カーゴニュース 2025年3月13日 第5323号

インタビュー
成田の新上屋活用で業務品質を向上
ANA Cargo 代表取締役社長
脇谷謙一 氏

〝信頼〟で高単価貨物の獲得強化へ

2025/03/12 17:00
インタビュー 航空 グローバル物流
上屋内では60台のAGVが稼働する

「SmartCargoモデル」構築へ自動化機器の導入推進

 

 ――「ANA Cargo Base+」ではAGV(無人搬送車)を60台導入するなど、上屋業務の大幅な自動化・省人化を進めています。

 

 脇谷 ANAは貨物戦略のひとつとして、業務を徹底的に効率化する「SmartCargoモデル」の構築に取り組んでおり、「第8貨物ビル」への集約と自動化機器の導入はその代表的な取り組みとなります。上屋面積が拡大するのを機に、自動化の余地がある業務についてはなるべくマテハン機器やシステムを導入していく方針を決めました。

 

 今回導入したAGVは、貨物の蔵置エリアやULD(ユニットロードデバイス)への積み付けエリア至近までの自動搬送に活用されます。この作業は従来、作業員がフォークリフトで行っていましたが、比較的単純作業であるため機械に置き換えやすく、安全性も向上しました。導入にあたっては、AGVは屋内で運用されるのが基本ですので、上屋のように屋外と接していて風や光、雨などの影響を受けやすい施設でも機能できるかが課題でした。耐久性や誤作動の可能性などを検証するため、繰り返し実証実験を重ねた結果、現状は想定通りに運用できています。

 

 ULDへの積み付け作業も機械化を検討したのですが、取扱貨物の重量、サイズ、外装梱包が様々であることから現在の技術では難しい面があります。また、危険品や高単価の貨物など、取り扱いの難しい貨物についてもケアが必要であり、人が関わったほうが安全かつ効率的です。AGVなどで省人化した分、ハンドリングが難しい貨物に人手を集中することで作業品質を向上することができます。また、輸入エリアでは国際空港上屋(IACT)主導のもと、AGF(無人搬送フォークリフト)と自動高層ラックを導入しています。

 

 自動化の余地はまだまだあると思っており、今後は上屋の運用を重ねながら模索していく予定ですが、現状でできるところについてはしっかり自動化できたと思っています。

 

 ――「ANA Cargo Base+」は医薬品や生鮮品の取り扱いに対応した温度管理施設も広く備えています。従来拠点での温度管理ではキャパシティが限界に達していたのでしょうか。

 

 脇谷 従来上屋の保管庫では当社以外の貨物も保管されていたため、庫内の中身をすべて自社でコントロールできる専用の保管庫を設ける必要がありました。医薬品や生鮮食品などはかねてから需要の大きい分野なのですが、現時点では需要全体の数パーセントも取り込めていないのが実情です。温度管理需要は今後も拡大していくことが予測されているので、温度管理施設をなるべく大きく確保することが重要であり、決して手の抜けない部分でした。

 

 当社はIATAの「CEIV Pharma」(医薬品の輸送品質認証)や「CEIV Fresh」(生鮮品の輸送品質認証)を取得しており、温度管理施設もその品質に準拠した設備を整えています。サービスの信頼性を高めることが、需要獲得の大きなポイントとなります。

 

 ――「ANA Cargo Base+」のスペックを十分に活用していくための課題はありますか。

 

 脇谷 施設や運用している機械・システムが新しくなると、仕事のやり方も変化します。スタッフは過去の作業に慣れてしまっている面もあり、今度は変化するオペレーションに対するスタッフの対応力をいかに向上させるかがカギとなります。また、オペレーションについても、作業効率が悪ければ、工程を徹底的に見直していく必要があります。今の「ANA Cargo Base+」の運用は完成形ではなく、日々改善に向けて最適な方法を柔軟に取り入れていくことが重要です。

 

 

「ANA Cargo Base+」の温度管理施設

航空貨物の「グローバルトップ5」実現へ

 

 ――1月末にANAのグループ会社であるOCSが、同社の上屋である「成田ゲートウェイ」を「第1貨物代理店ビル」から「第7貨物ビル」に移転しました。移転により業務面でどのような効果が期待できるでしょうか。

 

 脇谷 OCSはこれまで大型の輸入貨物を取り扱う際、スペースの都合で成田の上屋から江東区辰巳にあるオペレーション拠点「OCS東京スカイゲート」へと貨物を引き込む必要がありました。今回の移転により、成田の上屋内で一連の輸入オペレーションを終えて配送することが可能となり、業務の効率化が期待できます。

 

 また、「第8貨物ビル」で取り降ろしたトランジット貨物を最終仕向地に出荷する際の再混載作業を、ANAが持つ上屋内ですべて行えるようになりました。再混載のためにフォワーダー施設まで貨物を運ぶ必要がないことから、よりスピーディーな作業が可能になり、OCSの国際エクスプレスサービスの活用を検討しています。再混載により貨物の混載効率をさらに高めることができるため、機能性の向上も見込めます。

 

 ――最後に、ANAの貨物事業が目指す将来ビジョンについて教えてください。

 

 脇谷 ANAは経営戦略の中で、貨物事業で「グローバルトップ5」となることを目指しています。大きな目標であり、実現のためには、お客様のためになるビジネスを生み出すことで信頼を得ることが重要です。高い信頼のもとでサービスを提供し、その結果として利益を得る体制を構築していく――現在はまだその途上であり、足元を固めている段階です。「グローバルトップ5」といっても、単に取扱量が大きいだけでなく、将来にわたって信頼を得続けられる企業でいるために、スタッフやサービスについても世界屈指の品質を担保しなければなりません。今後も業務品質の強化に手を緩めず、世界で注目される航空会社グループへの成長を目指していきます。        

 

 

 

脇谷 謙一(わきや・けんいち)1967年生まれ。早稲田大学卒。91年4月全日本空輸入社、2011年4月貨物本部マーケティング部チャネル企画チームリーダー、17年8月米州室貨物VP兼貨物事業室米州統括室室長、22年4月貨物事業室マーケティング業務部部長兼貨物事業室グローバルネットワーク部部長を経て、23年4月執行役員貨物事業室長兼ANA Cargo代表取締役社長

 

 

 

 

 

 

移転したOCSの営業所
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