カーゴニュース 2024年8月29日 第5270号

注目のスタートアップ! トップが語る物流DX

インタビュー
配送の可視化でフィジカルインターネット実現
エニキャリ代表取締役 小嵜秀信氏

ラストマイルからサプライチェーン全体に拡大

2024/08/29 15:04
全文公開記事 宅配・ラストワンマイル インタビュー

 IT技術とラストマイル物流のノウハウを強みに、物流ソリューション事業を展開するエニキャリ(本社・東京都千代田区)。EC事業者、店舗、配送業者に独自の配送管理システム「ADMS(anyCarry Delivery Management System)」を提供するとともに、全国規模のネットワークで実際の配送サービスにも対応。物流DXにより物流効率化と物流リソースの確保を実現し、有力荷主企業との取引を拡大している。IT×物流サービスプロバイダーとして急成長する同社の小嵜代表取締役に、ラストマイル物流での取り組みとBtoB分野への参入など将来構想を聞いた。
(インタビュアー/石井麻里)

 

ラストマイル物流を総合的に支援

 

 ――これまでのキャリアとエニキャリ設立の経緯をご紹介ください。

 

 小嵜 当社は2019年に設立されたベンチャー企業で、配送事業者、EC事業者、デリバリー事業者向けに、ラストマイル物流に特化したソリューション事業を展開しています。独自の配送管理システムを軸に、デリバリーおよびテイクアウトサイトの構築から、事業規模や要件に応じた配送システムの開発、共同配送ネットワークや個社専用配送ネットワークの構築・提供など、ラストマイル物流を総合的に支援しています。


 当社が物流DXを通じて目指しているのは、最高の顧客体験を実現し、もっと便利な世の中をつくることです。トラック事業者の効率化だけを追求するのではなく、あくまでもエンドユーザーの顧客体験の向上、社会の利便性の向上を最終目標に掲げています。会社設立後、新型コロナウイルス感染のパンデミックが起き、宅配、デリバリー需要が急速に高まりました。まだ会社として立ち上がったばかりで、後ろから急に追い風が吹き、必ずしも順調なスタートだったわけではありません。設立4年目を迎え、おかげさまで最近では、「フクオカベンチャーマーケット(FVM)大賞2024」の特別賞をいただいたり、デロイトトーマツが発表するテクノロジー企業成長率ランキングで1位を獲得するなど着実に成長してきています。

 

ラストマイル物流でソリューションを提供

 ――もともと流通業のご出身だったそうですね。


 小嵜 29歳の時に関西の小売業傘下のEC子会社を立ち上げ、退社後、ECシステムを開発する会社を設立しました。その後、2013~17年にかけて中国・上海でリテールビジネスに携わり、そこでの体験がエニキャリのビジネスを立ち上げる源泉になっています。当時、中国ではものすごいスピードでキャッシュレス化が進んでおり、それに伴い流通が激変するのを現地で目の当たりにしました。なかでも目を奪われたのが、ラストマイル物流の急速な進化です。フードデリバリーがスタートし、まもなく飲食店だけでなく、スーパー、コンビニ、ドラッグストアから商品がすぐに消費者に届けられるのが当たり前の世界になりました。そこで作られた配送インフラが、その後、一般のeコマースサイトでも活用されるようになっていきます。たった数年の間に起きたこうした変化をライブで経験し、日本でも近い将来同じことが起きるに違いないと確信しました。16年から東海大学で客員教授を務め、そうした〝予測〟を積極的に発信し続けていたところ、「それなら先んじてビジネスを立ち上げようじゃないか」と賛同する仲間が集まり、エニキャリが設立され、私が代表に就くことになりました。

 

ラストマイルの3形態を一元管理

 
 ――ほしい物がすぐ届くのはたしかに便利ですが、コロナ禍以前から「宅配クライシス」と言われていたように、ラストマイル分野でも担い手が不足しています。こうした課題に対し、御社では「IT」と「リアルな配達網」の両方をソリューションとして提供しています。まずITのソリューションについてお聞かせいただけますか。


 小嵜 当社がフォーカスしているのが、フィジカルインターネットです。フィジカルインターネットの定義は幅広いのですが、当社は、「販売情報、配送リソース情報、拠点(倉庫)情報の3つの情報を可視化し、その都度最適な配送ルートを計算し、物を届ける」と定義し、それを実現するインフラ構築を目指しています。ラストマイル物流には、「店舗から直接顧客に届ける」「倉庫からの宅配」「納品などの自社配送」――の3つの形態があります。この3形態の配送をすべて一元的に管理できるシステムがないため、宅配や自社配送の〝ついで〟に、「A店からBさんに届けてほしい」という他社から依頼があっても〝ついで〟に対応する術がありません。当社の配送管理システムはラストマイルの3形態を一元的に管理し、配送ルートと配送にかかる時間を計算することで、〝ついで〟の配達をマッチングして組み込み、効率化しながら売り上げを増やすことができます。

独自の配送管理システム「ADMS」

 ――ひとつのオーダーに対し、最も効率的な方法で届ける仕組みを実現するのが、独自の配送管理システム「ADMS(アダムス)」ということですね。


 小嵜 「ADMS」はルート配送とオンデマンド配送を統合した効率的なラストマイル配送管理システムです。配達員が今どこにいるのか、何の荷物を運んでいるのか、どこに向かっていていつ荷物が届くのか――すべて可視化できています。単に可視化するだけでなく、アプリで配送を依頼し、「置き配」時の対応の指示や配送先情報、いわゆる軒先情報もアプリで提供できるようになっています。荷主企業が「ADMS」のに配送依頼データを入力すると、倉庫で配送伝票が出力され、システム上で配車計画、ルートの算出をその都度行います。ドライバーはアプリにログインするだけで配送する荷物と順番が指示され、それに従って配送を行えば時間どおりに配送が完了するようになっています。お客様の側では何時に荷物が到着するかがわかり、コールセンターや営業も同じ情報をリアルタイムで把握することができます。


 なお、配送管理システムにおいて配車計画やルート作成機能は重要ですが、それは一側面にすぎません。「ADMS」は、配車やルートを計画するアルゴリズムが優れている点でだけではなく、その「網羅性」が評価されています。最短のルートを計画しても、到着したビルで入口を探すのに5分もかかってしまったら、意味がありません。「ADMS」では、たとえば大きなビルだと、配送員の入り口として指定されている防災センターにピンが立つように最初から設計されています。

 

日本最大の配送ネットワーク整備


 ――もうひとつのソリューションである実際の配送サービスについてですが、そのような経緯で始まり、どういう仕組みで提供しているのでしょうか。


 小嵜 「ADMS」をEC事業者や店舗など荷主企業に提供していく中で、「自社で配送リソースを持っていないので、エニキャリさんに配送もお願いしたい」「配送の外注先を広げたい」といった要望が当社に寄せられるようになりました。配送リソースの提供は2パターンあり、ひとつは都市部を中心とした二輪車による店舗配送、もうひとつが軽貨物自動車による倉庫からの配送です。配送ネットワークには大手フードデリバリー、新聞配送、大手物流企業傘下の軽貨物など多様な業態が参加し、二輪車では自社の配送チームも有しています。


 「ADMS」で配送依頼を受け付け、配送ネットワークの中から、最適な配送リソースをマッチングさせて提供します。当社の配送サービスの特徴は、「車単位」でなく「オーダー単位」で最適な配送リソースとマッチングし、かつ、マッチングしておしまいではなく、配達完了データまでリアルタイムで荷主企業にお渡しできることです。日本最大の配送ネットワークであると自負しており、現在、二輪車のネットワークは47都道府県の主要都市をカバーし、人口網羅率は80%程度です。軽貨物の配送ネットワークについては、関東、関西の中心部、福岡市内をカバーし、半年後には愛知県全域をカバーできる体制とします。

二輪車(上)と軽貨物の配送ネットワーク

 ――ITと配送サービスの2つのソリューションにより、有数の荷主企業と取引が広がっています。


 小嵜 日本マクドナルド様では、マックデリバリーサービスで「ADMS」を導入しています。お客様から注文が入ると当社のサーバーに配送依頼データが送られ、どの店舗に何人配達員がいて、どの配達員に配達をお願いするか、バイクと自転車とどちらがいいか、どの配送パートナーにお願いするか――をすべて自動で差配します。マックデリバリーは世界共通のシステムがあるのですが、複雑な計算をリアルタイム行える技術面を評価いただき、日本だけは「ADMS」で運用しています。


 配送サービスでは、大手コンビニや外食など多方面に取引が拡大しています。月間15~20万個、年間で200万個ほど配送していますので、物流DX会社の実配送個数としては最大規模ではないかと思います。自社でも配送を行っているからこそ、オペレーション設計やオペレーションサポートも行うことができるのも強みです。荷主企業は「ADMS」を利用することで配送の可視化により物流最適化を実現するとともに、全国の配送ネットワークの利用が可能になるメリットがあります。


 新たな取り組みとしては、7月29日からJR九州商事と連携し、観光客向けに手荷物当日配送を開始しました。博多駅でスーツケースやボストンバッグ、手土産品などの手荷物を預かり、福岡市中心部のホテルへ当日配送するもので、専用のスマホサイトはインバウンド向けに多言語対応しています。第2弾、第3弾も検討しており、インバウンドの拡大により手荷物配送は今後も伸びが期待できます。

福岡では手荷物配送を開始

 ――エニキャリを使えば、物流の効率化と配送リソースの確保の両方が可能になるということですね。ラストマイル分野からBtoB分野にもソリューションの範囲を拡大していく計画があるとか。

 

 小嵜 現在、大手メーカーや大手流通企業など複数社に「ADMS」の導入を検討いただいています。当社としてBtoB分野にも今後進出していくこととなります。BtoB分野の多くの企業ではすでに配送動態管理を行っていますが、配送データとの紐づけができていないため、どこにドライバーがいるかは把握できても、何の荷物を運んでいて、いつその荷物が届くかを把握できていないことがほとんどで、効率化が進んでいません。配車計画、配送ルートを策定する際に、動態管理と配送情報の紐づけが可能な「ADMS」がこうした課題を解決できると考えています。

 

 たとえば、納品配送であるエリアで取引先が50社あり、1日平均30社に配送があるとします。毎日同じルートで回るのでなく、その日のオーダーによってルート変えた方がもっと効率的です。また、配送エリアやコースを単純に市区町村ごとに分けてドライバーを固定で担当させている企業も多いと思いますが、配送量やドライバーのエリア習熟度を考慮して柔軟に変更できるようになれば、トラックの運行台数の削減や積載率向上につながります。


 BtoBの領域に進出するにあたって、色々な企業をヒアリングさせていただきましたが、配送の現場で起きている問題の情報が、管理する側、経営層まで伝わっていないと感じました。PDCAのサイクルがほとんど回っておらず、とくに「C(チェック)」が機能していません。現場の方は日々の配送業務に追われ、どういった情報を上に上げたらいいかわからない。このため中間の管理者や経営層に情報が上がっていかない――というわけです。配送を可視化する、つまり配送データを蓄積し、ファクト情報をドライバーも管理者も経営層も全員でみられるようにすることで、何を改善すればいいかがわかるようになります。


サプライチェーン全体の可視化に挑戦


 ――最後に今後の展望をお聞かせください。


 小嵜 コロナ禍で始めたクイックデリバリー、そこからEC宅配、自社配送に拡大し、販売物流の最適化はほぼ形が見えています。ソリューションの提供範囲を生産物流、調達物流に広げ、3年後、遅くても5年後にはサプライチェーン全体の可視化に挑戦する会社に成長したいと考えています。物流リソースの提供では、現状は軽貨物、二輪車のみですが、倉庫や幹線も加えたネットワークをつくりはじめています。


 AIの活用も進めていきます。「ADMS」の配車、ルートの策定において、AIとヒューリスティック解析を組み合わせることで、一定の確度を持ったAIの回答を参考に、より高速に最適な回答を導くことができるようになると考えています。米国では「サプライチェーン4.0」として、AIを活用した顧客起点のサプライチェーンを構築しようという動きが始まっています。5年後には間違いなく日本にもこの考え方が入ってくるでしょう。5年後にサプライチェーンの可視化に取り組む会社になっているかどうかが、当社が世界に打って出られる会社になれるかどうかの分かれ目だと思っています。

 

小嵜 秀信(こさき・ひでのぶ)
 1971年2月28日生まれ、立命館大学文学部東洋史学科卒。大手小売企業のEC事業子会社代表を務めた後、ECシステム会社、中国でのチェーンストア事業および越境EC事業の代表を歴任。現在はエニキャリ代表とともに、東海大学総合社会科学研究所eコマースユニットの客員教授を務める

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