カーゴニュース 2026年6月4日 第5440号

貨眺富営318
「海峡はロマンなのか」
中田信哉(神奈川大学名誉教授)

2026/06/03 16:00
全文公開記事

 狭港や女坑夫の游ぐなり 誓子 

 

 戦争の本質は(太古から現在まで、どう理屈をつけても)利権の奪い合いです。海峡とは陸に挟まれた狭い海の道。そこには多くの歴史や文学がある。英仏間のドーバー海峡、スペイン・アフリカ間のジブラルタル海峡。アラスカ・ロシア間のベーリング海峡、西洋と東洋を結ぶボスボラス海峡など。

 

 話題のホルムズ海峡。日本なら日露戦争における対馬海峡と津軽海峡。源平の戦いの関門海峡など。確か高倉健の「海峡」という映画があった。世界中に海峡は沢山ある。海峡は船の通路。その海峡で周囲に多くの国があり、代替交通路がない場合は常に国際紛争が起こる。マラッカ海峡もそうだろう。なぜ、中国が南シナ海(東シナ海も)支配にこだわるかは、そこから太平洋、インド洋に出る唯一の物流の道だからです。この道が閉鎖されたら輸出入で成り立っている中国は1ヵ月持たないそうだ。現在、海峡ルートは物流だけの道であり、陸地に海路をわざわざ作る人工海峡のスエズ、パナマの運河を含め、海峡は物流問題一択になる。海峡は物流。あれだけ少子化や2024年問題だとかで「物流、物流」と騒いでいたNHKや一般全国紙がホルムズ海峡問題では「物流」という言葉をほとんど使わない。

 

 アメリカとイランの戦争、石油やその加工物の供給問題としての価格高騰ばかり問題にしている。物流話は出てこない。石油関連のタンカー輸送や食品や加工品のコンテナ輸送は彼らが考える「物流」ではないのだろう。物流とは「一国内で行われるトラック輸送のこと」だと理解された。物流が狭い世界の限定された言葉となったのはマスコミ、業界、一部の学者の責任でもある。「物流=トラック」なのか?

 

 海峡問題は物流問題と言うと日本にもある。それが津軽海峡。これから地球温暖化が進めば北海道の日本での地位は飛躍的に上がる。北海道の農水産物生産だけで日本は食べていける、という。そもそも、「食糧、エネルギー、水」の自給ができない国は独立の強国ではない。津軽海峡は日本の物流の生命線となるだろう。青函トンネルは貨物新幹線でもあるべきだろうし、加えて在来線の貨物列車運行、そして片側2車線の高速道路を通せばよい。以前、JR系企業の社長を歴任されたK氏やI氏と貨物新幹線構想についてしばらく一緒に研究したことがある。さすがにベテランだから技術的な面では立派に絵を描くことができた(つまり、技術的には可能)。しかし、そこで行き詰まったのは投資、管理運営、営業を「誰が行うのか」という問題だった。投資は国、管理運営はJR貨物、道路公団、営業はNXなど民間物流企業になるのだろうが、だれだってこんな恐ろしいことには手を挙げない(インフラとはそういうものである)。

 

 話題となっている高速自動車専用道路を使った大型トラックの隊列走行、無人運行など技術的、実験的には可能だろう。しかし、ターミナル拠点への投資、そして管理、営業はだれが受け持ってくれるのか。一般的認識では物流は技術だと思われている。しかし、物流とは「制度の運用」である。この制度をだれが担当するか、だれがお金を出し、だれが売ってくれるのか、の議論がない。物流の本質は商売である。物流とは「商取引の結果として起こる物財の地理的、時間的な移動」である。どうも、ホルムズ海峡問題の結末はこれまで無料だったのがアメリカとイランが共同で通航料をとる目論見ではないだろうか。それも物流である。ぜひ、中東および東南アジアの地図を見て、考え込んでもらいたい。世界を見る目が変わる。いっそのこと、サウジからオマーンに日本企業が人工海峡(運河)を作ったらどうだろうか。ついでだが北アメリカとグリーンランドの間にあるのがハドソン海峡、デーヴィス海峡、ぐっと狭まったネアズ海峡です。

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