カーゴニュース 2024年12月24日 第5303号
オンライン特別編集「10月8日」は通関業の日
作業の生産性の悪化や働き方改革に伴うコスト増などを背景に、「通関業務料金の値上げが必要である」と感じている事業者は96%にのぼることが、名古屋通関業会(柘植要理事長)のアンケート調査でわかった。一方で、約7割の事業者は荷主に対して値上げ交渉に踏み切れないなど価格転嫁が進んでいない。現行の通関業務料金の水準では採算が合わず、「2024年問題」のように行政からの支援や、通関業務料金の「下限額」を定める制度の導入を求める声も聞かれた。
人件費上昇などでコスト増、利益は大幅減少
通関業務料金は1995年に最終改定され、2017年10月には通関業法の改正により、上限額が撤廃され、料金の自由化が行われた。しかし、その後も通関業務料金のマーケットレートは旧上限額が維持されており、適正料金となっていない。
通関業務料金の原価はほとんどが人件費だが、最低賃金ベースで1995年と2024年を比べると、全国平均で173%上昇。さらに、昨今は人件費が急上昇しているにもかかわらず、通関業務料金にはほとんど転嫁できていない。
業務のシステム化により効率化も一部では図られているが、EPA(経済連携協定)等新たな制度への対応や実質的人件費の増大で申告1件あたりのコストが上昇し、通関業務料金が上がっていないため通関業としての利益は大幅に減少している。
物流実態の変化に伴い、他の収益源でのカバーも難しくなっている中、「通関事業は儲からない」とあきらめの声も聞かれ、「儲からない事業に携わっていることから、通関業務の仕事に誇りを感じられない、モチベーションが上がらない」との声もある。
価格転嫁やサプライチェーン上の適正取引をめぐっては、公正取引委員会と中小企業庁が昨年11月、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を促進するため、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表。
名古屋通関業会では会員にこの指針の存在を認知してもらうとともに、会員の現状認識を把握し、課題等を洗い出すため、7月12日~8月9日にかけて会員166者(本社・営業所)を対象にアンケートを実施。回収率は44・6%だった。
7割は「ほとんどの荷主で値上げ認められず」
通関業務料金の水準では、92%の事業者が「旧上限額より高い料金を適用している荷主はほとんどない」と回答。旧上限額が最後に改定されてから29年が経つが、当時と比べ通関業務料金が「変わらない」または「(どちらかというと)下がっている」と回答した事業者も92%にのぼった。
通関業務料金の値上げの必要性を聞いたところ、「多く(または一部)の荷主に対して値上げが必要」とする事業者は96%に達した。理由としては、人件費の上昇、作業生産性の悪化、働き方改革に伴うコスト増加などが挙がっている。
作業生産性の悪化要因は、「申告1件あたりのアイテム数の増加」「EPA・FTAによる適用税率の複雑化、対象国の拡大」「該非チェックが必要な他法令の増加・厳格化」「AEO事業者として求められる基準に対応するための通関業務の厳格化」等だった。
値上げ交渉の実施状況では、「実際に値上げ交渉に踏み切れた荷主はほとんどいない」と回答とした事業者は69%。その理由としては「取引停止や縮小が懸念されるため」「同業他社が値上げしないため」「旧上限料金が相場として認知されているため」などが挙がった。
さらに、「値上げを認めてもらえた荷主はほとんどいない」と回答した事業者も72%と7割にのぼった。値上げが認められたケースでも、「要求額の20%未満の値上げしか認められない」とした事業者が77%を占めていた。
通関業務従事者の賃金については、通関業務料金が上がっていない状況でも「ベースアップを行っている」との回答が74%。一方で、「現在の賃金が十分な水準だと(どちらかというと)思わない」と考えている事業者は64%だった。
他社への乗り換えなど荷主から不利益な取り扱いも
公取委と中企庁の指針公表後の値上げ交渉についても聞いた。「多く(または一部)の荷主において労務費の価格転嫁の方針を経営トップが定め、社内外へ発信している」と感じている事業者は50%を占めた。しかし、「定期的な労務費の転嫁に関する協議の場を設けている荷主はほとんどいない」と回答した事業者は77%にのぼった。
労務費の上昇を理由に通関業務料金の値上げを求めた際、「多くの荷主が協議のテーブルについてくれた」と回答した事業者は35%にとどまった。値上げを求めた際の「荷主から受けた不利益な取り扱い」の事例としては、他社への乗り換えや、取扱量の減少のほか、「値上げを申し入れていない他の通関業者を起用する旨の発言」も報告された。
このほか自由意見としては、通関業務料金の「下限額」を定める制度の導入提案や、インボイスを集約した申告の基準の明確化、物価上昇を加算できる仕組みなどが挙げられたほか、行政や通関業会の支援、国への働きかけなどを期待する声もあった。
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