本部」と「構造改革本部」という2つの本部を新設しました。

 

 出版流通全体の中長期的な課題の解決を主導していくため、「構造改革本部」に「サプライチェーン戦略部」を新設しました。改正物流法の考え方にも通じますが、運送、物流だけでなく、サプライチェーン全体で改革を進めていかなければなりません。物流の負荷を軽減し、サプライチェーン全体の持続性を高めることが重要です。物流領域を中心とした改革、川上、川下、それから同業他社との協業を推進します。

 

 トラック適正化法の全面施行を控え、足元の最大の課題は輸配送だという認識です。法改正への対応のほか、持続可能な配送のあり方を具体化するため、業界団体とも足並みをそろえて解決に取り組んでいきます。

 

 ――トラック適正化法では「適正原価」が義務化されます。まだ原案は明らかになっていませんが、現在の「標準的運賃」に近い、かなり高い水準の「適正原価」が定められるとも言われています。これは出版業界にとってインパクトが大きいものになりそうでしょうか。

 

 伊藤 業界団体である日本出版取次協会では、送品と返品合わせて24年度比で年間372億円のコストアップになると試算しています。もちろん、現時点で「適正原価」の詳細はまだ明らかになってはいませんし、あくまでも業界としてのひとつの試算ですが、送品と返品で現状の運賃の2倍近くまで上昇するのではないかと予測しています。いままでと同じ形で、同じ頻度で、同じ条件で出版物を流通させることはできない―――という認識です。納品条件やルールの緩和など商慣習の見直しも不可欠です。

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