カーゴニュース 2025年10月21日 第5380号
全日本トラック協会(寺岡洋一会長)は15日、第30回全国トラック運送事業者大会を新潟市で開催し、全国から1300人超が参加した。「トラック適正化二法施行に向けての期待」をテーマにシンポジウムが行われ、同法への対応を展望した。
寺岡会長(由良陸運)は、自民党総裁選、公明党が連立政権離脱に至った政治情勢に触れ、「(大臣ポストに長年公明党が就いていた)国土交通省がどうなるのか大変危惧している。現在、国交省は全ト協も含めてワンチームとしてトラック業界に真摯に寄り添っていただいている。どんな政局になっても国交省とのいまの関係をしっかり維持していきたい」と表明。「政治関係のことは坂本克己全ト協最高顧問にお任せすることとしており、その人脈、政治力、突破力により、うまくさばいてくれることを期待したい」と語った。
全ト協は7月の理事会で新体制となり、3つの新しい委員会を立ち上げ、このうちトラック適正化二法対策委員会は寺岡会長が委員長を務めている。同法について「奇跡的なスピード感を持って全会一致で可決し、議員立法として法制化していただいた。すばらしい中身の法律であり、3年後には実現にこぎつけると明記されている。実現に向けて全力で取り組み、実現した暁には業界の景気も変わる」と期待を寄せた。
石油販売業者のトラック事業者への軽油販売に関するカルテル疑惑にも言及し、「徹底的に解明し、二度とこのようなことが起きず、トラック事業者が適正な価格で軽油を購入できるよう膿を出し切ってほしいと公正取引委員会にお願いした」と報告。また、全ト協の運営方針として、「会員ファースト、業界ファーストをど真ん中に、ぶれることなくかじ取りしていくので、一層の温かいご支援をお願いしたい」と呼びかけた。
開催地ブロックを代表し、北陸信越ブロックトラック協会の小林和男会長(全ト協副会長・総務委員長)は「北陸信越ブロックが事業者大会を担当するのは今回で3回目となる。この事業者大会が30回を迎えるまで継続開催できているのは、会員事業者の皆様がトラック業界のさらなる発展のために様々な活動を実現してきたからであり、誠に喜ばしいことだ。トラック運送業界を取り巻く環境は厳しいが、事業者大会を通じて諸課題をあらためて再認識することが重要だ。その克服に業界を挙げて取り組み、広く荷主や一般社会に現状を周知し、業界全体が前進するよう努めていきたい」と述べた。
適正化二法の目的忘れず主体性を持って対応を
シンポジウムでは、国土交通省物流・自動車局の三輪田優子貨物流通事業課長、読売新聞東京本社の佐々木達也編集委員、全国交通運輸労働組合総連合(交通労連)の織田正弘中央執行委員長、日本PMIコンサルティングの小坂真弘代表取締役、全ト協の小林副会長・総務委員長(中越運送)がパネリストとして登壇。流通経済大学流通情報学部の大島弘明教授がコーディネーターを務めた。
まず大島氏がトラック適正化二法の概要を説明。小林氏は業界の立場から、「『ドライバーの適切な賃金の確保』と『トラック運送業界の質の向上』という、トラック適正化二法の目的を忘れないようにすることが最も大事」と強調。「業界自身が主体性を持って対応していかなければならない。ボールは我々の側に投げられている」との認識を示した。また、織田氏は、トラックに先行して貸切バス業界で導入されている事業更新制に触れ、「(市場からの)退出率は16・5%で、事業を更新できた事業者は収益が改善し、安全性も向上している。法律の実効性は担保できている」と評価した。
小坂氏は、適正原価と標準的な運賃の相違点を解説。適正原価は義務であり、行政指導や荷主への是正指導という罰則があり、水準は「下限ライン」であることを説明。適正原価には、継続的に事業を行うための「投資の原資」が含まれていることを確認した。佐々木氏は、物価上昇は悪ではなく、経済を正常化するという観点から、「物流においても運賃の値上げが悪いことではないということを理解してもらうには、価格転嫁した分をドライバーの賃金に反映することが不可欠」と提言した。
三輪田氏は適正原価の策定に向け、今年度下期に実態調査を行い、来年度に検討会を立ち上げる構想を説明し、「どのような哲学でつくるのか、最低ラインにするのか、高みを目指すのか、目指すとしたらどのくらいのレベルにするのか」を課題として提起。検討にあたっては、荷主や消費者の目線も必要と指摘した。小林氏も、「適正原価がどの程度の幅で、現状とどの程度ギャップがあるのか、どの程度ならお客様が許容できるのかが問題だ」とし、導入に先立ち、いまから価格交渉の基礎固めをしていく必要があるとした。小坂氏は「現状、事業者間で標準的運賃の活用のレベル感が異なっている。原価計算をし、荷主との信頼関係を構築していくことが、適正原価が導入された時に確実に役立つ」と強調した。
また、努力義務である下請け次数制限について三輪田氏は「川上の荷主、元請け事業者と、実運送を担う中小のトラック事業者がどうつながり、下請け次数を二次までに圧縮できるかが論点」とし、事業協同組合を活用した共同輸送の可能性を展望した。織田氏は、下請け次数制限について「運べない事態、配車できない事態は防ぎたい。時には、三次、四次になってしまうことがあっても、業界全体としてプラットフォーム化し、効率的に荷物、車両を持ち寄るべき」と提案した。
記念講演会では、新潟日報社の小田敏三相談役が「2025年これからの地方創生」をテーマに講演。「『地産地消』ではなく、地方がお互いにあるものを認め合い、活かし合う『互産互消』、人口減少に合わせた『たたみ方』も考えないといけない。創成の『創』は絆創膏の『創』であり、生傷が絶えないもの」と持論を述べた。
全体会議を再開し、大会決議を読み上げた後、来賓の国交省の石原大物流・自動車局長が「トラックは全国で昼夜を問わず、日々安全・確実に荷物を届け、この国の暮らしと経済を支えている。相次ぐ自然災害からの復旧・復興を支えている皆様に敬意を表するとともに、感謝を申し上げる」と挨拶。また、花角英世新潟県知事も登壇し、歓迎の意を表した。最後に参加者全員でガンバローコールを行い、業界の結束を誓い合った。
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